購買業務の難しさ 「信頼というベール」が 不正の発見を阻む(その2 全4回)
情報漏洩とその結末 (Tip off and outcome)
政府との契約条件の一部として、ゴートゥー・エアロの研究開発棟で働く全従業員の雇用については、政府は各従業員の身辺調査を義務付けていた。一人の従業員の定期的な身辺調査を行った結果、政府の身辺調査担当者は「宇宙航空事業部門の従業員と取引している納入業者は、その従業員の自宅キッチン全体を無料で改修していた」という報告に気がついた。
身辺調査員はその報告書を国家偵察局 (the National Reconnaissance Office, NRO) の 監督総監室 (Office of the Inspector General, OIG) とFBIに提出した。OIGとFBIの合同捜査チームは、謝礼、賄賂、キックバックの授受や不正請求があったという複数の刑事上の有罪判決を裏付ける証拠を明らかにした。
2年近くに及ぶ調査の後、ビルドナウのオーナーと副社長、ゴートゥー・エアロの従業員7名は有罪判決を受けた。裁判所はビルドナウのオーナーに対し、連邦刑務所での13か月の服役と130万ドルの罰金を科した。ビルドナウの副社長とゴートゥー・エアロの従業員には計80万ドルの罰金が科せられた。また、ゴートゥー・エアロの従業員1名には、連邦刑務所での6か月間の服役が言い渡され、それ以外の者は保護観察処分となった。当然のことながら、ゴートゥー・エアロはそれらの従業員全員を解雇し、連邦政府は身辺調査を強化した。
調査は単に刑事事件の有罪判決だけでは終わらなかった。米司法省 (The U.S. Department of Justice, DOJ) は、虚偽請求取締法 (Civil False Claims Act) に基づき、連邦政府への支払いに対する十分な監督を怠ったとしてゴートゥー・エアロを起訴した。同社は容疑を認め、220万ドルの罰金を支払うことに合意した。また、DOJによる訴訟とは別に、ゴートゥー・エアロは、連邦政府との契約下で働く従業員に対する新たな不正の申立てについては、OIGによる監督調査に応じることに合意した。
「信頼というベール」の陰に隠れて(Hiding behind ‘veils of trust’)
購買不正の伝統的なスキームは40以上もあり、これほど多くの方法を不正行為者が実行することは、誠実、公平、公正かつ合法な契約を履行及び維持する上で、普遍的で最も大きな脅威となることは間違いない。
本稿の航空宇宙産業の会社の事例のように、不正実行者は、「信頼できる」従業員、マネージャー、納入業者だと思われている。また、会社の購買プロセスに精通しており、それらを容易に操作することができるので、このようなスキームを実行に移すことができる。さらに、このような「信頼できる人物」は、被害組織の「信頼というベール」の陰でこのスキームの大半を成功させた。このような意味で、「信頼できる人物」という地位は、購買不正特有の両極にスポットライトを当てたことになる。つまり、これらの犯罪は信頼がなければ成功せず、組織の日常業務も同様に信頼なしでは遂行不可能である。
連邦政府の調査により、ゴートゥー・エアロは従業員が贈答品の受領に関する内部規定に従っていると信用しきっていたことが判明した。また、監査部も従業員が内部規定に従っていると信じており、それによってメンテナンス部門の監査をしなくて良いという決定を下したこともその調査によって分かった。監査部門が監査を怠ったことは、不正請求取締法の下でゴートゥー・エアロの責任を追及することをDOJに決断させる主な要因となった。
この事例は、不正行為者の成功は、彼らの動機や、購買業務内の意思決定ポイント及び組織の購買の健全性に関する統制(Procurement integrity controls、購買不正・濫用の防止・抑止・適時な報告と対策の能力に合理的な保証を与えるために設計されたプロセス、手続き、マネジメントシステム)の有効性に影響を及ぼす彼らの能力によって実行される。より強力な購買の健全性に関する統制があれば、不正スキームに対するより良い防御となる。
(初出:FRAUDマガジン55号(2017年4月1日発行))
(その3に続く)