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二度と騙されないぞ。しかし彼らは企てる。(その1 全3回)

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 巧妙な不正実行者に欺かれた後で監査人の多くはザ・フー(The Who)のピート・タウンゼント(Pete Towns-hend)に賛成しながら、二度と騙されないぞという決意を表明する(訳注:The Whoのアルバム“Who's next”に、ピート・タウンゼントの作詞による“Won’t Get Fooled Again”が収録されている)。私が分析してきた事例の多くに内在する疑問の1つは「監査人は何をしていたのか?」というものである。そして何年もの間、私は、監査人が明らかな不正の警告サインに注意を払うのを怠った事例から、監査人の努力を批判するのは難しいと誰もが感じる事例まで色々なケースを見てきた。
 後者のカテゴリには、不正実行者が監査人を欺くために大掛かりな仕掛けをした非常に興味深い事例がある。このコラムでは不正スキームの性質よりも、むしろ不正実行者のこれらの企てに焦点を当てる。虚偽の財務諸表について適正意見を表明するように監査人を欺くために不正実行者達がどのような骨折りをしたか、私は2つの事例を取り上げて解説する。

KITデジタル(KIT Digital)

 最初の事例は、多くの人がその社名を聞いたこともないであろうKITデジタル社が関与したものである。この会社は、ビデオコンテンツ業者が自分たちのコンテンツをインターネットやインターネットテレビで利用できるようにするのを支援するソフトウェアとサービスを提供していた。同社は、エンロンやオリンパス、その他の大規模で広く報道された財務報告不正と間違えられることはないだろう。KITデジタルの不正による金銭的な影響ははるかに小さい。
 しかし、この事例は、不正実行者が監査人を欺くために用いた手段に関する教訓の中でも最良のものの1つを示してくれる(参照:同社のCEOとCFOに対する2015年9月の訴状、http://tinyurl.com/zwhxcqs)。
2008年から2012年にかけてKITは、広範にわたる一連の財務報告不正スキームを行った(この会社は2013年に破産を宣告した)。
 不正行為は2008年に開始されていたが、事態が面白くなってきたのは2010年の夏からである。2010年6月30日に、KITは顧客向けに、購入依頼の提案と草案を送付した。この書類に、顧客が署名し、返却したのは7月2日だったが、2010年8月から2011年4月にかけて配備される150万ドルのソフトウェアの販売の概略が記載されており、支払いは24か月間にわたって行われることになっていた。
 しかし、問題が1つあった。KITは、同社が2010年6月30日付の財務諸表にこの収益を認識する必要があるとすぐに悟ったが、販売条件は、述べ支払い計画だけでなく6月30日までに何らかの製品またはサービスの納品を欠いた状態で財務報告を目的とする収益を許可しない明確な証跡を残していた。
 そこで、7月の中旬にKITは顧客を騙して段階的なソフトウェアの配備への言及を削除した新しい購入依頼に同意させ(トリックその1)、顧客は4四半期のソフトウェアのインストールに対し2011年5月31日までに支払いをするという書面に署名させた(トリックその2)。
 完璧だ。そうですよね?「6月30日までの納品」という部分を除いてだが・・・。2010年8月にキットは、6月にソフトウェアライセンスが納品されたことの確認を求める「監査人の群れ」について不平をいう顧客宛に1通の電子メールを送った。厄介な監査人たち!これで大丈夫なのだと顧客に信じさせるために、KITは電子メールの確認書に「同意」と返信しさえすれば十分で「署名は不要である」と告げた。2~3日後に、顧客は2010年6月22日にソフトウェアが納品されたと監査人に確認することで応じた(トリックその3)。
 事が不正実行者にとって都合よく運んでいたのは、2011年の4月までで、その時KITの監査人は、ソフトウェアが未納入だというもう一つの監査証跡を顧客が提示してきたと同社に通知した。2011年の5月にKITは顧客のウェブサイトを監査人に示して回答した。そのウェブサイトには、そのサービスは2010年6月から実施されていると表示されており、彼らがウェブサイトで見たのはそのソフトウェアによってのみ提供が可能になるものであった。実際には、彼らが顧客のウェブサイトで見たビデオサービスはKITの製品で置き換えられるはずの古いソフトウェアによって実行されていたものだった(トリックその4)。

(その2に続く)

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初出:FRAUDマガジン50号(2016年6月1日発行)

この記事の執筆者

Regent Emeritus Gerry Zack, CFE, CPA, CIA
不正リスクアドバイザリーと調査サービスを提供するBDOコンサルティングの業務執行取締役(managing director)である。2015年のACFE理事会の議長であり、ACFEの教職員メンバーでもある。
※執筆者・翻訳協力者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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