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言葉に架ける橋 不正調査チームにプロの通訳者を迎える(その4 全4回)

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 会話の中で何をコミュニケーションするかはそれをどう伝えるのかと同じくらい重要な問題です。通訳者を介したコミュニケーションですべきことと、すべきでないことについてこつをいくつか紹介します。

秘訣1(Tip 1)

 CFEの役割と通訳者の役割を説明することです。通訳者は自身の職業基準に準拠しなければならないこと、あなたとクライアントの間のやり取りは全て秘密事項であること等を説明します。このような説明により、緊張を和らげ、よりオープンなコミュニケーションが可能となります。情報収集のための面接や自白を求める(admission seeking)ための面接など他の場合と同じように会合の目的をクライアントと共有します。

秘訣2(Tip 2)

 通訳者の誤訳を防ぐため、MXN、AR、AP 、JITなどの頭字語の使用は極力避けます。その代わり、略さずにメキシコ・ペソ(Mexican peso)、 売掛金(accounts receivable)、 買掛金(accounts payable)、ジャスト・イン・タイム(just in time)等という正式な表現を使ったほうが良いでしょう。

秘訣3(Tip 3)

 イディオム(慣用句、熟語)の使用も避けます。英語を母語とする人なら「To let the cat out of the bag(うっかり秘密を漏らす)」、 「Fit like a glove(ぴったり合う)」、 「Turn a blind eye(見て見ぬふりをする)」などの複雑なイディオムも理解できるでしょうが、いくら経験豊富な通訳者でもこのようなイディオムを正確に訳せるとは限りません。

秘訣4(Tip 4)

 複雑な概念を示す言葉は通訳者が上手く通訳できないので出来るだけ使わず、簡単で正確な言葉を使います。例えば、「trade-off」 は、訳すのが特に難しい言葉です。なぜなら、あなたは、1つのシナリオの中で、その言葉を頻繁に説明したり実証したりしなければならないからです。「Trade-off」は、意思決定をする人物が十分に長所や短所を考慮したことを意味することもあるので、通訳の際に一層複雑になります。簡単に通訳できない言葉は、言語学者がレキシカル・ギャップ(訳注:「それを言い表すことのできる特別な単語や語句がない」という概念のこと。lexical gap)と呼ぶ、対象となる言語において1対1の関係を持つ同意語が存在しない状態が生じてしまいます。

秘訣5(Tip 5)

 さらに、翻訳できない概念も避けるべきです。パラグアイで仕事をしている時、会計の専門用語で他の言語に訳せないものをいくつか経験しました。「EBITDA」もその一つであり、“Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization” の略で「金利、税金、有形固定資産の減価償却費、無形固定資産の償却費を控除する前の利益」のことです。この用語は米国会計基準特有の指標であり、IFRS(国際会計基準)にも無いので、クライアントの国が国際会計基準に準拠している場合、この指標を財務報告に使用することはありません。
また、長さ、大きさ、温度を示す単位も、その場ですぐに訳すのは困難です。例えば、米国ではマイル、ポンド、華氏を使っていますが、他の多くの国ではキロメートル、キログラム、摂氏(℃)を使っています。

秘訣6(Tip 6)

 無駄なお喋りは一切避けなければなりません。通訳者の仕事は、証人の信用性についての副次的な批評や囁くようなフラストレーションであっても、会合中の言葉を一つも逃さず通訳することです。クライアントを除外する意図の発言は避けるべきです。通訳者はミーティング中の全てのコミュニケーションを翻訳しなければなりません。

通訳者との反省会(Debriefing the interpreter)

クライアントとの打ち合わせが終了したら、通訳業務の品質について通訳者と話し合います。通訳者は、「彼は嘘をついていると思いますか?」とか、「彼女は酒に酔っていたと思いますか?」等の主観的な質問に答えることは禁止されています。しかし、通訳者は、クライアントが本題を避けて皮肉を言ったか、発言を曖昧にしたときはそのことをあなたに伝えることはできます。
また、通訳者自身が上手く通訳できなかった部分があったかどうかを聞いてみましょう。これによって、その場面でクライアントが何についてどのように言ったかについてのあなたの理解と通訳者が伝えようとしたことが一致しているかどうか確認することができます。
通訳者へのフィードバックは、良かった点を強調すべきです。多くの場合、プロの通訳者は大抵、良かった点と改善を要する点の両方を知りたいと思っています。また、もしあなたが今後もインタビューの予定があるなら、既に信頼関係が構築されている通訳者を再度起用することも考えるべきです。

通訳者との共生関係を構築する(Building a symbiotic relationship)

専門的なトレーニングを積んだ通訳者を起用することは、ミスコミュニケーションのリスクを最小限にする一点に尽きます。ミスコミュニケーションは全員が同じ言語を話していても起こり得ることです。それにしても通訳者の役割は独特です。彼らは文化と言葉のギャップを埋め、橋渡しをしているのです。

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初出:FRAUDマガジン51号(2016年8月1日発行)

この記事の執筆者

Mitchell R. Davidson, CFE, CPA, CMA, CIA
アリゾナ州フェニックスのNavigant Consulting Inc.の上級コンサルタントである。
翻訳協力:佐藤 恭代 CFE、CIA、CPA(ワシントン州)
※執筆者・翻訳協力者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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