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大規模不正:トップ記事の不正事例を分析する フォルクスワーゲンのディーゼルゲート:大失敗が基本的倫理を明らかにする(その1 全3回)

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 2015年9月18日、米環境保護局 (U.S. Environmental Protection Agency, EPA) は、ドイツの自動車メーカーであるフォルクスワーゲン・グループ (Volkswagen Group) に排ガス規制法違反の通知を発した。EPAの主張によると、フォルクスワーゲン社は意図的に排ガステストの間だけ一定の排ガスを制御するようにディーゼルエンジンにプログラミングをしていたということである。このプログラムにより、車両から排出される窒素酸化物(NOx)は、規制テストの間は米国の基準値以内に抑えられていたが、実際の走行中には、その40倍の窒素酸化物が排出されていた。2009年から2015年の間にフォルクスワーゲン社がこのプログラムを搭載した車は、全世界で1,100万台、米国内で50万台に及ぶ。(参照:“Volkswagen Says 11 Million Cars Worldwide Are Affected in Diesel Deception,”(フォルクスワーゲンの排ガス不正の影響を受ける車は世界で1,100万台) by Jack Ewing, The New York Times, Sept. 22, 2015,http://tinyurl.com/hqe3vtv
 フォルクスワーゲンは、世界10か国以上で直ちに当局の調査の対象となり、その株価はこの報道の後で3分の1下落した。数日以内に、フォルクスワーゲン・グループのCEOで強大な権力を持っていたマーティン・ウィンターコーン (Martin Winterkorn) は辞職し、同社は3名の上級経営者を停職にした。フォルクスワーゲンはその後、この排出規制問題の解決のため73億ドルを支出する計画を発表し、対象となる車両をリコールして修理する計画を立てた。この事件は色々な自動車メーカーの不正の可能性に対する注意を喚起した。(参照:“Volkswagen CEO Resigns as Car Maker Races to Stem Emissions Scandal,” (フォルクスワーゲンのCEOは排ガス不正により辞任)by William Boston, The Wall Street Journal, Sept. 23, 2015,http://tinyurl.com/pxkrlvd
 2016年4月21日、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所(2015年12月に車両の所有者および州政府により提出された請求を含む米国内訴訟のほとんど全てを管轄するように司法省により指名された)は、フォルクスワーゲンが米国の顧客に対して「実質的な補償」と約5万台の車の買戻しを北米の排ガス不正問題の解決のための和解の一部として実施すると発表した。(参照:“Volkswagen Reaches Deal in U.S. Over Emissions Scandal,” (フォルクスワーゲンは排ガス不正に関する合意に至る)by Jack Ewing, The New York Times, April 21, 2016,http://tinyurl.com/hejjqxo
 2016年10月25日、連邦裁判所は、フォルクスワーゲンとアウディ2.0の所有者の和解金として147億ドルを承認した。さらに同社は、環境プログラム、排ガス削減、排ガスゼロの車の販促に50億ドルを支出することに同意した。(参照:“The biggest auto-scandal settlement in U.S. history was just approved. VW buybacks start soon,” (米史上最大の自動車不正の和解が認められる。VWは間もなく買い戻しを開始)by James F. Peltz and Samantha Masunaga, Oct. 25, 2016, LA Times,http://tinyurl.com/hy47wcz.)
 しかし話はこれだけでは終わらない。フォルクスワーゲンは、ディーゼル3.0の所有者との和解の途上にあり、これは同社に追加で少なくとも10億ドルの損失をもたらすと見込まれている。(参照:“Volkswagen Expected to Pay Another $1 Billion in Emissions Scandal,” (フォルクスワーゲンは排ガス不正であと10億ドルの損失を予測)by Hiroko Tabuchi, Dec. 20, 2016, The New York Times,http://tinyurl.com/hs3937k
 フォルクスワーゲンが直面した法的・コンプライアンス上の問題を別として、同社は米国と母国である欧州の両方でマーケットシェアを失った。(参照:“VW Extends European Market Share Losses After Diesel Scandal,” (ディーゼル不正の後、欧州で低下するVWのシェア)by Ania Nussbaum, Sept. 15, 2016, Bloomberg,http://tinyurl.com/j7l5nxc
 ニューヨークタイムズ紙によると、フォルクスワーゲンは、電信送金不正、大気汚染防止法違反、関税違反、および司法妨害のための共謀罪について罪を認めると予想されており、さらにこの偽装に対する刑事捜査の解決のための和解に史上最高の43億ドルの罰金の支払いが見込まれる。この有罪答弁の見込みと共謀罪によるフォルクスワーゲン社の経営幹部1名のマイアミでの逮捕は、刑事告発からの逃げ道を本質的には金銭で贖うという企業のやり方に強く抵抗するものである。
 

(初出:FRAUDマガジン56号(2017年6月1日発行))
(その2に続く)

