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自動車保険不正入門およびプラスアルファ ソーシャルネットワーク分析を使って不正実行犯を捕える(その1 全4回)

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 自動車保険不正は巨額の損失を伴う地球規模の不正現象である。この入門編においては、自動車保険不正の基本とそれへの革新的な対処方法、すなわち、ソーシャルネットワーク分析の手法 (SNA) に触れる。ソーシャルネットワーク分析は、個人、自動車、事故の発生地点を含む請求パターンの追跡の他、修理業者、法律事務所や病院等の組織をも対象とするものである。どのような結果につながるのかといえば、証拠開示である。

 本稿は、カナダのアルバータに所在するエドモントン・コンコルディア大学において筆者によって行われた2015年調査研究である「自動車保険不正請求検知のためのソーシャルネットワーク分析(SNA)ツールおよびテクノロジーの利用・適用に関する研究」の要約版・実務家用として編集されたものである。関心のある読者は次のウェブページにおいて調査研究論文をダウンロードすることができる。 (http://tinyurl.com/zakabrr)

 FRAUDマガジン編集部

 ここに金を稼ぐ方法が一つある。カリフォルニア自動車保険不正集団のメンバーは、互いの自動車を衝突させ、虚偽の請求を行う。不正実行犯達は、5,000ドルから5万2,000ドルの示談金を受け取る。その手口は、自分で熱いコーヒーをこぼしたことにより自動車が制御を失ったためと主張するのである。不正実行犯達は同一の自動車、住所、電話番号、時として名前も同一のものを使用する。その大半が新規に保険に加入した直後に保険金請求を行うというものである。2015年7月にサンタ・クララ郡が彼らを追い詰め、33名の構成員を逮捕するまでの間、巧妙なだましの手口と呼べるものだった(参照: “33 Arrested in Major South Bay Insurance Fraud Ring,” by Alan Wang, KGO-TV, ABC, July 16, 2015, http://tinyurl.com/jucltk8. 「南湾岸地域の大規模保険詐欺集団の33名を逮捕」)。
 自動車保険不正は、大きく3つのカテゴリーに分類できる。便乗型詐欺 (opportunistic fraud) においては、個々の請求者が実際の事故を利用し、事故によって生じた損害を過大申告することによって不当な利益を得るものである。計画的 (premeditated)詐欺は、犯行者が、保険会社に対して自動車修理や治療に必要な物品や役務のコストの過大申告を繰り返すことによって実行される。
 しかしながら、第三のタイプの自動車保険不正は、組織犯罪 (organized crime scheme) として米国、カナダにおいて自動車保険業者に過去最大の損失をもたらした(例えば、予め仕組まれた自動車事故とコーヒーをこぼしたという申立てを伴ったものがある)。(参照:“Ontario Auto Insurance Anti-Fraud Task Force - Interim Report,” December 2011, http://tinyurl.com/j2tmxkf.、「オンタリオ反自動車保険詐欺作業部会:中間報告」2011年12月)
 自動車保険不正請求に起因する経済的な損失は、米国の国境を越える。保険ホットラインドットコム(insurancehotline.com) によると、2014年の典型的なカナダの自動車保険料1,500カナダドルのうち15%、つまり225カナダドルは、自動車保険不正請求に起因した支払に充てられていた可能性があるのだ。カナダ統計局 (Statistics Canada) によると、2013年には、国内に2,100万台の自動車 (4,500キログラム、約9,900ポンド未満) が登録されていた。自動車保険不正請求詐欺によって年間47億カナダドルに匹敵する額の支払いをカナダの自動車運転者達は余儀なくされている可能性がある。(参照: “Auto Insurance Fraud: Was That Auto Accident Really An Accident?” Aug. 11, 2014, http://tinyurl.com/z3jcgrc Statistics Canada, http://tinyurl.com/hc26xbr. 「自動車保険不正:その自動車事故は本当に事故だったのか?」)
 2012年2月、トロント・スター(訳注:カナダの新聞の名称)は、ウィップラッシュ・プロジェクト(Project Whiplash) の顛末を公開した。トロント警察、カナダ保険協会 (Insurance Bureau of Canada) が行った合同捜査は、トロントの、グレーター・トロント・エリア (Greater Toronto Area, GTA) におけるタミル人のコミュニティーに形成された、洗練された形の自動車保険不正集団を白日の下にさらしたのだった。(参照:“Car insurance scam: 37 arrested in Project Whiplash raids,” by Wendy Gillis and Josh Tapper, Feb. 23, 2012, thestar.com, http://tinyurl.com/zr3j62w. 「自動車保険不正:ウィップラッシュ・プロジェクト 37名を逮捕」 )
 ウィップラッシュ・プロジェクトでは、多くの逮捕者がでて、計130件の有罪となったが、77件の仕組まれた衝突事件が関与した。トロント警察によると、マーカムとトロント出身の10名の人物がこの壮大な詐欺事件の主犯とされた。ステートファームカナダ (State Farm Canada) は、カナダの自動車詐欺スキームを疑った最初の保険会社の一つだった。詐欺的な保険金請求によって同社は5,400万カナダドルもの支払を強いられたからである。
 詐欺的な保険金請求がうまくいく場合、高いレベルの信用力を持ち、かつ複雑な保険業界の仕組みや法律、金融を熟知したホワイトカラーを含むプレイヤー達のネットワークを指揮する司令塔役がいるものである。実際、トロントにおける詐欺グループの中には、パラリーガル、複数の医療機関の医師、理学療法士が含まれていた。

