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非GAAP指標はいつ不正な公表になるのか? 財務報告における新しいリスクの出現(その1 全4回)

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 何年もの間、会社はGAAPまたはIFRS基準の下で自社の数値を報告していた。しかし、財務報告とプレスリリースにおいて、会社がGAAP/IFRSベースの財務情報と他の主要指標とを混合した場合に何が起きるのか?これらの特別な指標は基準を持たず、誰もその監査をしていない。不正に最適な条件が揃っている。

 会社を創業しよう。Sprocketblend社は、一般に公正妥当と認められる会計原則(GAAP)に従ってその財務諸表を作成している。これらは、それらの財務諸表を作成するために会社が用いる一連の一般的な会計原則、会計基準および手続から構成されている。第1四半期のプレスリリースでは、Sprocketblend社は、その営業成績を説明するために、その財務諸表に見られるGAAPの表現の多くを用いている。しかし、そこには、「経常純利益(Recurring Net Income, RNI)」と呼ばれる非GAAPの指標も含まれていた。RNIは、GAAPにもとづき報告された純利益にある種類の経費および他の調整項目を追加することによって計算される。Sprocketblend社のGAAPベースの純利益が月並みであったのに対して、RNIは、同社が極めて上手く運営されていることを示している。この会社の監査はRNIを対象としておらず、従って、プレスリリースの読者は頭をかきむしっていた。なぜなら、彼らは、Sprocketblend社がその数値について正直であったか、わずかな不正を行っている可能性があるか分からなかったからである。これはよろしくない。
 この急激に表面化してきた財務報告不正の脅威を例示する最近の2つの実例をもう少し深く掘り下げてみよう。
 米国証券取引委員会 (SEC) は5月の強制措置によって、Swisher Hygiene 社がGAAPに違反して、その2011年の財務諸表を不正に作成したと結論付けた。SECは、Swisher社が訴追延期合意に応じ、200万ドルの罰金を支払ったと報告した。Swisher社のGAAPからの逸脱は、債務の期限前償還違約金、特定の雇用契約、アーンアウト1、およびその他各種の不適切な収益管理問題を引き起こしていた。(参照:http://tinyurl.com/jvdfgdo)
 SECは、4月の強制措置により、Cabela社に100万ドルの罰金を課した。それは、正確な会計記録および内部統制の十分なシステムを維持することを求める証券取引法 (the Securities Exchange Act) に対する違反に関するものであった。Cabela社のケースでは、これらの違反が、その連結財務諸表を準備する際、ある一定のグループ企業間の販売促進費の相殺の誤り、つまり1つのGAAP違反を引き起こした。(参照:http://tinyurl.com/zk8bpop)
 Swisher社とCabela社による違反事例について興味をそそられる点は彼らが違反した個々の会計ルールではなく、むしろ違反の要因となった潜在的な動機である。財務報告不正の実行者の大多数は、GAAPまたはIFRS(国際財務報告標準)の下で報告される、収益、純利益または資産合計の具体的な数値の虚偽表示を望む動機を持っているが、その一方で非GAAP業績指標がこれらの事例を引き起こした。
 Swisher社のケースで焦点となったのは、「調整されたEBITDA (Adjusted EBITDA)」であり、それは、同社がプレスリリースにおいて会社の業績を議論する際に、重点的に用いた指標であった。EBITDAは、一般的に多くの会社が報告する非GAAP用語であり、「金利・税金・減価償却費および償却費前利益」の頭文字である(言い換えれば、純利益または純損失にこれらの経費を追加する)。
 Swisher社の開示によれば、調整されたEBITDAは、外国為替差益、債務・公正価値評価(株式による報酬)・合併および買収にかかる第三者コストから生じる純利益および純損失の一部の追加項目を控除して計算される。Swisher社は、GAAP違反によって、この重大な非GAAP指標上で彼らが目標にした業績を達成することができた。
 Cabela社は、GAAP違反を引き起こした独自の非GAAP指標を持っていた。同社が連結財務諸表を準備する際、一定のグループ企業間の販売促進費の相殺の誤りは、GAAP指標である純利益に影響を及ぼしていなかった。なぜなら、親会社の商品売上高および子会社の営業費用は等しい金額で水増しされていたからである。しかしながら、同社は、SECの表現によれば「収益に関するリリースおよびアナリスト説明会で、会社によって言及された収益性に関する会社独自の財務指標」である「商品売上総利益率 (merchandise gross profit margin)」を水増しした。

非GAAP指標がリスクをもたらす理由 (Why non-GAAP measures pose a risk)

 客観的に複数の会社を比較するか、経時的に1つの会社の業績を分析するのに必要な最も重要な要素の1つは、財務諸表の作成基準として合意された原則の一貫した適用である。世界中のほとんどの法域において、これらの原則はGAAPと称される。各国固有のGAAP(US—GAAP、UK—GAAP、AU-GAAP等)に加えて、現在世界中の多くの会社がIFRSを適用している。
 しかし、会社がその財務報告とプレスリリースにおいて、GAAP/IFRSベースの財務情報とその他の財務業績指標と混同した際に起こることとは何だろう?これらの追加的な指標は基準がなく、誰もそれらを監査しない。投資家が重要な投資上の決定をする際、規定された会計基準に従って会社が報告するデータに依存するのと同様に、これらの追加情報に依拠するべきであろうか?不正リスクは高まるのだろうか?
 非GAAP指標は、「選択的」および「偏っている」と評されてきた。選択的でまたは偏った情報を公表することは、不正行為だろうか? そうではない。もしそうであるならば、我々は、事実上すべてのメディアリリースと広告を不正だと考えるであろう。(多くの識者がそうしていると思うけれども)。

