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二度と騙されないぞ。しかし彼らは企てる。(その2 全3回)

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 不正実行者にとっての最後のハードルは、顧客が2011年5月を期日とする最後の支払いを保留にしたことである。実際、ソフトウェアは1つも納品されていなかったので顧客はKITに何の支払いもしていなかった。独創的な詐欺師にとってこれは全く問題にならなかった。2011年6月にKITは顧客と英領バージン諸島(British Virgin Islands, BVI)の法人との間に150万ドルの「融資(loan)」契約を準備した。このスキームでBVIは資金をドバイに所在するエスクロー・エージェントを介して直接KITに送金した。顧客はKITがソフトウェアを納入するまで貸付金の「返済」を求められなかった。事は計画通りに進んでいた。
 2011年8月4日にエスクロー・エージェントはKITに150万ドルを送金し、KITはこの入金を顧客から支払われるべき売掛金に対する支払いとして記録したが、この支払の本当の性質や融資契約の存在を監査人に開示することはなかった(トリックその5)。KITは適切に開発されたバージョンのソフトウェアを顧客に提供することはできなかった。
 それだけではなかった。KITは他の顧客からの売掛金の回収にも問題を抱えていた。(申し立てにはこの売り上げが正当なものであったか否かは含まれていないが、先行する話を前提とすると、私は疑わしいと思っている)。そこでKITはこの売掛金を回収したかのように見せかけるためにラウンド・トリッピング(round tripping:循環取引)計画を立案した。循環取引スキームでは、会社はある顧客が何かに対して支払いをしたように装うため自身の金を使用する。(ラウンド・トリッピングについてさらに詳しく知りたい方は英語版FRAUD Magazine May/June 2015 http://tinyurl.com/paud6vzをご覧いただきたい)
 2011年12月にKITはキプロスのエスクロー・エージェント宛に800万ドル送金した。その時点でKITはもう1つの会社Sezmi Corpを買収しつつあった。2012年1月の初旬にKITはSezmiをKIT株1,100万ドル、債務の引受、および(夢にも思えないだろうが)現金800万ドルで買収したと発表した。800万ドルの現金の対価はKITが監査人に提供した買収契約に含まれていた。KITが監査人に示さなかったものは別の約定書であり、この契約によってSezmiは800万ドルをKITの「買収後の統合費用」に割当てる決定に同意しており、Sezmiはこの資金を請求することはなかった(トリックその6)。
 このことでKITには帳簿外の裏金が生み出され、KITの財務諸表上、全てはSezmiの買収に起因する営業権として説明された。KITに戻った800万ドルは未払い分の売掛金に対する顧客からの支払として不適切に記録された。
 驚いたことにKITは、監査人を欺くスキームを含むその他の不正にも手を染めていた。だが、事例1件につき、6つのスキームで十分なので、監査人に対する欺瞞を超える教訓を含むもう1つの事例に注目しよう。

OCZ テクノロジーグループ( OCZ Technology Group)

 OCZ テクノロジーグループとKITには少なくとも2つの共通点がある。つまり両者とも帳簿を改ざんし、現在は破産している。OCZの事例では元CEOのライアン・ピーターセン(Ryan Petersen)がほぼ全ての不正を指揮した。彼は、いくつかの不正を監査人だけでなく社内の財務部門からも隠ぺいしていた(参照:2015年10月のSECによる告訴http://tinyurl.com/j7mlwma)。
 ピーターセンは不正の最初の部分をOCZの売却のための評価における2つの主要な数字である同社の売上収益と粗利益の改善を目指して実行した。彼は、営業費に見せかけた顧客に対する実質的な値引きによりこれを達成した。
 この問題について会計規則は非常に明確である。もし、1つの顧客に対する支払いが、収益の減少(値引き)ではなく、費用として認められるなら、それは会社が売買取引と別個の顧客から確認できる利益を受け取る取引に由来するものでなければならない。(会社が別の当事者からのサービスを受けられたはずである)その利益の適正価格が見積もられる。いずれにしても純利益に対する影響はない。しかし、売上の割引を営業経費に移せば売上と粗利益の両方を水増しできる。

(その3に続く)
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初出:FRAUDマガジン50号(2016年6月1日発行)



企業の不正リスク対策

Regent Emeritus Gerry Zack, CFE, CPA, CIA
不正リスクアドバイザリーと調査サービスを提供するBDOコンサルティングの業務執行取締役(managing director)である。2015年のACFE理事会の議長であり、ACFEの教職員メンバーでもある。
※執筆者・翻訳協力者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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 不正実行者にとっての最後のハードルは、顧客が2011年5月を期日とする最後の支払いを保留にしたことである。実際、ソフトウェアは1つも納品されていなかったので顧客はKITに何の支払いもしていなかった。独創的な詐欺師にとってこれは全く問題にならなかった。2011年6月にKITは顧客と英領バージン諸島(British Virgin Islands, BVI)の法人との間に150万ドルの「融資(loan)」契約を準備した。このスキームでBVIは資金をドバイに所在するエスクロー・エージェントを介して直接KITに送金した。顧客はKITがソフトウェアを納入するまで貸付金の「返済」を求められなかった。事は計画通りに進んでいた。 2011年8月4日にエスクロー・エージェントはKITに150万ドルを送金し、KITはこの入金を顧客から支払われるべき売掛金に対する支払いとして記録したが、この支払の本当の性質や融資契約の存在を監査人に開示することはなかった(トリックその5)。KITは適切に開発されたバージョンのソフトウェアを顧客に提供することはできなかった。 それだけではなかった。KITは他の顧客からの売掛金の回収にも問題を抱えていた。(申し立てにはこの売り上げが正当なものであったか否かは含まれていないが、先行する話を前提とすると、私は疑わしいと思っている)。そこでKITはこの売掛金を回収したかのように見せかけるためにラウンド・トリッピング(round tripping:循環取引)計画を立案した。循環取引スキームでは、会社はある顧客が何かに対して支払いをしたように装うため自身の金を使用する。(ラウンド・トリッピングについてさらに詳しく知りたい方は英語版FRAUD Magazine May/June 2015 http://tinyurl.com/paud6vzをご覧いただきたい) 2011年12月にKITはキプロスのエスクロー・エージェント宛に800万ドル送金した。その時点でKITはもう1つの会社Sezmi Corpを買収しつつあった。2012年1月の初旬にKITはSezmiをKIT株1,100万ドル、債務の引受、および(夢にも思えないだろうが)現金800万ドルで買収したと発表した。800万ドルの現金の対価はKITが監査人に提供した買収契約に含まれていた。KITが監査人に示さなかったものは別の約定書であり、この契約によってSezmiは800万ドルをKITの「買収後の統合費用」に割当てる決定に同意しており、Sezmiはこの資金を請求することはなかった(トリックその6)。 このことでKITには帳簿外の裏金が生み出され、KITの財務諸表上、全てはSezmiの買収に起因する営業権として説明された。KITに戻った800万ドルは未払い分の売掛金に対する顧客からの支払として不適切に記録された。 驚いたことにKITは、監査人を欺くスキームを含むその他の不正にも手を染めていた。だが、事例1件につき、6つのスキームで十分なので、監査人に対する欺瞞を超える教訓を含むもう1つの事例に注目しよう。
2019.03.15 15:53:34