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プロが教える年末調整 その4 扶養控除・配偶者(特別)控除の適用要件とその具体例

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「年末調整のあらましとチェックポイント」
その1 年末調整とは   
  1 年末調整の概要 
  2 年末調整が必要な理由 
  3 年末調整の対象者 
  4 年末調整を行う時期
その2 Q&A「年末調整の対象者・年末調整の実施時期等」
  1 外国人社員と年末調整 
  2 海外出向社員の年末調整 
  3 雇用保険の失業給付を受けていた社員の年末調整 
  4 前職の源泉徴収票が提出できない者の年末調整 
  5 扶養控除を受けるために退職するパートタイマー 
その3 年末調整の手順・事務の概要とその具体例 
  1 年末調整の手順と事務の概要 
  2 年末調整の具体例(甲さんの場合) 
その 4 年末調整の手順・事務の概要とその具体例 とQ and A
  1 扶養控除 
  2 配偶者控除及び配偶者特別控除 
  3 扶養控除・配偶者(特別)控除Q&A 
その 5 扶養控除・配偶者(特別)控除のQandA(続き)
その 6 各種保険料控除の概要とQ and A (11月14日公開予定)
その 7 各種控除や年末調整に際しての留意点とそのQ and A(11月14日公開予定)

その4 扶養控除・配偶者(特別)控除の適用要件とその具体例

 年末調整のベースとなる年税額の計算に当たっては、扶養控除や配偶者に係る控除、そして障害者控除などの各種の人的控除が受けられるかどうかの要件を確認し、正しく控除額の計算を行う必要があります。これらの各種の人的控除の概要・適用要件などについて具体例によるQ&Aなどをまじえて説明します。

Ⅰ 扶養控除

1 概要

 控除対象扶養家族に該当する親族、里子又は養護老人のいる人は、控除対象扶養親族の数に応じ、次により計算した金額の控除が受けられます。

① 一般の控除対象扶養親族については、1人につき…………………38万円
② 特定扶養親族については、1人につき………………………………63万円
③ 同居老親等以外の老人扶養親族については、1人につき…………48万円
④ 同居老親等については、1人につき…………………………………58万円

2 適用要件

① 控除対象扶養親族
 控除対象扶養親族とは、扶養親族のうち、年齢16歳以上の人(平成16年1月1日以前に生まれた人)をいいます。
 
② 扶養親族
 扶養親族とは、本年12月31日(年の中途で死亡した人については、死亡の時)の現況において、給与の支払を受ける人の親族(配偶者を除きます。)、児童福祉法の規定により里親に養育を委託された児童、及び老人福祉法の規定により養護受託者に養護を委託された老人で、給与の支払を受ける人と生計を一にする人のうち、合計所得金額が38万円以下の人をいいます。

③ 特定扶養親族
 特定扶養親族とは、控除対象扶養親族のうち年齢19歳以上23歳未満の人(平成9年1月2日から平成13年1月1日までの間に生まれた人)をいいます。

④ 老人扶養親族
 老人扶養親族とは、控除対象扶養親族のうち年齢70歳以上の人(昭和25年1月1日以前に生まれた人)をいいます。

⑤ 同居老親等
 同居老親等とは、老人扶養親族のうち給与の支払を受ける人又は配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で、その給与の支払を受ける人又はその配偶者(以下「所得者等」といいます。)のいずれかとの同居を常況としている人をいいます。

Ⅱ 配偶者控除及び配偶者特別控除

1 概要

(1)配偶者控除

 配偶者控除とは、所得者(合計所得金額が1000万円以下の人に限ります。)が控除対象配偶者を有する場合に、その所得本人の所得金額の合計額から38万円(配偶者が老人控除対象配偶者の場合は、48万円)を限度として、所得者の合計所得金額に応じた金額を控除するというものです。なお、配偶者の合計所得が38万円を超えるときは、配偶者控除の適用は受けられません。

