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汚れたデジタル通貨 マネーローンダリング事案が示すサイバー犯罪者のデジタル通貨利用法 (その1 全4回)

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 きわめて複雑なグローバル経済にサイバー犯罪やID窃盗は徐々に展開してきた。悪事を行う者たちは自分自身、犯罪行為やその収益を隠すため、デジタル通貨やインターネットがもたらす匿名性を利用する。9年間に及ぶこのサイバー犯罪捜査の事案は、法執行機関による犯罪対策の数少ない成功事例の1つである。
 2005年初め、私はニューヨーク郡地区検事事務所の下級検察官だった。市中の犯罪を起訴する職務に加えて、有名な地方検事ロバート・M・モーゲンソウ(Robert M. Morgenthau)が当時立上げたばかりだったID窃盗ユニットに配属された。私は、承認していないのにクレジットカードがオンラインショップで使用され、商品がマンハッタンにある住所に出荷されたとする被害者からの申立てを受けた。
 同僚の捜査官と私は、この窃盗に関係するオンライン参加者の金銭の流れを追跡し、マンハッタンにある「ウエスタン・エクスプレス・インターナショナル・インク (Western Express International Inc.)」というデジタル通貨交換業者に注目するようになった。表面上、ウエスタン・エクスプレス社は、東欧を拠点に米国で働き、ロシア語を話す者を顧客とする小切手買取や送金を行う業者のように見えた。しかし、同社は小切手買取や送金の許可を州から得ておらず、2006年に我々はこれらの罪で彼らを首尾よく起訴できた。
 押収したコンピュータや記録の分析により、デジタル通貨交換の顧客の多くがサイバー犯罪やID窃盗のエリートであることや、この会社が故意に犯罪を助長したり、違法な収益を洗浄(ローンダリング)したりしていることが判明した。
最終的には、ウエスタン・エクスプレス社とその顧客の一部は(デジタル通貨に関わる)マネーローンダリングをはじめ、盗まれたクレジットカードデータや他の個人特定情報(personally identifiable information, 以下適宜「PII」)の不正売買に関連した罪等、様々な嫌疑により起訴された。
 これらの起訴や有罪判決に導いた捜査について詳細を話してみたい。

顧客の本人確認を行っておらず、関心を払っていなかった (THEY DIDN’T KNOW THEIR CUSTOMERS AND DIDN’T CARE)

 クレジットカード不正に関する初期の報告を調べると、別件でクレジットカード番号は異なるが、同一のマンハッタンの住所に商品の出荷を指示する不正が発生しているとのオンライン業者の供述があった。そこで他のオンライン業者を調べてみると直ぐに、この「出荷先」住所宛の出荷を伴う、約100件の不正な注文を特定した。
 不正な注文における出荷先は、ID窃盗の主犯格ではなく、再販売スキーム(再出荷スキームとは別の手口)に参加するだけの者であった。再出荷スキームであれば、サイバー犯罪者が「受取係 (drop)」(つまり騙されやすい人)を募って、盗まれたクレジットカード情報の口座情報を使って購入した商品をそうとは知らせずに受取らせ、サイバー犯罪者に管理された住所(典型的には外国)に出荷させる。ここで話している手口では、このマンハッタンの住所の人物は、購入された商品を受取り、オンラインで再販売して収益を得ていた。
 再販売者は犯罪者への支払いをEゴールドやデジタル通貨で行い、犯罪者はそのEゴールドの一部をウエスタン・エクスプレス社経由で移動させた。その当時、私は、Eゴールド、デジタル通貨、サイバー犯罪、カーダー(carders、訳注:盗まれたクレジットカード等が使えるか確認する者)、インターネットプロトコル (IP) アドレス、ならびにマネーローンダリングについて、ほとんど何も知らなかった。
 Eゴールドは、サイバー犯罪、ID窃盗、児童ポルノ、ポンジスキーム(訳者注:ねずみ講)を行う者、また信用に基づいて政府が発行する通貨ではなく「金本位制」を信じる者に人気がある。また、Eゴールドはデジタル通貨の中で流行の最先端にあり、本流になりつつある。

(その2に続く)
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初出:FRAUDマガジン52号(2016年10月1日発行)
FRAUDマガジン編集部:この記事は、2016年6月に開催された第27回ACFEグローバルカンファレンスにおける著者のセッションの講演録に一部修正を加えたものである。

この記事の執筆者

John Bandler Esq., CFE, CISSP, GCIH 
法人や個人向けに、サイバーセキュリティ、データ・プライバシー、調査、マネーローンダリング対策に関する法律業務とコンサルティング事業を運営している。ニューヨーク郡地区検事事務所の検察官であった13年をはじめ、20年にわたる行政での経験を持つ。
翻訳協力:谷口和久、CFE, CIA, CISA, CAMS
※執筆者・翻訳協力者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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2019.04.26 13:17:22