この記事の執筆者

Steve C. Morang, CFE, CIA, CRMA
ある公認会計士事務所の上級経営者を務める。また、ACFEサンフランシスコ支部の代表者である。

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 2015年9月18日、米環境保護局 (U.S. Environmental Protection Agency, EPA) は、ドイツの自動車メーカーであるフォルクスワーゲン・グループ (Volkswagen Group) に排ガス規制法違反の通知を発した。EPAの主張によると、フォルクスワーゲン社は意図的に排ガステストの間だけ一定の排ガスを制御するようにディーゼルエンジンにプログラミングをしていたということである。このプログラムにより、車両から排出される窒素酸化物(NOx)は、規制テストの間は米国の基準値以内に抑えられていたが、実際の走行中には、その40倍の窒素酸化物が排出されていた。2009年から2015年の間にフォルクスワーゲン社がこのプログラムを搭載した車は、全世界で1,100万台、米国内で50万台に及ぶ。(参照:“Volkswagen Says 11 Million Cars Worldwide Are Affected in Diesel Deception,”(フォルクスワーゲンの排ガス不正の影響を受ける車は世界で1,100万台) by Jack Ewing, The New York Times, Sept. 22, 2015,http://tinyurl.com/hqe3vtv) フォルクスワーゲンは、世界10か国以上で直ちに当局の調査の対象となり、その株価はこの報道の後で3分の1下落した。数日以内に、フォルクスワーゲン・グループのCEOで強大な権力を持っていたマーティン・ウィンターコーン (Martin Winterkorn) は辞職し、同社は3名の上級経営者を停職にした。フォルクスワーゲンはその後、この排出規制問題の解決のため73億ドルを支出する計画を発表し、対象となる車両をリコールして修理する計画を立てた。この事件は色々な自動車メーカーの不正の可能性に対する注意を喚起した。(参照:“Volkswagen CEO Resigns as Car Maker Races to Stem Emissions Scandal,” (フォルクスワーゲンのCEOは排ガス不正により辞任)by William Boston, The Wall Street Journal, Sept. 23, 2015,http://tinyurl.com/pxkrlvd) 2016年4月21日、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所(2015年12月に車両の所有者および州政府により提出された請求を含む米国内訴訟のほとんど全てを管轄するように司法省により指名された)は、フォルクスワーゲンが米国の顧客に対して「実質的な補償」と約5万台の車の買戻しを北米の排ガス不正問題の解決のための和解の一部として実施すると発表した。(参照:“Volkswagen Reaches Deal in U.S. Over Emissions Scandal,” (フォルクスワーゲンは排ガス不正に関する合意に至る)by Jack Ewing, The New York Times, April 21, 2016,http://tinyurl.com/hejjqxo) 2016年10月25日、連邦裁判所は、フォルクスワーゲンとアウディ2.0の所有者の和解金として147億ドルを承認した。さらに同社は、環境プログラム、排ガス削減、排ガスゼロの車の販促に50億ドルを支出することに同意した。(参照:“The biggest auto-scandal settlement in U.S. history was just approved. VW buybacks start soon,” (米史上最大の自動車不正の和解が認められる。VWは間もなく買い戻しを開始)by James F. Peltz and Samantha Masunaga, Oct. 25, 2016, LA Times,http://tinyurl.com/hy47wcz.) しかし話はこれだけでは終わらない。フォルクスワーゲンは、ディーゼル3.0の所有者との和解の途上にあり、これは同社に追加で少なくとも10億ドルの損失をもたらすと見込まれている。(参照:“Volkswagen Expected to Pay Another $1 Billion in Emissions Scandal,” (フォルクスワーゲンは排ガス不正であと10億ドルの損失を予測)by Hiroko Tabuchi, Dec. 20, 2016, The New York Times,http://tinyurl.com/hs3937k) フォルクスワーゲンが直面した法的・コンプライアンス上の問題を別として、同社は米国と母国である欧州の両方でマーケットシェアを失った。(参照:“VW Extends European Market Share Losses After Diesel Scandal,” (ディーゼル不正の後、欧州で低下するVWのシェア)by Ania Nussbaum, Sept. 15, 2016, Bloomberg,http://tinyurl.com/j7l5nxc) ニューヨークタイムズ紙によると、フォルクスワーゲンは、電信送金不正、大気汚染防止法違反、関税違反、および司法妨害のための共謀罪について罪を認めると予想されており、さらにこの偽装に対する刑事捜査の解決のための和解に史上最高の43億ドルの罰金の支払いが見込まれる。この有罪答弁の見込みと共謀罪によるフォルクスワーゲン社の経営幹部1名のマイアミでの逮捕は、刑事告発からの逃げ道を本質的には金銭で贖うという企業のやり方に強く抵抗するものである。 (初出:FRAUDマガジン56号(2017年6月1日発行))(その2に続く)
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