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内部通報制度の信頼性を損なう10の主要因 誰も通報しない理由はなぜか(その3 全4回)

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5 経営陣の内部通報制度への関与 (MANAGEMENT INVOLVED IN HOTLINE)

 第一線で働く現地の経営陣は調査官としての訓練をめったに受けていないため、従業員の疑念に信憑性があるか、事実に基づいているか、そして本格的な調査実施を許可すべきかの判断に関わるべきではない。現地の経営陣自身が問題なのかもしれないし、少なくとも違反行為が行われたり、未対応に終ったりしているのに加担しているのかもしれない。
 現地の人事部もまた、従業員の目には経営陣と密接に関わっているように映っている可能性がある。加えて、彼らは訓練が不適切で偏見を持っていたり、えこひいきをしたりするとも考えられる。
 透明性と独立性、客観性を確実にするために、内部通報制度の管理に第三者を用いることが一般に最も効果的である。(外部委託制度に関しては、後述の「信頼される内部通報制度と社風を築くための6つのヒント(Six tips for building a trusted hotline reporting program and culture)」を参照)
 寄せられた疑念が調査になった時点で、組織は経営陣を引き入れ、申し立ての種類に応じて内部監査、コンプライアンス/法務部及び人事部を参加させることができる。

6 多すぎる通報手段 (TOO MANY REPORTING MECHANISMS)

 誰が通報するのか、組織がどうやって問題を発見するのかにかかわらず、電話を介した通報があらゆる疑念の第一エントリーポイントであるべきである。残念なことに、組織は通報過程を容易にするために、メールやウェブポータル、書面、直接の面談といった別の通報手段の使用を従業員に奨励し、またその通報部署や通報相手はコンプライアンスから内部監査、法務、従業員関係、安全、環境、人事、オンブズマン、倫理担当役員、監督者、組合役員に至るまで多岐にわたる。これでは混乱するばかりだ。
 「企業は、誰が不正の事前対策を講じ、不正が起こった際に誰が対応するのかを正確に決定するのに苦労している」とダン・トーピー(Dan Torpey, CPA)とマイク・シェロド(Mike Sherrod, CFE, CPA)は、FRAUDマガジン2011年1/2月号の記事「Who owns fraud?」1で述べている(http://tinyurl.com/j7pedfx)。「混乱は大きな影響力を及ぼす。経営陣や従業員の間に不正対策制度に対する信頼の欠如を引き起こし、知識の共有が危険なほど欠乏し、そして不正に非効果的な対応をとることになる」とトーピーとシェロドは書いている。
 訓練を受けた内部通報部門の社員を除いては、人事問題から財務諸表不正に至るまで多岐にわたる分野の詳細な複数のリスク要素を理解できる者はいないだろう。匿名通報用のインターネットを介した通報プラットフォームなど、組織は単なる中央集約的な電話以外の通報メカニズムを提供するかもしれないが、その一方で、疑念がどのように提出されたかにかかわらず、中央集約化され、専門的かつ明確に示された制度は、通報を効率化し、コミュニケーションと意識を高め、混乱を軽減し、信頼を築くのに役立つのだ。

7 通報の「信憑性」の過剰な重視 (TOO MUCH EMPHASIS ON “CREDIBLE” COMPLAINTS)

 従業員は未決定の解雇を免れたり、他人をトラブルに巻き込んだり、個人の策略への仕返しとして、組織や同僚に対して悪質な偽りの申し立てをする。残念なことに、内部通報制度の担当者は悪意や間違いのある通報に対応しなければならない。
 組織のなかには無駄な通報を減らすために「信憑性」や「誠実性」のあるものに限って通報するよう従業員に通達するかもしれない。あるいはさらに一歩踏み込んで、信憑性のない申立てを行った従業員は懲戒処分の対象となることを言い渡す組織もあるかもしれない。しかしながら信頼のレベルにかかわらず、こうした手段は従業員にあらゆる疑念の通報を思いとどまらせる結果になりかねない。「信憑性」や「誠実性」は経営陣が判断する主観的な言葉だ。
 組織にとって最適な対応策は、懲戒処分の危険を微塵も感じさせずに従業員がどのような問題でも通報できるよう働きかけることである。申立てが根拠のないものであると判断された場合、組織はある程度の対応をした後、それを文書化し処理すれば良い。

8 悪い出来事と報復の障害 (OBSTACLES OF NEGATIVE INCIDENT AND RETALIATION)

 組織の通報制度に従ったために従業員が不当な扱いを受けた場合、安全かつ確実なメカニズムとしての内部通報制度の信頼性と実行可能性に深刻な打撃を被る可能性がある。不適切な対応や報復はインターネットや裁判歴、公文書で永久に保存され、「通報するな」という破滅的な沈黙の社風を生み出すかもしれないのだ。
 組織は報復を断固として許さない「ゼロトレランス方針」を敷いていること、そして報復に対して速やかかつ公に対処することを通達すべきだ。通報制度をできる限り透明性と信頼性のあるものにするためには、継続的なコミュニケーションや意識向上キャンペーンを行う必要性があり、これは従業員が過去の報復について知っているのであればなおさらである。

9 一貫性のない結果 (INCONSISTENT OUTCOMES)

 人物、関係、状況にかかわらず、結果が常に一貫して公平であることを組織は態度で示さなければならない。組織が調査の結果をいかに内密のものとして隠したとしても、公平で一貫した処罰をすれば、従業員は社内の口コミや噂話でそれを知ることになる。もちろん、従業員が結果を公平なものと見なせば、彼らは疑念を通報せずにはいられない気持ちにより駆られるだろう。(ここで強調したいのは、「気持ちに駆られる」という点だ。これは従業員の感情的な決断なのである)。従業員は一貫性の欠如は個人的なリスクに等しいと知っているのだ。

10 行動は言葉よりも雄弁である (ACTIONS SPEAK LOUDER THAN WORDS)

 従業員は組織の内部通報制度に示されている内容よりも実際に行われる行為で、組織の言う内部通報制度を批評し、審査し、そして評価する。決められた方針と手順に従っているか? 報復に対して本当にゼロトレランス方針を敷いているのか? 結果が真に公平で一貫性があり、妥当なものであるか? 本当に従業員が疑念を匿名で通報できるようになっているのか?

(その4に続く)
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初出:FRAUDマガジン52号(2016年10月1日発行)

この記事の執筆者

Ryan C. Hubbs, CFE, CIA, CCEP, PHR, CCSA
アーンスト・アンド・ヤングLLPの不正調査及び係争サービスのシニアマネージャーである。15年以上の経験を有し、何百もの企業調査と何千というインタビューを従業員に対し行ってきており、その分野は人事関連、健康、安全及び環境に関わる出来事、コンプライアンス違反、そして不正及び汚職と多岐にわたる。
Julia B. Kniesche, CFE, CPA, ACAMS
アーンスト・アンド・ヤングLLPの不正調査及び係争サービスのシニアマネージャーである。財務、経済、会計に関する複雑な問題について9年以上クライアントにアドバイスを行ってきた。法廷会計調査やリスク評価の実施、不正と汚職に関する係争問題に関するアドバイスなど、大企業や特別委員会、法律事務所や政府機関に対しサービスを提供してきている。
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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