(その2に続く)

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ACFE JAPAN事務局注
1. 企業買収時に買収の対価を一括で支払わず、一定の条件が成立したときの分割払い形式とした場合の支払い義務。

初出:FRAUDマガジン53号(2016年12月1日発行)



この記事の執筆者

執筆者:
Regent Emeritus Gerry Zack, CFE, CPA, CIA
BDOコンサルティングのグローバル不正リスクアドバイザリー部門の業務執行取締役(managing director)であり、不正リスクアドバイザーおよび調査サービスを提供している。ACFE の教職員メンバーであり、2015年のACFE理事会の議長であった。
翻訳協力:
浅利昌克、CFE、CPA
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである

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 何年もの間、会社はGAAPまたはIFRS基準の下で自社の数値を報告していた。しかし、財務報告とプレスリリースにおいて、会社がGAAP/IFRSベースの財務情報と他の主要指標とを混合した場合に何が起きるのか?これらの特別な指標は基準を持たず、誰もその監査をしていない。不正に最適な条件が揃っている。 会社を創業しよう。Sprocketblend社は、一般に公正妥当と認められる会計原則(GAAP)に従ってその財務諸表を作成している。これらは、それらの財務諸表を作成するために会社が用いる一連の一般的な会計原則、会計基準および手続から構成されている。第1四半期のプレスリリースでは、Sprocketblend社は、その営業成績を説明するために、その財務諸表に見られるGAAPの表現の多くを用いている。しかし、そこには、「経常純利益(Recurring Net Income, RNI)」と呼ばれる非GAAPの指標も含まれていた。RNIは、GAAPにもとづき報告された純利益にある種類の経費および他の調整項目を追加することによって計算される。Sprocketblend社のGAAPベースの純利益が月並みであったのに対して、RNIは、同社が極めて上手く運営されていることを示している。この会社の監査はRNIを対象としておらず、従って、プレスリリースの読者は頭をかきむしっていた。なぜなら、彼らは、Sprocketblend社がその数値について正直であったか、わずかな不正を行っている可能性があるか分からなかったからである。これはよろしくない。  この急激に表面化してきた財務報告不正の脅威を例示する最近の2つの実例をもう少し深く掘り下げてみよう。 米国証券取引委員会 (SEC) は5月の強制措置によって、Swisher Hygiene 社がGAAPに違反して、その2011年の財務諸表を不正に作成したと結論付けた。SECは、Swisher社が訴追延期合意に応じ、200万ドルの罰金を支払ったと報告した。Swisher社のGAAPからの逸脱は、債務の期限前償還違約金、特定の雇用契約、アーンアウト1、およびその他各種の不適切な収益管理問題を引き起こしていた。(参照:http://tinyurl.com/jvdfgdo)  SECは、4月の強制措置により、Cabela社に100万ドルの罰金を課した。それは、正確な会計記録および内部統制の十分なシステムを維持することを求める証券取引法 (the Securities Exchange Act) に対する違反に関するものであった。Cabela社のケースでは、これらの違反が、その連結財務諸表を準備する際、ある一定のグループ企業間の販売促進費の相殺の誤り、つまり1つのGAAP違反を引き起こした。(参照:http://tinyurl.com/zk8bpop) Swisher社とCabela社による違反事例について興味をそそられる点は彼らが違反した個々の会計ルールではなく、むしろ違反の要因となった潜在的な動機である。財務報告不正の実行者の大多数は、GAAPまたはIFRS(国際財務報告標準)の下で報告される、収益、純利益または資産合計の具体的な数値の虚偽表示を望む動機を持っているが、その一方で非GAAP業績指標がこれらの事例を引き起こした。  Swisher社のケースで焦点となったのは、「調整されたEBITDA (Adjusted EBITDA)」であり、それは、同社がプレスリリースにおいて会社の業績を議論する際に、重点的に用いた指標であった。EBITDAは、一般的に多くの会社が報告する非GAAP用語であり、「金利・税金・減価償却費および償却費前利益」の頭文字である(言い換えれば、純利益または純損失にこれらの経費を追加する)。  Swisher社の開示によれば、調整されたEBITDAは、外国為替差益、債務・公正価値評価(株式による報酬)・合併および買収にかかる第三者コストから生じる純利益および純損失の一部の追加項目を控除して計算される。Swisher社は、GAAP違反によって、この重大な非GAAP指標上で彼らが目標にした業績を達成することができた。  Cabela社は、GAAP違反を引き起こした独自の非GAAP指標を持っていた。同社が連結財務諸表を準備する際、一定のグループ企業間の販売促進費の相殺の誤りは、GAAP指標である純利益に影響を及ぼしていなかった。なぜなら、親会社の商品売上高および子会社の営業費用は等しい金額で水増しされていたからである。しかしながら、同社は、SECの表現によれば「収益に関するリリースおよびアナリスト説明会で、会社によって言及された収益性に関する会社独自の財務指標」である「商品売上総利益率 (merchandise gross profit margin)」を水増しした。
2019.08.02 16:07:36