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汚職と戦う情熱 アレクサンドラ・レイジとのインタビュー(その3 全4回)

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FRAUDマガジン(以下「FM」): パナマ文書の公開により世界的な汚職が最近注目されています。この結果に驚かれましたか?これ程の世界的な汚職にはどのように戦ったらよいでしょうか?

AW: 私は秘密の会社はあまり好きではありませんが、オフショア会社は必ずしも汚職の証拠とは言えません。汚職に使われ、麻薬売買人、テロ組織やその他の犯罪者に利用される手段であることは疑いの余地もありませんが、仕組み自体は一般的に合法です。
 パナマ文書に関して言えば、コンプライアンス専門家は皆それほど驚かなかったと思います。その手段が容易に使えるのであれば、合法的な租税回避のために、そして犯罪者のプライバシー保護に利用されるでしょう。どの国も単独ではこの問題に対処できません。国際社会の最優先事項として取り組まれなければなりません。そうでなければ、口座は一つの管轄から別の管轄に動かされる、複雑な目眩ましになるだけです。

FM: 先ほどおっしゃいましたが、ペーパーカンパニーは、著作権、商標、特許やその他の知的財産を含めた無形資産を「保有している」など、合法的な理由で使われることもあります。企業は、資産を体系化する会計の仕組みとしてもそれらを利用します。しかしながら、犯罪者たちはパナマ文書の公開で明らかになったようにペーパーカンパニーを資金洗浄や脱税、不正実行のために使用します。犯罪者が不正目的でそれらを利用するのをより効果的に禁止するにはどうしたらよいと思いますか?

AW: そのような口座を開設した会社は、法律で義務づけられた通りにやっていると主張します。ですから、そのような組織が設立される前もより適切なデューデリジェンスが明らかに必要になっています。新しい基準は、(それらが)設立される国で規制されなくてはならないでしょう。

FM: マネーロンダリングを厳しく取り締まるにはどのような現実的な取組みが考えられますか?法執行機関または国際的な管理機関によるものでなければならないでしょうか、それとも事業運営の方法に変化が求められるでしょうか?

AW:取り締まりが強化されるようになり、収賄による損失についての理解が深まったので、贈収賄の削減と商業上の透明性の向上への努力は非常に手応えがありました。経営状態の良い会社は通常収賄は事業に良くないと理解しています。賄賂に汚れた契約の交渉は遅く、高コストで、不確実です。汚職取引が崩壊したとき会社には何も残りません。けれど損害を受けた当事者は、賄賂の受領者が一方の当事者としての責任を果たさなかったと非難できるわけではありません。しかし事業においてさえ、会社の社会的責任、倫理的影響、贈賄防止の努力は、執行当局が行動を起こし、企業がコンプライアンスのための予算をもっと簡単に正当化できるようになるまでは、本格化しませんでした。マネーロンダリング防止はおそらく同じ道をたどるでしょう。それが正しいことだからという理由でそうする会社も数社はあるでしょう。しかし、多くの企業はコンプライアンス違反のリスクを計算するでしょう。

FM: あなたは2001年に社内の収賄防止コンプライアンス専門家のグループの支援を受けてTRACEインターナショナルを設立しました。スケールメリットを得ること、そして収賄防止コンプライアンス・プログラムの二つの柱、つまり商業仲介業者のデューデリジェンスレポートと国際市場やサプライチェーンにおける収賄防止研修について広く標準化された共通認識を持つことを目的としてきました。これについてもっと詳しく話して頂けますか?日々の事業はどのように運営されているのでしょうか? 目標は何ですか?

AW: 私はノースロップ・グラマン社の社員の頃、ノースロップの許可を得てTRACEを設立しました。私は無報酬で空いている時間にやろうと計画していました。というのも、企業が出会い、基準に従って評価をし、可能であればリソースを共有できるフォーラムの必要性が明らかにあったからです。組織では、基本的に社内の同僚が求めていると聞いたものすべてを提供するようにしました。例えば、我々には300以上の会員企業がいます。もし、各社がオンラインの収賄防止研修プログラムを購入もしくは製作しなければならないとしたら、1,000万ドル以上が必要です。その代わりに、TRACEは、効率的な、多言語のオンライン研修プログラムに多くを投資し、費用なしで会員会社にそれを提供します。これには2つの効果があります。1つには、従業員やサプライチェーンに対して研修プログラムを広く使用するのを促進します。費用が発生しないのですから。しかし、このことにより、以前はオンライン研修プログラムに費やしていたリソースをより目的を絞ったコンプライアンスタスクに再配分することができます。例えば定期的で直接的な研修や第三者による現場での面接などです。
 我々には、デューデリジェンスにも同様のモデルがあります。デューデリジェンスは完全に標準化されることは決してありませんが、レビューの最初の60~70パーセントは多くの場合一致しています。所有者やその構成、事業登録、財務状況、履歴書などに基づき基本的な企業情報を収集します。そして警戒リストや国際メディアと全ての人物を確認し、重要人物に収賄防止研修を提供し、そして危険人物を特定します。これがTRACE認定のデューデリジェンスです。費用は共有で負担されていますので、企業は自分たちの案件毎のデューデリジェンスをする前にしっかりとした出発点を持てます。

(その4に続く)
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初出:FRAUDマガジン52号(2016年10月1日発行)

この記事の執筆者

Emily Primeaux, CFE
FRAUDマガジンの編集助手を務める。
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである

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