(2)配偶者特別控除

 配偶者特別控除とは、所得者(合計所得金額が1000万円以下の人に限ります。)が生計を一にする配偶者(合計所得金額が123万円以下の人に限ります。)で控除対象配偶者に該当しない人を有する場合に、その所得者本人の所得金額の合計額から38万円を限度として、所得者の合計所得金額と配偶者の合計所得金額に応じた金額を控除するというものです。なお、配偶者の合計所得金額が38万円以下であるとき又は123万円を超えるときは、配偶者特別控除の適用は受けられません。

2 適用要件に係る留意事項

① ここでいう「配偶者」には、他の所得者の扶養親族とされる人、青色事業専従者は含まれません(次の「配偶者特別控除とは」の場合も同様です。)。

② 控除対象配偶者とは、同一生計配偶者(所得者と生計を一にする配偶者(青色事業専従者等を除きます。)で、合計所得金額が38万円以下の人をいいます。)のうち、合計所得金額が1000万円以下である所得者の配偶者をいいます。

③ 老人控除対象配偶者とは、控除対象配偶者のうち、年齢70歳以上の人(昭和25年1月1日以前に生まれた人)をいいます。

④ 年の中途で配偶者と死別し、その年中に再婚した所得者の配偶者控除は又は配偶者特別控除の対象となる配偶者は、死亡した配偶者か再婚した配偶者のいずれか一人に限られます(配偶者特別控除の場合も同様です)。

Ⅲ 扶養控除・配偶者(特別)控除Q&A

<その1…合計所得金額38万円以下の要件に係る具体例>

Q 社員A~E(いずれも給与収入は1220万円以下)の配偶者や親族には以下に掲げる収入があるということですが、それぞれについて配偶者控除や扶養控除の所得要件である「合計所得金額が38万円以下」かどうかを判定する際、どのように考えたら良いのでしょうか。

社員A…配偶者にパート収入100万円あり、他に収入なし。
社員B…扶養している母親(78歳)に年金収入130万円あり、他に収入なし。
社員C…配偶者に内職収入が80万円あり、他に収入なし。
社員D…配偶者に上場株式の配当収入50万円あり、源泉徴収だけで納税を了し確定申告はしない予定。他に収入はなし。
社員E…妻が株式売買を行っている。今年中に源泉徴収を選択した特定口座を通じた売買で65万円の利益を上げている。この利益については源泉徴収だけで納税を了し、確定申告を行わない予定。他に収入なし。


1 合計所得金額とは
 控除対象配偶者や扶養親族等に該当するかどうかを判定する場合の合計所得金額とは、次の合計額を言うものとされています。


① 純損失及び雑損失の繰越控除、居住用財産の買換え等の場合及び特定の居住用財産の譲渡損失の繰越控除を適用しないで計算した場合における総所得金額

② 上場株式等の配当等に係る配当所得について、申告分離課税の適用を受けることとした場合のその配当所得の金額(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算の適用がある場合には、その適用後の金額及び上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用がある場合には、その適用前の金額)

③ 土地建物等の譲渡所得の金額(特別控除前)先←取る

④ 一般株式に係る譲渡所得の金額又は上場株式等に係る譲渡所得の金額

⑤ 先物取引に係る雑所得の金額

⑥ 退職所得金額

⑦ 山林所得金額

 この「合計所得金額」には、所得税の課されない非課税所得に該当するものや、租税特別措置法の規定によって分離課税とされ、あるいは確定申告を要しないことを選択した次のような所得は含まれません。

