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倒産事例における不正の発見 支払不能日をいつに決定するかで不正利得を回収する(その2 全4回)

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 私の事務所の仕事は、この会社を清算し、製造会社から受けられるリベートの金額を最大化し、不正に移動された資産の回収を追及することであった。
 我々は、建物と在庫を競売にかけ、150万ドルを回収した。
 製造会社は、平均して今年の購入額の11%のリベートを支払い、その金額は約170万ドルになった。
 製造会社は、HFCCは市場で購入した肥料を売らなかったのでリベートは支払う義務はないと主張したが、我々は、製造会社は2年間リベートを払ってきたわけだし、彼らから購入したすべての薬品がHFCCの操業する郡で使われたら、地域は有害廃棄物の処理場になってしまうと切り返して彼らを納得させた。
 資金回収の最後の関門は、不正な資産移動をしたとして仲介業者を訴えることであった。2件の訴訟は合理的に円満解決し、1件は激しい論争となりそれが5日間続いた。我々は、不正な資産の移転に300万ドルを賠償として求め、訴訟前に被告は5万ドルを提示した。
 裁判官は判決を下し、我々は最終的に60万ドル超で和解した。裁判官は、私と社外の会計士が、HFCCが不正な資産移動をしている間に債務超過となったと証言しても、その資産移動の間、我々は同社の債務超過を証明していないと判示した。
 私が会社の債務超過日を証明するためのより良い方法を考え始めたのはこの時である。

不正な資金を発見することで、債務超過日を決定する(ESTABLISH INSOLVENCY DATE, FIND FRAUD MONEY)

 以下は、私の事例における倒産案件での支払不能日の決定方法である。これは、不正な資産移動と優先弁済から債権を回収する要となりうる。

 不正譲渡/移動(a fraudulent conveyance or fraudulent transfer)とは、譲渡人が支払不能であるにも拘わらず、債務を免れるために、その資産や資金を他人や他の会社に移動させることである。優先弁済(a preference payment)とは、債務者が支払不能なのに債権者に対して既存の債務を返済することである。その本質は、債務者が一人の債権者に、他の債権者より優先的に債務返済をすることである。
 不正譲渡と優先弁済から債権を回収することは、破産財団にとって重要であり、占有継続債務者(debtor in possession、以下適宜「DIP」)や倒産手続きの管財人の主要な役割である。
 破産申請の90日前までは、債務者は通常支払不能だと仮定される。このことはDIPや管財人は、破産申請から90日前までの間のあらゆる不正譲渡や優先弁済から回収することができることを意味する。しかし、債権者はこの仮定に反論できる。
 誠実でない債務者が、倒産が避けられないことを知っているときに、不正な資産譲渡や優先弁済を前述の自動的な期限前に実施できるよう破産申立日を遅らせるという、よく見られる問題もある。
 これが、債務超過になった日付が破産申請の前かどうか、およびその事業者がいつ債務超過となったかを決定することが、なぜ重要であるかの理由である。
 債務超過を判断する標準的な手法を確立することは、関係者全員に非常に有益で、不正を防止することにつながる。

債務超過日を確定するために提案される手法(PROPOSED METHODOLOGY FOR DETERMINING AN INSOLVENCY DATE)

 破産申請をする前に債務超過日を確立しようとする者は、以下の証拠を提示するよう、筆者は提案する。
1.事業者の資産の市場価格が負債の市場価格を下回っていること
2.事業者の債務超過日から倒産申立日までの間の純利益がマイナスであること
3.債務超過日から倒産申立日までに事業者に追加投資がされず、結果として資産の市場価格が負債の市場価格を上回っていないこと
 もし、これら3つの条件が揃っていれば、債務超過日は確定される。


(初出:FRAUDマガジン55号(2017年4月1日発行))
(その3に続く)

この記事の執筆者

Roger W. Stone, CFE
イリノイ州シャンペーンのManagement Accounting Services社のオーナー兼経営者である。主に、債務超過の判定と法廷会計に関するサービスを事業者と弁護士に提供している。
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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2020.03.06 16:23:39