共謀の立案者達(COLLUDING SCHEMERS)

 カナダ国立保険犯罪対策局 (CANATCIS) (http://tinyurl.com/hkaqwld)によると、自動車衝突を仕立て上げた自動車保険請求詐欺の手口の典型例は以下のようなものだ。犯罪組織の主要なメンバー(捜査機関により「リクルーター」と呼ばれる)が、知識豊富な法律の専門家であることが多いが、事情を知らない運転者(あるいは完全な共犯者の場合もある)と衝突事故を起こす参加者を募集して詐欺に着手し、保険請求すべき怪我を過大なものにするよう助言する。時として荷担した医療従事者に行動を起こすように指示を与えることさえある。

(その2に続く)



この記事の執筆者

執筆者:Subhash Satyal, MISAM, CFE, CPA (カナダ)
Subhash Satyal, MISAM, CFE, CPA (カナダ)
Shaun Aghili, D.B.A., CFE, CIA, CISSP-ISSMP
エドモントン・コンコルディア大学情報システムセキュリティアシュアランス 准教授
Pavol Zavarsky, Ph.D., CISSP, CISM, CISA
エドモントン・コンコルディア大学情報システムセキュリティリサーチ教授
翻訳協力:
神谷智彦 CFE、LL.M、CCO、CRMA、CFIA
神谷泰樹 CFE、LL.M、CCO、CRMA
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである

