内部通報制度の信頼性を損なう10の主要因 誰も通報しない理由はなぜか(その4 全4回)
信頼される内部通報制度と社風を築くための6つのヒント (SIX TIPS FOR BUILDING A TRUSTED HOTLINE REPORTING PROGRAM AND CULTURE)
組織はその規模、社風、ロケーション、その他複数の要因によって異なるかたちで信頼される内部通報制度を実施し、維持する。そして内部通報制度を社内で行うか外部委託するのかを決めなければならない。
経験や専門性、独立した印象など、外部委託には多くの利点があり、これらは従業員の信頼を高めることができる。業者が提供する内部通報制度には24時間利用できる年中無休のサービスが既に組み込まれている。また通常、多言語でのサービスも提供している。
中小企業は社内で行った方が低コストで済むと考えるかもしれない。しかし、社内で内部通報プログラムを作るには、ハードウェア、ソフトウェア、人材、その他のコストに投資しなければならない。
前述の第5番目の要因で述べたように、組織の内部通報制度が社内のものか外部委託のものかにかかわらず、経営陣は独立性を維持しなければならず、彼らは実際に調査が始まってからのみ関与すべきである。
不正調査担当者など外部のコンサルタントは、組織が不正調査の計画を立て、事件解決後にその教訓を基に改善を続けていく上で助けとなる。
以下に挙げるヒントは前述の10の要因に基づいている。
1.訓練と意識向上
内部通報制度に関する意識向上は、同制度に対する従業員の信頼を築くのに役立つ。内部通報制度の仕組み、組織が同制度を重要視する理由、制度の担当者、なぜ同制度がコンプライアンスに重きを置く社風に不可欠なのか、組織は常に従業員に伝える努力をすべきだ。組織は、内部通報制度に関してよくある質問 (FAQ) とその答えを新人や管理職の全トレーニングに組み込むべきである。
2.継続的なコミュニケーション
内部通報制度、最近のコンプライアンス関連の問題、経営陣からのメッセージなどのコミュニケーションは常日頃から当たり前のように行われるべきだ。
3.アクセシビリティ
内部通報制度や通報の仕方などの情報は組織のイントラネットや外部のウェブサイトからワンクリックでアクセスできなければならない。広範囲の従業員に通達できるようできる限り多数の言語で制度の情報を提供すべきだ。匿名で通報できるようウェブサイトからの通報プラットフォームも必要で、添付ファイルの機能も備わっていなければならない。
4.透明性
組織の内部通報制度と調査手順を目立つ場所に展示する。その際に専門家や経験のある調査員の連絡先、従業員が内部通報制度に期待できること、加えて従業員と協力し報復から保護するという組織の責任を含める。
5.技能と客観性
前述した信頼性を損なう主な要因にあるように、内部通報制度と調査過程の管理者は技術的な能力を備え、専門性を有し、通報に対処する上で訓練と経験をきちんと積んでいなくてはならない。加えて、組織は調査員そして最終的には従業員の助けとなるような、適切な制度と過程、および技術を設置すべきである。そしてこれには組織の調査、法務、人事、そしてコンプライアンス部門の社員に対する徹底した年次トレーニングの実施が含まれる。
6.評価
継続的に評価を行うことで、以下の質問の答えを見出せるはずだ。
・従業員は現在、内部通報制度と企業文化をどう捉えているのか。
・組織の調査プログラムと通報制度の構造が適切に設計されているか。
・倫理通報方針と手順、そして技術は組織とその従業員のニーズに見合っているか。
・調査とその結果生じる懲戒処分は組織が目指すコンプライアンス文化と一貫性のあるものとなっているか。
・内部監査員や外部の専門家が行う独立した審査は内部監査委員会の監督の下で行われているか。
・全ての申立てと結果は外部監査人に開示され、話し合いが持たれているか。
何よりも信頼性(TRUST, TRUST, TRUST)
ドッド・フランク法は、証券取引委員会 (Securities and Exchange Commission, SEC) に独自の情報を自発的に提供し、それに対する法的行為が成功に終わり、100万ドル以上の金銭的制裁を取得することとなった場合、有資格の内部通告発者に報酬金を支払う。その金額はSECの法的措置や、刑事事件と同様それに付随する法的処分で徴収された金銭的制裁の総額の10%~30%と定められている。
以下の表は、2011年にこの内部告発者制度が開始されて以来SECの内部通報局に寄せられた内部告発の数を示している(参照:”2015 Annual Report to Congress on the Dodd-Frank Whistleblower Program,” http://tinyurl.com/p3k5gdj)。表が示すように、ドッド・フランク法は従業員に組織内の内部通報手続きを迂回して告発することを奨励しているとも言える。
2011年度 | 2012年度 | 2013年度 | 2014年度 | 2015年度 |
334 | 3,001 | 2,328 | 3,620 | 3,923 |
*ドッド・フランク法の内部通報者に関する規定の施行は2011年8月12日だったため、2011年度の内部告発者のデータはわずか7週間のものである。
2015年度、SECの内部通報局は内部告発者制度が開始されて以来、最多となる4,000件近くの通報を受けた。1年間のデータが集まった初めての年である2012年度から2015年度にかけて、内部告発者によってSECに寄せられた通報の数は30%以上増加している。このため、信頼できる質の高い内部通報制度を介して最初の通報は内部で行うよう従業員に呼びかけることが組織にとって得策だと言える。
従業員の大半は正しいことをしたいと思っている。そのため、組織は従業員による通報を奨励し支援するためにできる限りの努力をすべきだ。今日従業員が通報しなかったことで、翌日、大きな業務的障害や会社の評判に深刻な問題が発生する可能性がある。ここでのアドバイスを基に内部通報制度の強化に努めれば、組織は「なぜ誰も通報してくれなかったのか」と自問しなくてはならないような状況を一切免れることができるかもしれない。
本稿にあるのは執筆者の意見であり、必ずしもアーンスト・アンド・ヤング(Ernst & Young LLP, EY)やそのメンバーファームのものではない。
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初出:FRAUDマガジン52号(2016年10月1日発行)