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プロが教える年末調整 その7 各種控除や年末調整に際しての留意点とそのQ&A

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プロが教える年末調整「年末調整のあらましとチェックポイント」
その1 年末調整とは   
  1 年末調整の概要 
  2 年末調整が必要な理由 
  3 年末調整の対象者 
  4 年末調整を行う時期
その2 Q&A「年末調整の対象者・年末調整の実施時期等」
  1 外国人社員と年末調整 
  2 海外出向社員の年末調整 
  3 雇用保険の失業給付を受けていた社員の年末調整 
  4 前職の源泉徴収票が提出できない者の年末調整 
  5 扶養控除を受けるために退職するパートタイマー 
その3 年末調整の手順・事務の概要とその具体例 
  1 年末調整の手順と事務の概要 
  2 年末調整の具体例(甲さんの場合) 
その 4 年末調整の手順・事務の概要とその具体例 とQ&A
  1 扶養控除 
  2 配偶者控除及び配偶者特別控除 
  3 扶養控除・配偶者(特別)控除Q&A 
その 5 扶養控除・配偶者(特別)控除のQ&A(続き)
その 6 各種保険料控除の概要とQ& A 
  1 生命保険料控除 
  2 地震保険料控除 
  3 生命保険料控除・地震保険料控除 Q&A
その 7 各種控除や年末調整に際しての留意点とそのQ & A  
  1 社会保険料控除 
  2 住宅借入金等特別控除 
  3 中途採用者の年末調整
  4 年末調整の具ための申告とマイナンバーの記載 

その7 「年末調整のあらましとチェックポイント」

 これまで年末調整の基本手順や各種人的控除及び保険料控除の概要等について説明してきました。本稿は最終稿となりますが、本稿ではシリーズ1から6に掲げた年末調整以外の留意点をQ&Aに示して紹介します。

Ⅰ 社会保険料控除

 給与の支払を受ける人が、本年中に、社会保険料が給与から差し引かれている場合や、その人又はその人と生計を一にする配偶者その他の親族が負担すべき社会保険料を直接その人が支払っている場合には、その社会保険料の全額を社会保険料控除として、その人の給与所得の所得金額から控除することができます。

 この社会保険料のうち、健康保険や厚生年金保険、雇用保険の保険料のように、給与から天引きされた社会保険料は、特別な手続きを要しないで、その1年間の合計額を年末調整の際に控除できますから、年末調整の準備はその差し引いた金額を集計するだけで済みます。

 しかし、国民健康保険や国民年金などの保険料や保険税、掛金のように、天引きではなく給与所得者本人が直接自分で支払っている社会保険料は、その人の申告に基づいて控除することになっていますから、給与の支払者は、年末調整を行う時までに「給与所得者の保険料控除申告書」の提出を受けて、その直接支払っている社会保険料の金額を記載内容から確認しなければなりません。

 なお、社会保険料控除は、生命保険料控除や地震保険料控除のような控除額の上限がなく、給与から差し引いた金額と直接所得者本人が支払った金額の全額が所得金額から控除されることになっています。

<Q&A 子供のために支払った国民年金保険料>

Q 私の長男は大学卒業後、資格試験の合格をめざして勉強中で収入はほとんどありません。このため私の扶養親族として申告していますが、本人の将来のため国民年金に加入し、保険料は私の収入から支払っています。このような場合、私の勤務先に社会保険料控除を受けるための申告をしてよいものでしょうか。

A 給与所得者自身と生計を一にする配偶者その他の親族が被保険者となっている社会保険については、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する給与所得者自身が支払ったものでなければ、社会保険料控除の対象とはなりません。

 これらの親族が被保険者又は世帯主として負担することとなっている国民健康保険の保険料、国民健康保険税、介護保険料などを、これらの親族に支払能力がないためなどにより、給与所得者自身が代わって払っている場合には、その支払った社会保険料は控除の対象になることとされていますので、質問のケースも控除の対象となると思われます。

 なお、申告により控除する社会保険料のうち国民年金法の規定により被保険者として負担する国民年金の保険料及び国民年金基金の加入者として負担する掛金については、「給与所得者の保険料控除申告書」にその保険料等を支払ったことを証明する書類を添付又は提示する必要がありますので注意してください。

Ⅱ 住宅借入金等特別控除

 個人が住宅の取得等をして、その居住の用に供した場合において、その人が住宅借入金等を有するときは、その居住の用に供した日の属する年以後10年間(平成19年1月1日から平成20年12月31日までの間に居住の用に供した場合は15年間を選択可。また、消費税等の税率が10%である住宅の取得等をした場合については13年間)の各年のうち、合計所得金額が、3000万円以下である年については、その住宅借入金等の年末残高の合計額を基としてそれぞれ一定の控除率により計算した金額を住宅借入金等特別控除額として、その年分の所得税の額から控除されることとされています。

<Q&A 年末調整による住宅借入金等の控除>

Q 私は、銀行及び住宅金融公庫から借入れを受け、住宅を新築取得し、昨年4月から住んでいます。本年3月の確定申告によって1年目の住宅借入金等特別控除を受け、2年目である本年は、年末調整で控除を受けたいと思いますが、どのような手続きをすればよいのでしょうか。

A  住宅借入金等特別控除は、最初の年については確定申告によってのみ控除が受けられることになっていますが、2年目の令和元年分については、税務署長が発行する「令和1年分 年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書」と同一の用紙に印刷された「令和1年分 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」を年末調整の時までに、給与の支払者に提出することによって、年末調整で控除を受けることができます。

 この控除を受ける場合には、上記の申告書に銀行等の発行する「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」の添付が必要とされています。