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 自動車保険不正は巨額の損失を伴う地球規模の不正現象である。この入門編においては、自動車保険不正の基本とそれへの革新的な対処方法、すなわち、ソーシャルネットワーク分析の手法 (SNA) に触れる。ソーシャルネットワーク分析は、個人、自動車、事故の発生地点を含む請求パターンの追跡の他、修理業者、法律事務所や病院等の組織をも対象とするものである。どのような結果につながるのかといえば、証拠開示である。 本稿は、カナダのアルバータに所在するエドモントン・コンコルディア大学において筆者によって行われた2015年調査研究である「自動車保険不正請求検知のためのソーシャルネットワーク分析(SNA)ツールおよびテクノロジーの利用・適用に関する研究」の要約版・実務家用として編集されたものである。関心のある読者は次のウェブページにおいて調査研究論文をダウンロードすることができる。 (http://tinyurl.com/zakabrr) FRAUDマガジン編集部 ここに金を稼ぐ方法が一つある。カリフォルニア自動車保険不正集団のメンバーは、互いの自動車を衝突させ、虚偽の請求を行う。不正実行犯達は、5,000ドルから5万2,000ドルの示談金を受け取る。その手口は、自分で熱いコーヒーをこぼしたことにより自動車が制御を失ったためと主張するのである。不正実行犯達は同一の自動車、住所、電話番号、時として名前も同一のものを使用する。その大半が新規に保険に加入した直後に保険金請求を行うというものである。2015年7月にサンタ・クララ郡が彼らを追い詰め、33名の構成員を逮捕するまでの間、巧妙なだましの手口と呼べるものだった(参照: “33 Arrested in Major South Bay Insurance Fraud Ring,” by Alan Wang, KGO-TV, ABC, July 16, 2015, http://tinyurl.com/jucltk8. 「南湾岸地域の大規模保険詐欺集団の33名を逮捕」)。 自動車保険不正は、大きく3つのカテゴリーに分類できる。便乗型詐欺 (opportunistic fraud) においては、個々の請求者が実際の事故を利用し、事故によって生じた損害を過大申告することによって不当な利益を得るものである。計画的 (premeditated)詐欺は、犯行者が、保険会社に対して自動車修理や治療に必要な物品や役務のコストの過大申告を繰り返すことによって実行される。 しかしながら、第三のタイプの自動車保険不正は、組織犯罪 (organized crime scheme) として米国、カナダにおいて自動車保険業者に過去最大の損失をもたらした(例えば、予め仕組まれた自動車事故とコーヒーをこぼしたという申立てを伴ったものがある)。(参照:“Ontario Auto Insurance Anti-Fraud Task Force - Interim Report,” December 2011, http://tinyurl.com/j2tmxkf.、「オンタリオ反自動車保険詐欺作業部会:中間報告」2011年12月) 自動車保険不正請求に起因する経済的な損失は、米国の国境を越える。保険ホットラインドットコム(insurancehotline.com) によると、2014年の典型的なカナダの自動車保険料1,500カナダドルのうち15%、つまり225カナダドルは、自動車保険不正請求に起因した支払に充てられていた可能性があるのだ。カナダ統計局 (Statistics Canada) によると、2013年には、国内に2,100万台の自動車 (4,500キログラム、約9,900ポンド未満) が登録されていた。自動車保険不正請求詐欺によって年間47億カナダドルに匹敵する額の支払いをカナダの自動車運転者達は余儀なくされている可能性がある。(参照: “Auto Insurance Fraud: Was That Auto Accident Really An Accident?” Aug. 11, 2014, http://tinyurl.com/z3jcgrc Statistics Canada, http://tinyurl.com/hc26xbr. 「自動車保険不正:その自動車事故は本当に事故だったのか?」) 2012年2月、トロント・スター(訳注:カナダの新聞の名称)は、ウィップラッシュ・プロジェクト(Project Whiplash) の顛末を公開した。トロント警察、カナダ保険協会 (Insurance Bureau of Canada) が行った合同捜査は、トロントの、グレーター・トロント・エリア (Greater Toronto Area, GTA) におけるタミル人のコミュニティーに形成された、洗練された形の自動車保険不正集団を白日の下にさらしたのだった。(参照:“Car insurance scam: 37 arrested in Project Whiplash raids,” by Wendy Gillis and Josh Tapper, Feb. 23, 2012, thestar.com, http://tinyurl.com/zr3j62w. 「自動車保険不正:ウィップラッシュ・プロジェクト 37名を逮捕」 ) ウィップラッシュ・プロジェクトでは、多くの逮捕者がでて、計130件の有罪となったが、77件の仕組まれた衝突事件が関与した。トロント警察によると、マーカムとトロント出身の10名の人物がこの壮大な詐欺事件の主犯とされた。ステートファームカナダ (State Farm Canada) は、カナダの自動車詐欺スキームを疑った最初の保険会社の一つだった。詐欺的な保険金請求によって同社は5,400万カナダドルもの支払を強いられたからである。 詐欺的な保険金請求がうまくいく場合、高いレベルの信用力を持ち、かつ複雑な保険業界の仕組みや法律、金融を熟知したホワイトカラーを含むプレイヤー達のネットワークを指揮する司令塔役がいるものである。実際、トロントにおける詐欺グループの中には、パラリーガル、複数の医療機関の医師、理学療法士が含まれていた。
2019.10.04 16:28:47