HOME コラム一覧 不完全な採用調査が大きなトラブルにつながる 倫理に関する重大な決断が必要(その1 全4回)

不完全な採用調査が大きなトラブルにつながる 倫理に関する重大な決断が必要(その1 全4回)

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 組織は質の高い従業員を雇用したいと考えるが、一方でその多くは調査に費用、時間、労力をあまりかけたくないとも考える。しかしながら、倫理的には、彼らが犯罪履歴の可能性を探す場合、広く網を張るべきである。もしそうしないのであれば、組織は有罪判決を受けた不正実行犯を雇うはめになるのだ。

 マンハッタンのある会社の最高財務責任者であるエドウィン・フセンファーフェル (Edwin Husenfarfel) は、ビロードで覆われた71階のオフィスで寛ぎつつも、久しく時間を持て余していた。14歳未満の未成年をレイプした2回目の有罪判決と、もう決して捕まらないことを自身に誓ってから16年経ち、フセンファーフェル(明らかに彼の本名ではない)はじっとしていられなかった。彼はフォーチュン500社の会社で人気急上昇中のCFOとして、もっと周りから認められたいという願望を持っていた。そして彼は、そういう周りからの認識を得るために、自らの過去の罪について嘘をつこうとしていた。
 犯罪心理学者やFBIプロファイラーはこのことを「エスカレーティング(escalating)」と呼ぶ。そして不正検査士は、また捕まることを避けるために必要なことは何であれ行うというフセンファーフェルの決断(彼の過去の有罪判決に関する嘘を含む)を、ビジネスの世界で最も一般的な不正の1つである「不作為による不正 (fraud by omission)」と呼ぶ。人事部門は、必要な努力、時間、費用にかかわらず、有罪判決を発見するため、倫理的に最良なバックグラウンド調査の方法を選択することで、これらの犯罪者を阻止する手助けをすることができる。
 フセンファーフェルの飽くなき金銭的欲求とより誇大な職業的承認欲求は、私のクライアントである会社への就業へ彼を駆り立てた。(私はこの国で最も歴史のある雇用前の身辺調査会社の1つを経営している)
 私のクライアントである会社は、徹底した身辺調査プロセスと考えるものを実施したにもかかわらず、フセンファーフェルの過去の犯罪を見逃してしまった。
 フセンファーフェルのミネソタ多面人格テスト(Minnesota Multiphasic Personality Inventory:標準的な成人の人格と精神病理に関する精神測定テスト)の結果には有害な人格特性がなかった(明らかに不正確であった訳だが)。けれども、その会社の採用担当者は何かが腑に落ちなかった。そこで、フセンファーフェルの経歴で何か見過ごしていないかを確認するために、その会社は私を雇い入れた。
 私はフセンファーフェルの直近のレイプ及び殺人に関する有罪判決とその確定判決日を見つけ出すことができた。その確定判決日は、彼の採用応募書類と将来の雇用先である会社に自らの身辺調査を実施することを認める法定の書面同意を行った日付と22日間の重複があった。
 このことは、州刑務所で模範囚に与えられる刑期の短縮を含め9年とわずかな期間、懲役に服した後、フセンファーフェルは、私のクライアントの会社への採用応募から起算してちょうど6年と343日前に、確定判決を受けた裁判所の管轄地から解放されたことを意味する。
 採用予定の会社(私のクライアント)が所在するカリフォルニア州は、7年の法定報告期限を定めている。換言すると、カリフォルニアでは、同意日から7年以上遡った確定有罪判決は報告できる対象ではない。そこで皆さんは、次の疑問を口にするかもしれない。「では、もしある有罪判決が法定報告期間を超える9年以上前にあったとして、どうやって採用調査会社であるあなたは、採用予定会社が所在する州が定める7年の法定期限を超え、刑事的有罪記録をクライアントに提供することができるのですか?」
その答えは、連邦信用報告法 (FCRA) 第613条(a)(2) [合衆国法典15編1681 k]の下で、連邦レベルで入手可能な雇用に基づく公的記録報告は無期限であるということとは別に、いくつかの州で、その連邦法は州法の意見に従うとされていることにある。そして多くの州では州レベルでの7年間の報告期限が一般的である。
 理解すべき重要な点は、連邦法は消費者報告機関 (consumer reporting agency, CRA) により報告可能な個人の刑事的有罪判決に制限期間を設けていないことである。しかし、ある州が報告期限を課している場合、連邦法は州法に劣後し、二つの期限のいずれか短い期限が適用され、CRAは当該の州の報告法の下で法的に報告可能なもののみを報告しなければならない。
 例えば、連邦法はすべての有罪判決の報告を認めるが、カリフォルニア州は採用を目的とする刑事上の有罪判決の報告期限を7年と制限しているため、(身辺調査への)同意日より前の7年間に確定判決がなされた有罪判決はすべて報告可能なのである。このことは、もしある犯罪者が20年前に有罪判決を受け、身元調査への同意日から6年と364日以内に裁判所の管轄・刑務所から釈放された、または執行猶予となった場合、たとえ「有罪判決」が20年前であっても、その有罪判決はカリフォルニア州法の下で報告可能であることを意味している。
 フセンファーフェルのケースでは、彼の雇用を検討していた会社は、7年の法定報告期限を持つカリフォルニア州でレポートを出力した。しかし、それであっても、7年の報告期限日と同意日に22日間の重複があったために彼の過去の犯罪は報告可能であった。私のクライアントである会社は、重罪の有罪判決に対して、ゼロ・トレランスの会社方針をもっていた。その22日間は、最終的な採用決定にとって極めて重要であった。この発見により、会社はフセンファーフェルの候補資格を取り消した。
 フセンファーフェルの現在の生活の中で、彼の過去の行いを知る者はいなかった。彼が育ち、恐ろしい罪を犯すために繰り返し帰省した町は、フセンファーフェルの有罪判決の様な事件を内密にし、そしてそこでの刑事事件のいずれもFBI身元特定局に報告していなかった。身も凍る様なことであるが、よくある状況である。

(初出:FRAUDマガジン56号(2017年6月1日発行))
(その2に続く)

この記事の執筆者

Roger W. Stone, CFE
採用調査会社であるAPSCREEN社の創業者。ACFEの終身会員であり、ACFE Editorial Advisory Committeeのメンバーである。
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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