内部通報制度の信頼性を損なう10の主要因 誰も通報しない理由はなぜか(その2 全4回)
なぜ信頼性がそれほど重要なのか (WHY IS TRUST SO IMPORTANT?)
従業員は、内部通報制度を通じて疑念を報告することは、互いに不利な状況を作り出しかねないと考えるかもしれない。従業員が通報しないことを選び、その後外部の者によって違法行為が見つかった場合、組織はさもなければ避けられたはずの金銭的な損失を被り、かつ評判に傷がつくことにもなりかねない。
しかしながら、従業員が実際に通報を行い、組織の社風に信頼が欠如していたとしたら、その通報者は、解雇などの報復を受けるかも知れない。従業員はこうした可能性を考慮し、職に就いたままでいる方が良いと判断する。
ACFEの「2016年度版 職業上の不正と濫用に関する国民への報告書(Report to the Nations on Occupational Fraud and Abuse)」によると、39.5%の不正が通報で発覚している(参照:ACFE.com/RTTN)。これは、内部通報制度が効果的でないものである場合、組織は継続している不正を見逃すリスクを冒していると指摘している。従業員が不正や汚職の疑念を会社に通報することにためらいがあれば、彼らはまず通報しない。
内部通報者のなかには通報などしなければ良かったと言う者もいる。「もう絶対に二度としないね」と言うのは航空宇宙局 (National Aeronautics and Space Administration, NASA) の航空宇宙エンジニア、ウィリアム・ブッシュ (William Bush) だ。彼はNASAが内密にしている方針に関して内部通報した後に受けた絶え間ない嫌がらせと報復に触れ、「自分の人生、そして妻の人生を台無しにした。匿名でもやろうとは思わない。保障なんて何もないのさ」と言う。(参照:Whistleblowers: Who’s the Real Bad Guy?” by Barbara Ettorre, American Management Association, May 1, 1994, http://tinyurl.com/hwy44md)
さらに、内部通報制度に対する従業員の信頼の欠如は不健全な職場環境を作り出し、従業員の業績不振、意欲低下、雇用訴訟、法的及び規制措置、資産損失、外部の通報者による申し立て、組織の評判や顧客のイメージ低下、離職率の上昇に伴うコストなど、ゆくゆくは組織的問題を引き起こすことになるのだ。
信頼性を損なう10の主要因 (TOP 10 FACTORS LEADING TO DISTRUST)
組織はキャッチフレーズやスローガンを使って従業員の信頼を獲得し、信頼関係を構築することに努めることができる。しかし、従業員が疑念を報告した時点から決着がつくまでの間、組織の内部通報制度は守秘義務、プロ意識、公平性を行動で示さなければならない。もし組織に対する外部の内部告発者からの通報が絶えない場合や、従業員からの内部通報が欠如し続けるようであれば、経営陣は内部通報制度のどの過程に弊害が生じ、なぜ従業員が内部通報制度は信頼できないと考えるのか、その理由を考えなければならない。
多くの場合で内部通報制度を効果的でないものにしている要因を以下に挙げる。
1 従業員が制度を理解していない (EMPLOYEES DON’T UNDERSTAND THE SYSTEM)
「内部通報の電話を受けるのは誰か?」「匿名でも通報したのが自分だと分かってしまうのか?」「疑念を通報したことが上司に伝わるのか?」「通報した内容はどこに回されるのか?誰が検討するのか?」これらは従業員が抱える質問のわずか一部に過ぎない。不信感や不安は従業員が疑念を通報する決断の妨げとなる。透明性を高めるために組織が従業員と内部通報制度に関する情報をより多く共有すればするほど、従業員が前に進み出る可能性が高まる。
2 不十分なリソースと不適切な制度設計 (INADEQUATE RESOURCES AND POOR PROGRAM DESIGN)
専門的な訓練を受けた有能な応答者や調査官、完全に統合された事例管理システム、そしてありとあらゆる必要な支援ツールとリソースを駆使して、組織は優れたデザインの内部通報制度に投資することで、疑念の通報を重視していることを具体的な行動で示す。この程度の投資ができないようであれば、従業員に不信感を抱かせることになる。
3 従業員が持つ疑念の個人化の欠如 (LACK OF PERSONALIZATION OF AN EMPLOYEE’S CONCERN)
従業員にとって、疑念を通報することはとても個人的な経験だと言える。内部通報者自身が被害者である可能性もあれば、深刻な違法行為を目撃したのかもしれないし、あるいは自らをリスクにさらしてでも正しい行いをするために前に進み出たのかもしれない。そのため、もし疑念を抱える従業員が初めて通報の電話をかけた際に留守電のメッセージや自動応答(~には「1」を押してください)だけを耳にすれば、その内部通報者(そしてその同僚たちは)内部通報制度は機械的なもので大したものではないと考える可能性がある。
経験のある有資格の調査官やコンプライアンス専門家が、通報された問題に速やかに対処しなければならない。従業員は、自身の行動が正しく、組織が懸念事項に対応してくれ、報復から保護されているのだという保証とサポートを必要とする。反報復を約束する倫理及びコンプライアンス方針を含む従業員に求められる行動を明記した行動規範を通じて、組織はこれを達成することができる。
4 不適切な対応と訓練の欠如 (IMPROPER HANDLING AND LACK OF TRAINING)
通報が誤って処理されたり、その受け取り手や調査官の訓練が不十分であったりすると、(1)組織が不適切な調査を行い、違反行為が行われなかったにもかかわらず発生したと判断する、第一型通報エラー、(2)内部通報をした従業員が信頼できる情報を持っているにもかかわらず、組織が行動を起こさなかったり調査を行わなかった場合の第二型通報エラーを引き起こす。
第一型エラーの例としては、人事部員が、セクシュアルハラスメントが行われなかったにもかかわらず、起こったと判断した場合があげられる。第二型エラーは、調査官が財務諸表不正と汚職に関する申し立てを理解するのに十分な知識を有していなかったにもかかわらず、最終的に「情報不十分」として調査を打ち切ってしまう場合である。
組織は内部通報制度の早期過程に有能な調査官を参加させることで、これら2種類のエラーとそれに伴うリスクを大幅に低減することができる。申し立てが誤って処理された場合、従業員はその不満を同僚に打ち明けるかもしれない。
(その3に続く)
---------------------------------------
初出:FRAUDマガジン52号(2016年10月1日発行)