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プロが教える年末調整 その3 年末調整の手順・事務の概要とその具体例

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プロが教える年末調整「年末調整のあらましとチェックポイント」
その1 年末調整とは   
  1 年末調整の概要 
  2 年末調整が必要な理由 
  3 年末調整の対象者 
  4 年末調整を行う時期
その2 Q&A「年末調整の対象者・年末調整の実施時期等」
  1 外国人社員と年末調整 
  2 海外出向社員の年末調整 
  3 雇用保険の失業給付を受けていた社員の年末調整 
  4 前職の源泉徴収票が提出できない者の年末調整 
  5 扶養控除を受けるために退職するパートタイマー 
その3 年末調整の手順・事務の概要とその具体例 
  1 年末調整の手順と事務の概要 
  2 年末調整の具体例(甲さんの場合) 
その 4 年末調整の手順・事務の概要とその具体例 とQ&A
  1 扶養控除 
  2 配偶者控除及び配偶者特別控除 
  3 扶養控除・配偶者(特別)控除Q&A 
その 5 扶養控除・配偶者(特別)控除のQ&A(続き)
その 6 各種保険料控除の概要とQ& A 
  1 生命保険料控除 
  2 地震保険料控除 
  3 生命保険料控除・地震保険料控除 Q&A
その 7 各種控除や年末調整に際しての留意点とそのQ & A  
  1 社会保険料控除 
  2 住宅借入金等特別控除 
  3 中途採用者の年末調整
  4 年末調整の具ための申告とマイナンバーの記載 

その3 年末調整の手順・事務の概要とその具体例

1 年末調整の手順と事務の概要

年末調整事務の手順とその概要は以下のとおりです。

<第1> 給与の年間支給額の集計と給与から天引きされた源泉徴収税額及び社会保険料の集計…以下の2の具体例に掲げる甲さんの場合は次のとおり

  ① 給与(賞与や課税される現物給与等を含む)の年間支給額…5,870,000円
  ② 社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料等)      …836,820円

<第2> 配偶者控除や扶養控除などの各種人的控除の確認

 所得税の計算に当たっては、配偶者控除額や扶養控除額、障害者控除額などの各種の人的控除額が控除されます。これらの控除が受けられるかどうかは各人から提出される「扶養控除等申告書」や「配偶者控除等申告書」により確認することになります。また所得者本人については一律38万円の基礎控除が受けられることとされています…甲さんの場合は次のとおり
    
  ① 控除対象配偶者あり…控除額38万円
  ② 控除対象扶養親族1人…控除額38万円
  ③ 基礎控除…控除額38万円

<第3> 各種保険料控除額等の確認と控除額計算

 所得税の計算に当たっては、生命保険料、介護保険料そして地震保険料等に係る保険料控除額も控除されます。これらの控除の有無及び金額等については各人から提出される「保険料控除申告書」に基づいて確認・計算することになります…甲さんの場合の年間保険料の支払い状況は次のとおり
   
  ① 生命保険料の年間掛金(新生命保険契約) …50,200円
  ② 個人年金保険の年間掛金(新生命保険契約)…56,000円
  ③ 地震保険料            …45,000円

<第4> 給与所得に係る所得金額の計算

 給与所得に係る課税対象金額は収入金額そのものではありません。給与所得の場合課税対象となるのは給与の「収入金額」から一定の「給与所得控除額」を控除した残額が給与所得金額と規定されています。この控除される「給与所得控除額」は給与の収入金額等に応じた一定の金額と定められています。実務的には「令和元年分の年末調整のための給与所得控除後の給与等の金額の表」に年間給与の収入額を当てはめることによって自動的に給与所得控除後の「給与所得の金額」が求められることとなっています。

<第5> 給与所得の金額からの各種所得控除額の控除
 
 手順<第4>で求めた「給与所得の金額」から手順<第1>から<第3>までにより確認した「社会保険控除額」、「各種人的控除額」及び「生命保険料控除額等」の金額を控除して所得税の課税対象となる「課税給与所得金額」を求めます。

