HOME コラム一覧 言葉に架ける橋 不正調査チームにプロの通訳者を迎える(その1 全4回)

言葉に架ける橋 不正調査チームにプロの通訳者を迎える(その1 全4回)

post_visual

 国境を越え、異文化の国に跨がる不正調査を行う際には、通訳サービスは欠かせません。本稿では、外国語を話すクライアントと仕事をする場合、調査前、調査中及び調査後に通訳者を介して効果的にコミュニケーションを取る方法を解説します。

 2011年、私はパラグアイのアスンシオン(Asunción)にある公認会計士事務所で働いてひと夏を過ごしました。滞在中にパラグアイ、ブラジル、アルゼンチンの3ヵ国の国境に近いパラグアイの街シウダ・デル・エステ(Ciudad del Este)のクライアントを訪問しました。その街はパラグアイの他のどの街よりも不正と汚職が蔓延しており、麻薬取引、密輸や組織犯罪等で知られていました(http://tinyurl.com/gtqd2ov)。パラグアイとブラジルとの間の「友好の橋(Friendship Bridge)」で密輸が行われており、税金逃れのために 国境の役人に賄賂を提供していることは地元の人々によく知られていることで、 私のような他所からの訪問者でもこの地域に蔓延する汚職の空気を感じることができました。
 公認不正検査士(CFE)はグローバルな不正や汚職との闘いの先頭に立つ存在ですが、その多くは1つの言語しか話すことができません。このように言葉のギャップが存在する中で、質の高いグローバルな不正調査を行うにはどうすればよいのでしょうか? 自分自身の文化と大きく異なる環境の中でどうすれば効率的に仕事ができるのでしょうか?プロの通訳者はこのようなギャップの懸け橋となり、グローバルな不正調査を可能にしてくれます。グローバル化する経済の中で、CFEは不正調査チームの一員としてプロの通訳者を迎え、戦力として活用することを考えなければなりません。
私は、臨時の法廷通訳者としての自主トレーニングを行ったことや、スペイン語とポルトガル語を話すクライアントの案件を手掛けたことがあります。本稿では、このような経験に基づき、通訳者を起用するにあたってのコツや注意すべき点を紹介します。本稿を通じて、プロの通訳者が質の高いグローバルな不正調査を行う上で重要な役割を果たすことをCFEの皆さんにご理解頂ければ幸いです。
(本稿全体を通して、「クライアント」とは、限られた言語能力しか持たない弁護士・訴訟代理人(counsel)、経営者(management)、被疑者(subjects)を指します)

通訳サービス(Interpreting services)

 あなたとクライアント、双方の言語能力が限られている場合、優れたコミュニケーションがない限り、質の高い不正調査を行うことができません。明瞭なコミュニケーションがあってこそ、不正の申し立ての概要を理解することができ、また、その組織の複雑な人間関係、方針・手順マニュアルの完成度、目撃証言や不正実行者の悔恨の告白を理解することができるのです。
 クライアントが私たちと同じ言語を話せない場合や、話せたとしても言語レベルが低く、ミスコミュニケーションのリスクが高い場合は、十分に訓練を受けたな通訳者の力が必須です。明瞭なコミュニケーションの失敗は、不信感やフラストレーション、時には不十分な調査結果をもたらす原因となりますし、結果としてACFEの職業基準(ACFE’s Standards of Professional Conduct, ACFE.com/standards)に対する違反につながることもあります。
 通訳者を探すなら、調査実務に精通している人を選ぶべきです。訓練を受けていないバイリンガルや、単なる未熟な通訳者は調査そのものを台無しにする可能性があります。ミスコミュニケーションのリスクは、通訳者が専門的な教育を受けていなければより大きくなります。シナリオ1と2のCFEと通訳者のやり取りを見てわかるように、未熟な通訳者の起用はクライアントとの重要なやり取りを歪曲する可能性があります。
 シナリオ1は、通訳者の通訳ミスによりCFEがクライアントの預金袋(deposit bag)に入っている小切手の紛失に関する調査の機会を逸したケースです。通訳者は、(現金と小切手の両方が入っていた)「預金袋(deposit bag)」という単語を、「現金(cash)」と訳しました。通訳上の誤りなのでクライアントの責任ではありません。このような通訳上の誤りにより、クライアントの回答も誤解を招くものになりました。また、CFEはスペイン語が話せないので、通訳者がそんな大きな通訳上の誤りを犯したことに気づきませんでした。