① 利子所得のうち、源泉分離課税とされるもの及び確定申告をしないことを選択したもの

② 配当所得のうち、源泉分離課税とされるもの及び確定申告をしないことを選択したもの
 
③ 源泉分離課税される定期積立の給付補てん金等、懸賞金付預貯金等の懸賞金等及び割引債の償還差益

④ 源泉徴収選択口座を通じて行った上場株式等の譲渡による所得等で確定申告をしないことを選択したもの

2 質問のケースに対する回答

・社員A(配偶者にパート収入100万円あり、他に収入なし。←取る)の場合

 配偶者のパート収入は「給与所得」に該当します。給与所得の所得金額は給与の収入金額から給与所得控除額を控除した残額と定められています。給与所得控除額は最低65万円から給与の収入金額にスライドして定められています。Aさんの奥さんの収入100万円からは給与所得控除額の最低額の65万円が控除されますのでAさんの奥さんの給与所得金額は35万円(100万円-65万円)となり配偶者控除に係る合計所得金額38万円以下という要件を満たすことになります。

・社員B(扶養している母親(78歳)に年金収入130万円あり、他に収入なし)の場合

 年金収入は公的年金に係る雑所得に該当します。公的年金に係る雑所得の金額は収入金額から公的年金控除額を控除した残額と定められています。この公的年金控除額の金額は所得者の年齢と収入金額に応じて定められていますが、年齢65歳以上の所得者の場合は収入金額が158万円以下であれば、合計所得金額が38万円以下となります。したがってBさんの母親については扶養控除に係る合計所得金額38万円以下という要件を満たすことになります。

・社員C(配偶者に内職収入が80万円あり、他に収入なし)

 内職の収入は事業所得又は雑所得に該当します。事業所得又は雑所得の金額は、その年中の事業所得又は雑所得の収入金額から必要経費を控除した金額と規定されています。

 ただし、次のいずれにも当てはまる人については、必要経費については65万円(他の給与所得を有する場合には、給与所得控除額を控除した残額とし、事業所得又は雑所得の収入金額を超える場合は収入金額を限度とします。)の最低保障を認める特例制度が設けられています。

① 家内労働法に規定する家内労働者、外交員、集金人、電力量計の検針人その他特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする人
② 事業所得又は雑所得を有する人で、これらの所得の必要経費の合計額が65万円に満たない人

 この特例を受けることができる人については、例えば収入金額が内職による収入のみの場合は、年収103万円以下であれば、その年の合計所得金額が38万円以下となりますので、配偶者控除の適用が受けられることとなります。

 したがって、Cさんの場合、必要経費が65万円まで認められますので、配偶者の合計所得金額は15万円となり、控除対象配偶者となるための所得金額要件を満たすことになります。

・社員D(配偶者に上場株式の配当収入50万円あり。源泉徴収だけで納税を了し確定申告はしない予定。)

 控除対象配偶者となるためには、配偶者のその年の合計所得金額が38万円以下であることが必要となっていますが、この合計所得金額は、確定申告をしないことを選択した上場株式等の配当等は含まれないこととなっています。

 したがって、質問の場合には配偶者の合計所得金額は0円となりますので、控除対象配偶者となるための所得金額要件を満たすことになります。

・社員E(配偶者が株式売買を行っている。今年中に源泉徴収を選択した特定口座を通じた売買で65万円の利益を上げている。この利益については源泉徴収だけで納税を了し、確定申告を行わない予定。他に収入なし)

 源泉徴収を選択した特定口座を通じて行った上場株式等の譲渡による所得については、その年の譲渡所得等の金額から除外して確定申告を行うことができるとされています(いわゆる申告不要制度)。

 確定申告の対象としないことを選択した所得については、控除対象配偶者の判定の際の合計所得金額には含まれないこととなっていますので、質問の場合の配偶者の合計所得金額は0円となりますから、控除対象配偶者となるための所金額要件を満たすことになります。

その5 扶養控除・配偶者(特別)控除のQ&A続き に続きます

執筆者情報

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税理士 小畑 孝雄

昭和41年東京国税局入局、国税庁法人税課、国税不服審判所勤務等を経て平成16年東京国税局法人課税課長、18年同調査第2部長を歴任し19年退官、税理士登録(日本橋支部所属)

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2019.11.12 17:08:05