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汚職と戦う情熱 アレクサンドラ・レイジとのインタビュー(その4 全4回)

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FM: TRACEを始めようと思ったきっかけは何かあったのですか? それとも長年「温めていた」のですか?

AW: 正にきっかけがありました。アフリカ北部のある国の官僚が入札にきた会社各社に、他の入札者は彼に内密に支払いを約束していると伝えていたと知ったのです。彼は「他の皆は」賄賂を支払うことに乗ったと示唆していたのですが、結局、誰も合意していなかったことが判明しました。全ては入札合戦を始めるために彼がでっち上げたことでした!誠実かつ優良な企業はフォーラムを持って、このような、コンプライアンス上の課題またはより日常的な課題について議論をし、解決策を見つけ出すために共に協力することが大切です。多くの企業は課題を理解しており、解決策に向けて前進したいと思っています。

FM: あなたはビジネスにおいて以前から整合性の促進が必要だと思っていましたか、それともその望みは時間が経つにつれ大きくなっていったのでしょうか?

AW: カナダで高校を卒業後、イギリスで大学に入る前のことですが、私は数年の間、旅行をしながらアジアと中東でボランティアをしました。汚職による損失はその頃でも明らかでした。しかし法律の学位を取るまで、私はビジネスができる積極的な役割に気がつくことはありませんでした。蔓延した汚職で企業を責めるのは簡単ですが、多くの企業は、公平で透明性の高いやり方で、最高の商品が適正な価格で契約される市場でビジネスをしたいと望んでいます。

FM:ジョセフ・T・ウェルズ博士 (Dr. Joseph T. Wells, CFE, CPA) が1988年にACFEを創設して以来、彼は不正と戦うだけではなく、その防止策を提供することを重視してきました。TRACEインターナショナルはどのようにして、企業が多額の損害を招く犯罪を発見する前に、収賄の状況を摘発するのを助けているのですか?

AW: 大好きな質問です。TRACEは、収賄防止に主に注目してきました。我々は、研修に多くを投資しています。優れた、多言語のオンライントレーニングモジュールで、会員は無料で利用できます。ライブのトレーニングイベントも利用できます。ライブのイベントは、ドバイ、シンガポールなどの商業の中枢都市で開催されますが、ラゴス(ナイジェリアの都市)、ジャカルタやマラボ(赤道ギニアの首都)などの非常に課題の多いマーケットでも開催されます。人々は汚職に関する課題について話す機会だけではなく、実際的な回答を得る機会が必要です。我々は賄賂の要求の応対に使えるボキャブラリーを広げる支援に多くの時間をかけています。ほとんど毎日のように賄賂の要求に直面するマーケットにいる彼らにただ金銭を渡すなと言っても十分ではありません。
 我々はオンラインリソースセンターを持ち、140ヵ国にあるパートーナー法律事務所より資料を集め、地元の収賄防止法が何を要件としているのかが明確にわかるようにしています。例えば、官僚への接待に制限はあるのか? 現地法では厳密に誰が官僚に相当するのか?その国では第三者組織の利用が認められているか?
 そして最後に費用を共有されたデューデリジェンスに多くを投資してきました。先程紹介しましたが、我々はTRACE認定デューデリジェンスレポートというものを持っています。

FM: TRACEの会員が汚職の芽を摘み取ったり、最悪の事態を止めたりした話はありますか? あなたにとって刺激的で、TRACEを設立したことは正しかったと実感した出来事はありますか?

AW: 我々は問題を抱えた国々で会員向けに多くの研修を行っています。我々のセッションは議論を促すような多くの実例や事例研究を備え非常に実践的です。時に非常に活発な議論になることもあります! このような研修セッションでの会話は、弱点を確認でき、会員がプログラムを強化できます。我々のシリーズ書籍に、“How to Pay a Bribe: Thinking Like a Criminal to Thwart Bribery Schemes”というものがあります。あなたが最前線にいる社員に会って、コンプライアンスの弱みを教えてくださいと尋ねたら、普通相手はぽかんとした顔をするでしょう。しかし、あなたが、地元の犯罪者のように考え、どうやってお金を捻出して、賄賂を払うかを尋ねるなら、彼らは大抵驚くほど良いアイデアを持っています。そうしたら、そのアイデアから少し戻り、ギャップを埋めます。
 世界から汚職をなくすことはできません。他の犯罪がなくならないのと同じです。しかし、困難の多い国の人達から収賄を削減するためにどのように努力したか、話を聞くのに遅すぎることはありません。彼らは国が被る損害を知っています。彼らは協力して対処することでのみ解決できる問題なのだと理解しています。TRACEとつながりがあったから、全く同じ問題に取り組んでいる人々がいるのだと気付くことができたと耳にするだけで、大変な充実感を覚えます。
 今年の初めに、ガーナでイベントを開催した時のことです。我々は、TRACE認定を受けるために活動する現地の数十の小規模企業を援助していました。一人の男性が立ち上がり、前方にいた我々を見て、地元の実業界を支援してくれて感謝すると言ってくれました。そして彼は、周囲にいる仲間のガーナ人の実業家を見回して、自分が一人でないことを気付かせてくれて有難うと言ったのです。この上なく励みになる出来事でした。

FM: 毎日各所で頑張っている不正検査士に激励をお願いします。

AW: 皆さんの仕事は重要な意味を持っており、通常は目に見えなくても、影響力を持っています。私は120ヵ国以上でプロジェクトに参加してきました。ほとんどのケースで、状況は正しい方向に向かう傾向にあります。市民は少額のゆすりでも我慢できなくなってきました。彼らはより高い透明性を要求しています。収賄防止法は可決され、徐々に実施されるのが見られるようになってきました。企業はコンプライアンスを優先しています。非常に遅々とした歩みではありますが、正しい方向に向かっています。

FM: カナダで開催される2016年度カンファレンスでは、どのようなお話が聞けるのか読者に教えていただけますか?

AW: より費用効率の良い、安定した、継続可能なコンプライアンス・プログラムに移行した企業との経験を活かして、またFIFAでの失敗談も含め、それぞれの事例で「学んだ教訓」をお伝えしたいと思っています。

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初出:FRAUDマガジン52号(2016年10月1日発行)

この記事の執筆者

Emily Primeaux, CFE
FRAUDマガジンの編集助手を務める。
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである

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2019.07.19 16:22:32