シナリオ1

・CFEから通訳者への質問:
  預金袋(deposit bag)が紛失していることに最初に気づいたのはいつか尋ねてもらえますか?
・通訳者からクライアントへの質問(スペイン語):
  彼はいつ現金(cash)が盗まれたか知りたがっています。
・クライアントから通訳者への回答(スペイン語):
  いつ現金が盗まれたのか私は知りません。私の職務は小切手を預金することです。
・通訳者からCFEへの回答:
  彼は知らないと言っています。

(その2に続く)
---------------------------------------
初出:FRAUDマガジン51号(2016年8月1日発行)

この記事の執筆者

Mitchell R. Davidson, CFE, CPA, CMA, CIA
アリゾナ州フェニックスのNavigant Consulting Inc.の上級コンサルタントである。
翻訳協力:佐藤 恭代 CFE、CIA、CPA(ワシントン州)
※執筆者・翻訳協力者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

企業の不正リスク対策

記事の一覧を見る

関連リンク

不正リスク(バックナンバー一覧)

記憶に残る事例Part2 もっと多くの指導されるべきためになる話(その1 全4回)

迫り来るミレニアル世代を標的にした不正の潮流(その1 全4回)

二度と騙されないぞ。しかし彼らは企てる。(その1 全3回)

二度と騙されないぞ。しかし彼らは企てる。(その2 全3回)

二度と騙されないぞ。しかし彼らは企てる。(その3 全3回)

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2019/img/thumbnail/img_24_s.jpg
 国境を越え、異文化の国に跨がる不正調査を行う際には、通訳サービスは欠かせません。本稿では、外国語を話すクライアントと仕事をする場合、調査前、調査中及び調査後に通訳者を介して効果的にコミュニケーションを取る方法を解説します。 2011年、私はパラグアイのアスンシオン(Asunción)にある公認会計士事務所で働いてひと夏を過ごしました。滞在中にパラグアイ、ブラジル、アルゼンチンの3ヵ国の国境に近いパラグアイの街シウダ・デル・エステ(Ciudad del Este)のクライアントを訪問しました。その街はパラグアイの他のどの街よりも不正と汚職が蔓延しており、麻薬取引、密輸や組織犯罪等で知られていました(http://tinyurl.com/gtqd2ov)。パラグアイとブラジルとの間の「友好の橋(Friendship Bridge)」で密輸が行われており、税金逃れのために 国境の役人に賄賂を提供していることは地元の人々によく知られていることで、 私のような他所からの訪問者でもこの地域に蔓延する汚職の空気を感じることができました。 公認不正検査士(CFE)はグローバルな不正や汚職との闘いの先頭に立つ存在ですが、その多くは1つの言語しか話すことができません。このように言葉のギャップが存在する中で、質の高いグローバルな不正調査を行うにはどうすればよいのでしょうか? 自分自身の文化と大きく異なる環境の中でどうすれば効率的に仕事ができるのでしょうか?プロの通訳者はこのようなギャップの懸け橋となり、グローバルな不正調査を可能にしてくれます。グローバル化する経済の中で、CFEは不正調査チームの一員としてプロの通訳者を迎え、戦力として活用することを考えなければなりません。私は、臨時の法廷通訳者としての自主トレーニングを行ったことや、スペイン語とポルトガル語を話すクライアントの案件を手掛けたことがあります。本稿では、このような経験に基づき、通訳者を起用するにあたってのコツや注意すべき点を紹介します。本稿を通じて、プロの通訳者が質の高いグローバルな不正調査を行う上で重要な役割を果たすことをCFEの皆さんにご理解頂ければ幸いです。(本稿全体を通して、「クライアント」とは、限られた言語能力しか持たない弁護士・訴訟代理人(counsel)、経営者(management)、被疑者(subjects)を指します)
2019.03.29 16:35:10