<第6> 正規の年間所得税額の計算

 手順<第5>で求めた「課税給与所得金額」に所得税率を乗じて所得税の金額を求めます。実務的には手順<第5>で求めた「課税給与所得金額」に「平成元年分の年末調整のための算出所得税額の速算表」の算式に従って計算します。

<第7> 復興所得税の加算
    
 手順<第6>で求めた年間所得税額の金額に復興所得税の税率10.21%を乗じて復興特別所得税を含む「年調年税額」を算出します。

<第8> 過不足額の精算

 手順<第7>で求めた「年調年税額」と手順<第1>で集計しておいたこれまでに支払われていた給与や賞与の額から源泉徴収されていた源泉徴収税額の合計額とを比べて過不足額を求めます。

源泉徴収税額の合計額の方が「年調年税額」より多い人については、その差額分だけ納めすぎとなっていますからその差額(過納額)は本人に還付します。

これに対し源泉徴収税額の合計額の方が「年調年税額」より少ない人については、その差額だけ納め足りなくなっていますからその差額(不足額)は本人から徴収します。

 以上が年末調整の手順と事務の概要となります。これを具体例で説明すると次のようになります。

2 年末調整の具体例(甲さんの場合)

 ① 年間給与総額  5,870,000円
 ② 年末調整を行う前に給与等からの源泉徴収していた税額  140,523円
 ③ 社会保険料  836,820円
 ④ 生命保険料(旧生命保険)  50,200円
 ⑤ 個人年金保険料(新生命保険)  56,000円
 ⑥ 地震保険料  45,000円
 ⑦ 控除対象配偶者あり(所得金額0円)
 ⑧ 控除対象扶養親族の数 1人

 年末調整とは、毎月の給与や賞与から源泉徴収された税額、本事例の場合は140,523円と、正規の年税額との差額を調整し、既に徴収済みの税額の方が正規の年税額より多い場合にはこれを還付し、正規の年税額の方が多い場合には、不足額を徴収し、源泉徴収義務者のもとでその年の課税関係の精算を行うという趣旨により設けられた制度です。

 以下、手順を追って説明します。

① まず年間の給与所得の金額を求めます。
  給与所得の所得金額とは、年年間の給与に係る収入金額から給与所得控除額を控除した残額となります。

 甲さんの場合は、年間給与総額5,870,000円に見合う給与所得控除後の金額は4,154,400円となります(この金額は「令和元年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額表」に当てはめて求めます。)

② 次に、甲さんの所得から控除することが認められている各種控除額を計算して課税所得金額を求めます。

(算式)
給与所得控除後の給与の金額 4,154,400円)
-社会保険料控除額 836,820円)
-生命保険料控除額 71,550円)
-地震保険料控除額 45,000円)
-配偶者控除額、扶養控除額及び基礎控除額の合計 1,140,000円)
差引課税所得金額(1,000円未満切り捨て)(2,061,000)円)

① 社会保険料の836,820円は、1月から12月までの間に給与及び賞与から差し引かれた社会保険料等であり、その全額が控除されます。

② 生命保険料の控除額は、本年中に支払った旧生命保険料50,200円に対する控除額37,550円(50,200円×1/4+25,000円)と本年中に支払った新個人年金保険料56,000円に対する控除額34,000円(56,000円×1/4+20,000円)との合計額の71,550円となります。

③ 地震保険料の控除額は、本年中に支払った損害保険料のうち地震保険料控除の対象となるものが地震保険料分45,000円のみであり、その合計額が50,000円以下のため、45,000円となります。

④ 配偶者控除額、扶養控除額及び基礎控除額の合計
 甲さんの場合の配偶者控除額は380,000円、扶養控除額(1人)は380,000円、基礎控除額は380,000円となり控除額の合計額は1,140,000円となります。

⑤ 差引課税所得金額2,061,000円を年末調整の税額表に当てはめて年調所得税額を求めると108,600円となります。

⑥ 年調所得税額108,600円に10.21%を乗じて求めた110,800円が正規の年税額(年調年税額)になります。

⑦ 毎月の給与や賞与からすでに源泉徴収した税額140,523円と正規の年税額110,800円を比べ、過不足額を求めます。
  甲さんの場合は、140,523円と110,800円の差額29,723円が納め過ぎとなっていますので、これを本人に還付します。

