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数字の虚偽? 帳簿の粉飾(Cooking)または煮詰まり中(Simmer)(その1 全4回)

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 経営者は、いつどのような数字を報告するのかを決定するのに非常に大きな裁量を持っている。しかしながら、ビジネスからのプレッシャーは、経営者の判断を曇らせることがある。本稿は、投資家を満足させるかもしれないが不正の領域に触れるかもしれない、会計ギミックがどのように利用され、またどのように財務諸表の操作が行われるのか考察した。

 ジョン・スミス(John Smith)、ABCドーナツの最高経営責任者(CEO)は、問題を抱えていた。収益が会社の設立以来、初めて減少した。これは2つの大きな理由に起因していると彼は考えた。
まずABCドーナツを拡大するために、伝統的な店舗から全国の食料品店の通路やガソリンスタンドで販売するように、積極的な成長戦略を開始した。しかしながら、それがよくない結果となった。この国ではちょうど低カロリーのダイエット食品に人気が集まり、ドーナツの売上高は減少した。
 またスミスは利益の達成に関する個人的な利害関係を持っていた。取締役は、同社の株式価額に連動した高額のボーナスを彼に提示していた。不況の四半期では間違いなく会社の株価が下がり、結果的に彼のボーナスは減少する。スミスは娘の結婚式の支払と、できることなら、家族のための楽しいカリブ海の休暇にこのボーナスをあてにしていた。
四半期の終わりまで、あと数週間という時に、スミスは彼の部下の士気を上げる必要があり、経営幹部と部門長の会議を招集した。彼は販売プロモーションのアイデアについてのマーケティング部長の物憂げな声に耳を傾け、営業部長は自分達の努力を倍増させ、「ステーキではなくシズルを売っている」と言った。
 一方、CFOは、ユニークな提案をした。経費を削減し純利益を増加させるために彼らの会計の変更を提案した。彼は、以下の5つの簡単な方法で、より多くの製品を販売することなく、ウォールストリートの予測を満たすように、純利益を増やすことができると言った。
1. すでに購入していた資産の減価償却の見積残存年数を延長すること。
2. 請求に対して支払いをしない顧客の数の見積もりを減らすこと。
3. 棚卸資産の評価方法を後入先出法(LIFO)から先入先出法(FIFO)に変更すること(小麦粉の仕入れコストが下落していた)。
4. フランチャイズへの機器販売額を増額して、その後、将来の購入のための貸付金として追加料金の返金をすること。
5. 仕入先への支払いを26日から38日に延期し、より長い期間現金を保持すること。
 スミスは売られた。ABCドーナツは会計を見直しただけで、実際より多くの利益があったように見せかけることができた。彼はCFOに会計帳簿の変更は、全て法的に問題ないか確認した。CFOは、テーブルに視線を落として「問題ありません」と言った。
 残念なことに、チーフ・コンプライアンス・オフィサー(CFO)は、その会議に出席していなかったので、1)5つの提案のうち1つは非合法であり、2)他の4つが合法であっても、これらの会計上の操作を利用すべきでない強力な理由があることをCEOに伝えることができなかった。(違法な提案は4番目であった。なぜなら会計の目的を回避するものであったからである。会社が会計期間に実際にどれほど利益を上げていたかを投資家が見誤るので、SECは人工的な売上の水増しを認めていない)

職権濫用(Abuse of power)

 これは架空の話だが、不正がいかに容易に発生するかを示唆している。数値は事実を正確に表しているという安心感があるが必ずしもそうではない。経営者は、いつどのような数字を報告するのか決定するのに非常に大きな裁量を持っており、その選択は、1つのビジネストランザクションを(合法であっても)2つの全く異なった方法で報告する状況を作り出すかもしれない。
 しかし、あまりにも早急に、これらの選択をいい加減に扱うことで容易に不正な会計操作につなげることができる。
 会社は、業績の低下、賄賂の支払い、不正や横領を隠すために、同様のトリックを用いる。これらのトリックの発見や、または少なくとも会社が度を越して数字を調整している時に気づくことで、潜在しているより大規模な不正の発見につながる可能性がある。
 エンロンの元CFOアンドリュー・ファストウ(Andrew Fastow)は、かの悪名高い企業の不正や汚職について発言している。
 「いつ不正が始まったかと言われると少し難しいですね。何故なら1つ1つは厳密にはおそらく正しいけれど同時に誤解を招くような取引全ての集合体と呼ぶのが相応しいようなものだからです。私達は非常な誤解を招くようなものを作りましたが、それらの取引のどれ1つを取っても単独では不正と考えられるには至らないものだったのです。集合的な取引の影響は、しかしながら不正であり、よってどの時点で我々が一線を越え、過度に巨大で、誤解を招くようになってしまったかは定かではありません」(※1)
(参照:“Numbers manipulator describes Enron’s descent,” by Emily Primeaux, CFE, Fraud Magazine, March/April 2016, http://tinyurl.com/zuw27xz

(※1.邦訳は「数字の不正操作犯がエンロンの破綻を語る」(FRAUDマガジン日本語版50号に収録))

(その2に続く)



この記事の執筆者

Tom Baugher, J.D., CFE
フロリダ州タンパのFBI特別捜査官。本稿の視点は、必ずしも彼の雇用主の意向を反映するものではない。
翻訳協力:山内哲也、CFE、CIA、CISA
※執筆者・翻訳協力者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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2019.11.18 19:40:26