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汚職と戦う情熱 アレクサンドラ・レイジとのインタビュー(その1 全4回)

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 アレクサンドラ・レイジ (Alexandra Wrage) は、TRACEインターナショナルの創設者兼代表で、FIFA(国際サッカー連盟)の独立系ガバナンス委員会の前委員である。昨年のFIFAのスキャンダルや最近公開されたパナマ文書、そして収賄・汚職防止コンプライアンスをサポートする中で得られた世界的な汚職と戦う秘訣について、彼女の考えを紹介する。

 サッカーはほぼ間違いなく、世界で最も人気のあるスポーツの一つだ。2014年FIFAワールドカップ ブラジル大会のテレビ視聴者は、32億人に達し、米国やドイツなどの主要国際市場におけるいくつかのテレビ視聴者記録を更新した(http://tinyurl.com/hjac8b8)。最近では、英国のバークレイズプレミアリーグでレスター・シティFCが5,000対1というありえないオッズに勝利し、英国のプレミアリーグのトロフィーを勝ち取り注目を集めた(http://tinyurl.com/h7pz4e8)。
 しかし、異国のワールドカップの舞台の派手さや、サッカークラブのライバル関係の興奮の裏では、サッカー連盟の支配層の汚職が蔓延している。2015年5月27日、スイス当局は、米国当局と協力の上スイス、チューリッヒの高級ホテルで早朝の強制捜査を行い、サッカー業界トップの7人を逮捕した。続けてサッカーを国際的に管理している組織であるFIFAは打撃を受ける。FBI(米連邦捜査局)とIRS(内国歳入庁)犯罪捜査部が、有線通信不正行為、違法な恐喝、マネーロンダリングを捜査し、米国司法省が14人のFIFA関係者と組織に関与していた人物を起訴したからだ。
 さらに2015年9月には、スイス検事当局が前FIFA会長ゼップ・ブラッター (Sepp Blatter) を相手取り「管理不行き届きや横領の罪」で刑事訴訟を起こしたと報道された(http://tinyurl.com/j87qcyq)。容疑の中には、ブラッターが欧州サッカー連盟会長のミシェル・プラティニ (Michel Platini) に210万ドルの「不誠実な支払い」を渡したとする申し立ても含まれていた。FIFAの倫理委員会は、ブラッターとプラティニに8年間サッカー界での活動を禁止し、後にこれは6年間に軽減された。プラティニの禁止期間は2016年5月9日、さらに4年間に短縮された。
 2015年はFIFAのスキャンダルが注目された年であったが、2016年もパナマ文書の公開によりFIFAにとっては厳しい年になった。1,150万通の機密文書が盗まれ、そこにはパナマの法人サービスプロバイダーであるモサック・フォンセカ (Mossack Fonseca) によりリストアップされた21万4,000社以上のオフショア会社(租税回避地に設立された会社)に関する詳細な情報や、企業株主、取締役、有名な政治家の個人情報が含まれていた。
 同文書は、FIFAの倫理委員会のウルグアイ代表、フアン・ペドロ・ダミアーニ (Juan Pedro Damiani) と彼の会社が、スイスで逮捕された7人の一人である前FIFA副会長のエウヘニオ・フィゲレド (Eugenio Figueredo) と繋がりがある少なくとも7つのオフショア会社を法的に援助したことを示していた。ダミアーニは、委員の職を辞した。FIFAが新しく選出した会長ジャンニ・インファンティーノ (Gianni Infantino) もまた同文書に名前があった。
 汚職防止専門家でFIFAの独立系ガバナンス委員会の前委員であるアレクサンドラ・レイジは、FRAUDマガジンとの最近のインタビューで、サッカーの運営組織の仕組みと世界規模の汚職に関するユニークな視点を紹介する。
 レイジは、収賄防止コンプライアンス・サポートを会員に提供するリソースを集約する非営利ビジネス団体であるTRACEインターナショナルの創設者兼代表である。(会員以外向けにデューデリジェンスやコンサルティングサービスを提供する別会社であるTRACE Inc. も経営している)
 レイジは、2015年B20汚職防止タスクフォースの一員として働いた。このタスクフォースは、世界的経済政策を考慮しながらG20リーダーへの提言を起案した。そして世界で汚職の潮流が高まりを見せた時、彼女は自分の意見や専門的知識を厭わずに共有した。
 「FIFAはとても誘惑の多い場所です」とレイジは言う。「人々は組織に入ると、あっという間にその場所に魅了されてしまいます。・・・少なくとも企業では、結局のところ株主が組織化され、もう十分だと宣言することができます。サッカーのガバナンスの世界では、株主はいません。ファン、選手どころか、クラブまでも、意見が出せないのです」
 「パナマ文書の範囲に関して言えば、コンプライアンス専門家は皆それほど驚かなかったと思います」とレイジは続ける。「単独でこの問題に対処できる国はありません。国際社会の最優先事項として取り組まれなければなりません。そうでなければ、口座は一つの管轄から別の管轄に動かされる、複雑な目眩ましになるだけです」
 レイジは、9月11~14日にカナダ、ケベック州モントリオールで開催される2016年度ACFEカンファレンス・カナダの基調講演者で、世界に広まる汚職やコンプライアンスの問題について、サッカーの運営団体に影響を及ぼした事柄も交え話をする。

(その2に続く)
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初出:FRAUDマガジン52号(2016年10月1日発行)



この記事の執筆者

Emily Primeaux, CFE
FRAUDマガジンの編集助手を務める。
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである

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2019.06.28 16:17:20