その 4 年末調整の手順・事務の概要とその具体例に続きます

執筆者情報

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税理士 小畑 孝雄

昭和41年東京国税局入局、国税庁法人税課、国税不服審判所勤務等を経て平成16年東京国税局法人課税課長、18年同調査第2部長を歴任し19年退官、税理士登録(日本橋支部所属)

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年末調整事務の手順とその概要は以下のとおりです。<第1> 給与の年間支給額の集計と給与から天引きされた源泉徴収税額及び社会保険料の集計…以下の2の具体例に掲げる甲さんの場合は次のとおり  ① 給与(賞与や課税される現物給与等を含む)の年間支給額…5,870,000円  ② 社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料等)      …836,820円<第2> 配偶者控除や扶養控除などの各種人的控除の確認 所得税の計算に当たっては、配偶者控除額や扶養控除額、障害者控除額などの各種の人的控除額が控除されます。これらの控除が受けられるかどうかは各人から提出される「扶養控除等申告書」や「配偶者控除等申告書」により確認することになります。また所得者本人については一律38万円の基礎控除が受けられることとされています…甲さんの場合は次のとおり      ① 控除対象配偶者あり…控除額38万円  ② 控除対象扶養親族1人…控除額38万円  ③ 基礎控除…控除額38万円<第3> 各種保険料控除額等の確認と控除額計算 所得税の計算に当たっては、生命保険料、介護保険料そして地震保険料等に係る保険料控除額も控除されます。これらの控除の有無及び金額等については各人から提出される「保険料控除申告書」に基づいて確認・計算することになります…甲さんの場合の年間保険料の支払い状況は次のとおり     ① 生命保険料の年間掛金(新生命保険契約) …50,200円  ② 個人年金保険の年間掛金(新生命保険契約)…56,000円  ③ 地震保険料            …45,000円<第4> 給与所得に係る所得金額の計算 給与所得に係る課税対象金額は収入金額そのものではありません。給与所得の場合課税対象となるのは給与の「収入金額」から一定の「給与所得控除額」を控除した残額が給与所得金額と規定されています。この控除される「給与所得控除額」は給与の収入金額等に応じた一定の金額と定められています。実務的には「令和元年分の年末調整のための給与所得控除後の給与等の金額の表」に年間給与の収入額を当てはめることによって自動的に給与所得控除後の「給与所得の金額」が求められることとなっています。<第5> 給与所得の金額からの各種所得控除額の控除  手順<第4>で求めた「給与所得の金額」から手順<第1>から<第3>までにより確認した「社会保険控除額」、「各種人的控除額」及び「生命保険料控除額等」の金額を控除して所得税の課税対象となる「課税給与所得金額」を求めます。<第6> 正規の年間所得税額の計算 手順<第5>で求めた「課税給与所得金額」に所得税率を乗じて所得税の金額を求めます。実務的には手順<第5>で求めた「課税給与所得金額」に「平成元年分の年末調整のための算出所得税額の速算表」の算式に従って計算します。<第7> 復興所得税の加算     手順<第6>で求めた年間所得税額の金額に復興所得税の税率10.21%を乗じて復興特別所得税を含む「年調年税額」を算出します。<第8> 過不足額の精算 手順<第7>で求めた「年調年税額」と手順<第1>で集計しておいたこれまでに支払われていた給与や賞与の額から源泉徴収されていた源泉徴収税額の合計額とを比べて過不足額を求めます。源泉徴収税額の合計額の方が「年調年税額」より多い人については、その差額分だけ納めすぎとなっていますからその差額(過納額)は本人に還付します。これに対し源泉徴収税額の合計額の方が「年調年税額」より少ない人については、その差額だけ納め足りなくなっていますからその差額(不足額)は本人から徴収します。 以上が年末調整の手順と事務の概要となります。これを具体例で説明すると次のようになります。
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