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倒産事例における不正の発見 支払不能日をいつに決定するかで不正利得を回収する(その1 全4回)

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 肥料と散布機を扱うHFCCは倒産した。調査によりオーナーは、銀行不正、財務諸表上の不正を行い、不正な資産の譲渡や移動を行っていたことが判明した。しかし、裁判所は、筆者と会社の社外公認会計士は、これら全ての移動の間、会社が債務超過であることを証明しておらず、会社への処罰は限定されると判決した。筆者は、会社の支払不能日を確立することで、より多くの不正所得を回収するより良い方法を提案する。

 私が関与した不正事件の経験は、倒産事件の支払不能日の確定が、不正な資産移動と優先弁済から資産を回収する要であることを再認識させる。
 HFCCは、イリノイ州南部の過疎地域の郡で特注の肥料と化学薬品の散布機を扱う会社だった。同社のオーナーは、アイオワ州の大規模販売業者から肥料の材料の薬品を買っていた。薬品製造会社は、取扱量に応じて年末にリベートを提供していた。すなわち、より多くの薬品を購入すれば、高い割合のリベートが製造会社から購入者に支払われた。
 例えば、HFCCのオーナーが製造会社から10万ドルの薬品を買うと、彼は5%、つまり5,000ドルのリベートを年末に受け取る。しかし、もし彼が製造会社から200万ドルの薬品を買うとしたら、彼はその15%つまり30万ドルのリベートを受け取ることになる。
 HFCCのオーナーは、代理店から大口で購入して、アメリカ中西部の卸売業者に売れば、最も高い割合のリベートを受け取れると考えた。

 HFCCのオーナーが利用しようとした化学薬品販売の条件を以下に示す。
・ある季節のある製品については、地域的な値差が時折発生し、彼は、そのような製品を他の地域での販売価格より低い価格で購入することできた。
・リベートの正確な金額は、時には交渉可能であり、現金と製品で支払われた。
・年末に製造会社が決めたリベート金額より多額のリベートを営業マンが口頭で約束することが時々あった。
・営業マンと代理店は、大口の販売先を探しており、掛けによる購入が比較的容易であった。
・オーナーは、自分の購入量の90%を、仕入れ値の15%引きで卸売業者に販売し、製造会社から20%のリベートを受け取れると期待していた。

 結局のところ、HFCCのオーナーは、数字を読み違えた。彼は、仕入れ値から製造会社からのリベートを引いた金額を下回る価格で販売していた。彼は、また大量の製品を取り扱いながら、それに伴う営業コスト増を勘定に入れていなかった。
HFCCが破産申請に至った事情は以下の通りである。
・HFCCは、3年間で1億ドル超相当の薬品を購入したが、地元の市場でその10%未満しか販売しなかった。
・卸売業者は、HFCCから肥料を買い、市場に売り戻したが、その価格は、他の業者がそれぞれの代理店から購入する金額より低かった。
・HFCCは、大手の代理店会社2社と地元の銀行に約1,200万ドルの債務があったが、資産は200万ドルで製造業者から受け取るはずのリベートの金額は不明だった。
製造業者の数社は、HFCCは自社の市場で製品を販売しなかったため、HFCCはリベートを受けるに値しないと主張した。

実行された不正(FRAUDS COMMITTED)

 オーナーは、事業を続けるための信用を得ようと以下の不正を行った。
・彼は、HFCCから製造会社への請求書を偽造し、ある銀行から250万ドルの融資を得るという銀行不正を行った。
・彼は、帳簿上の在庫金額と売掛金を水増し、これにより財務諸表不正を行った。
・破産申請前に、HFCCが支払不能であったにもかかわらず、在庫をコストや市場価値より低い価格で売却するという、資金と資産の不正な移動を行った。

(初出:FRAUDマガジン55号(2017年4月1日発行))
(その2に続く)

この記事の執筆者

Roger W. Stone, CFE
イリノイ州シャンペーンのManagement Accounting Services社のオーナー兼経営者である。主に、債務超過の判定と法廷会計に関するサービスを事業者と弁護士に提供している。
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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2020.02.28 15:59:39