Ⅲ 中途採用者の年末調整

<Q&A 前職の源泉徴収票のない者の年末調整>

Q 4月に中途で採用した従業員Xがいます。Xは当社に就職する前の1月から3月までは別の会社に勤務し、そこから給与等をもらっていたというので、その間の給与等を含めて年末調整をしようとしたのですが、Xの前の勤務先は倒産してしまっていることから源泉徴収票の交付が受けられない状態とのことです。源泉徴収票がない以上、年末調整を行うことはできないことになるのでしょうか。

A 年の中途で就職した人で、その就職前に他の給与等の支払者に扶養控除等申告書を提出し支払をうけていた給与等がある人については、その前職分の給与等を含めて年末調整を行うことになります。

  「給与所得の源泉徴収票」は、前職分の給与等の金額や徴収税額等を確認する上で最も一般的な書類として用いられているかと思いますが、前職分の給与等を含めて年末調整を行う場合において絶対的に必要なものというわけではありません。
 
  質問の場合、やむをえない事情があると認められますので、給与等の支払明細書などでXさんの前職分の給与等の金額や徴収税額等について確認ができるのであれば、その給与等の支払明細書などを基に年末調整を行って差し支えないものと思われます。この場合は、実際の確認方法などを記録に残しておく必要があると思われます。

Ⅳ 年末調整のための申告とマイナンバーの記載

1 マイナンバーと年末調整事務

(1)「給与所得者の扶養控除等申告書」への番号記載

   給与の支払者は、平成28年1月以後、給与の支払を受ける人から給与の支払を受ける本人のマイナンバー及び控除対象となる配偶者及び控除対象扶養親族等のマイナンバーが記載された「給与所得者の扶養控除等申告書」を受理する必要があります。

   なお、平成29年1月1日以後に支払いを受けるべき給与等については、給与等の支払者に対して「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出をする場合において、その支払者が、その申告書に記載すべき提出者本人、控除対象となる配偶者、扶養親族等のマイナンバーその他の事項を記載した帳簿を備えているときは、その提出者は、その申告書に、その帳簿に記載された方のマイナンバーの記載を要しないこととされています。

(2) 本人確認の実施

   給与の支払者が給与の支払を受ける人からマイナンバーの提供を受ける場合は、本人確認として、提供を受ける番号が正しいことの確認(番号確認)と、番号の提出をする者が真にその番号の持ち主であることの確認(身元確認)を行う必要があります。

  なお、給与の支払者が本人確認を行う必要があるのは、マイナンバーの提供を行う給与の支払を受ける人本人の分のみとなり、控除対象となる配偶者や控除対象扶養親族等のマイナンバーに係る本人確認は、給与の支払者ではなく、給与の支払を受ける本人が行うこととなります。

(3) 源泉徴収票への番号記載

   平成28年1月以後の支払に係る、税務署に提出する「給与所得の源泉徴収票」には、給与の支払を受ける本人、控除対象となる配偶者及び控除対象扶養親族等のマイナンバー並びに給与の支払者のマイナンバー又は法人番号を記載する必要があります。

   ただし、給与の支払を受ける人に交付する「給与所得の源泉徴収票」には、給与の支払を受ける本人、控除対象となる配偶者及び控除対象扶養親族等のマイナンバー並びに給与支払者のマイナンバー又は法人番号を記載する必要はありません。

2 マイナンバーに係るQ&A

<その1 今年の年末調整とマイナンバー>

Q 当社では、昨年11月に、「平成31年(2019年)分給与所得者の扶養控除等申告書」の提出を受けた際に、従業員及び扶養親族等のマイナンバーを記載してもらっています。この場合に、今年提出を受ける「令和2年給与所得者の扶養控除等申告書」にも従業員のマイナンバーを改めて記載してもらう必要があるのでしょうか。

A 「給与所得者の扶養控除等申告書」には、従業員本人、控除対象となる配偶者及び控除対象扶養親族等のマイナンバーの記載が必要です。

  このマイナンバーの記載については、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出の都度、その申告書に記載していただく必要がありますので、「平成31年(2019年)分 給与所得者の扶養控除等申告書」にマイナンバーが記載されている場合であっても、「令和2年分 給与所得者の扶養控除等申告書」にも従業員等のマイナンバーを記載してもらう必要があります。

  ただし、給与支払者が一定の帳簿を備え付けしている場合には、その帳簿に記載されている方のマイナンバーは記載しなくてもよいこととされていますので、貴社において所定のナイナンバーに関する確認帳簿を備えているということであれば、今年分につては記載不要となります。

<その2 マイナンバーの記載を拒まれた場合>

Q 従業員から「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出を受ける際に、従業員がマイナンバーを記載を拒んだ場合はどうすればよいですか。

A まずは従業員に対し、マイナンバーの記載は、法律で定められた義務であることを説明し、マイナンバーを記載することへの理解を求めていただく必要があると考えられます。

  それでもなお、記載してもらえない場合は、記載されていないことが単なる義務違反でないことを明確にするため、記載を求めた経過等を記録、保存するなどしておくことをお勧めします。
 
 また、「給与所得者の扶養控除等申告書」に従業員のマイナンバーの記載がない場合であっても、扶養控除等の適用の可否を判断するために必要な事項が記載されていれば、申告書が提出されたものとして税額計算を行って差し支えないこととされています。

執筆者情報

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税理士 小畑 孝雄

昭和41年東京国税局入局、国税庁法人税課、国税不服審判所勤務等を経て平成16年東京国税局法人課税課長、18年同調査第2部長を歴任し19年退官、税理士登録(日本橋支部所属)

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2019.11.15 10:21:39