二度と騙されないぞ。しかし彼らは企てる。(その3 全3回)
CEOのピーターセンが行ったのはまさにこれであった。副社長宛の電子メールの中で彼は「我々は最高に高い利益率を報告する方法を捜さねばならない」と述べており、また別の電子メールで「・・・他にどのような利益の改善策を思いつくか?」と尋ねている。ピーターセンは「顧客本位のプログラム“customer based program, CBP”」を導入したが、それは要するに監査人を欺くための名前を持った値引き以外の何者でもなかった。これらの顧客の勘定に転記された金額は意図的に販促プログラム費として処理されたが、その顧客がOCZからいかなるサービスも(価値のある他のどんな物も)提供されたことはなかった。
あるケースでは、ピーターセンは顧客と単価52ドルで合意したが、注文書には単価60ドルで差額の8ドルはCBPとしての顧客への払戻に由来すると記載するように要求した。ピーターセンは、顧客への割引を(正確に)「リベート」(彼が送信した電子メールには「二度とその言葉を使うのは許さない!」と書かれていた)や会計規則が営業費用ではなく値引きとして扱うように求めるその他のすべてのものの名称で呼んだ従業員を叱責さえしていた。
CBPのこのような性質を監査人から隠すために、ピーターセンは従業員に、(同社は営業取引ではより細かいパーセンテージで交渉することが頻繁であったにも関わらず)、これらの値引きを切りの良い金額で記入すること、そしてCBPの日付を営業取引と一致させないように変更することを命じた。
長々と続くディナーと同様で、この事例は1つだけのコースで終わらなかった。二番目のコースで、ピーターセンはOCZの最大の顧客に対する「押し込み販売“channel stuffing”」、つまり顧客が望むまたは合理的に販売できる量を超えた製品の出荷を行なった。押し込み販売は本質的には不正ではない。しかし取引の実体が利益認識としての会計基準を満たさず、事業者がとにかく利益を記録するならば、不正な財務報告という結果に終わる。そして、これがOCZの事例で行われていたことである。
実体のあるCBPを顧客に提供することに加えて、ピーターセンは以前に販売した製品の価格に後からの調整をすることで顧客により多くの製品を引き受けることを納得させたが、彼は顧客がその製品を販売する速度を考えるとOCZはこれらの新たな販売の代金の回収が不可能になるであろうことを知っていた。
顧客は、ピーターセン宛の電子メールで、「実売後の支払」に同意したことを注意書きしていたが、これは、利益認識を妨げるさらにもう一つの特徴を持つ委託関係を示唆している。顧客はOCZの製品の在庫が過剰であることに対する多数の苦情の訴えを送付していた。
最後に第三のコースだが、ピーターセンは、顧客に返品をさせないようにする試みが失敗した後(別の顧客からの)返品を隠匿していた。この中国の顧客は、100万ドル相当の製品を台湾にあるOCZの倉庫に返品していた。ピーターセンは、最初に従業員に返品処理を行わないように指示し、後で、その製品がまだ顧客の所有であるように見せるために台湾の倉庫から運び出すためのトラックを手配した。
それよりはるかに大規模な例では、ピーターセンは代理店からの350万ドル相当の返品をOCZの財務部門から隠ぺいした。ピーターセンはその返品を承認したが、それを運ぶ運送業者の管轄下にある倉庫に保管した。彼はその後、自社の財務部門の従業員に対して、自分は顧客からの返品の要請を却下したと告げた。
完璧な不正のレシピ(Perfect fraud recipe)
不正実行者は、自身の犯罪を隠すためにこのような驚くべき手間をかけて監査人に大胆に挑戦する。さらに一層警戒すべきなのは、利益とは何の関係もなさそうな人間であっても、時には不正実行者に協力することがあるという点である。例えば、監査人を欺くためにあれほど貴重な援助をしたKITの顧客がその労力に見合うだけの特別な対価を受け取っていた兆候を調査担当者は何も見つけられなかった。同様にCEOの命令に従っていたOCZの従業員は、苦情の中に示された証拠からも自分達が過ちを犯していることを知っていたように見える。
自分の犯罪を隠そうとする不正直な首謀者の意図と、知ってか知らずかそれに手を貸してしまう顧客や従業員が組み合わされると監査人から不正を隠す完璧なレシピが出来上がる。
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初出:FRAUDマガジン50号(2016年6月1日発行)