自動車保険不正入門およびプラスアルファ ソーシャルネットワーク分析を使って不正実行犯を捕える(その2 全4回)
事故の後、レッカーの運転手(この者も犯罪集団の一味である)は、破損した自動車を予め選定した自動車修理業者(ここの従業員もスキームに加担している)へ運搬し、そこで修理工は、自動車に追加の損害を与える可能性がある。修理業者は、その上で事故の詳細な修理見積もりを準備する。そして、リクルーターは、参加者に対して、診療所へ行き、そこでむち打ち症などの軟部組織損傷を負ったふりをするように指示をする。
このスキームの締め括りとして、リクルーターは、保険会社に対して虚偽の診療明細、逸失利益、水増しされた自動車修理代金を保険契約証書に基づいて請求する。権利請求の手続きが終わると、すべての参加者はそれぞれの取り分を得る。リクルーターは、病院、自動車修理工場、レッカー業者からキックバックを得るのだ。
一般的なスキーム(COMMON SCHEMES)
以下に示すのは、ACFE不正検査士マニュアル2016年版(1.1005-1.1006)記載の自動車保険不正の一般的なスキームである。
置き去り (Ditching)
不正実行犯は、高価な自動車を最小の手付金で購入する。高価な部品は転売し、警察と保険会社には自動車が盗難されたと報告する。
後付け加入 (Past Posting)
保険の付保を受けていない者が自動車事故に関与し、事故後に保険に加入、数日待ってから保険会社に事故を届け出る。
自動車修理 (Vehicle Repair)
自動車の修理段階で詐欺師は自動車に必要とされる部品をすでに修復されている部品と交換する。しかし、保険会社には新しい、高額の部品の価格を反映して報告する。必要のない修理も併せて届け出ることもある。
自動車密輸 (Vehicle Smuggling)
密輸業者は、最高限度額の融資契約が随伴する高価な乗用車を購入する。しかし、偽造証明書で「当該自動車は負債の担保設定はない」と偽る。その上で自動車を販売目的で海外に向けて輸出するが、保険会社には盗難されたものとして届け出る。
幽霊自動車 (Phantom Vehicles)
不正実行犯は、自動車の所有者を偽った証明書を保険代理店に渡すが、保険購入時点では実際の自動車は存在しない。詐欺師は、その後、自動車が盗難されたと警察、保険会社に届け出る。
30日スペシャル (30-day Special)
不正実行犯は、自動車が盗難されたものと届け出るが、自動車を比較的短期間(概ね30日から45日の間)隠匿し、保険金請求のための示談を得る。保険金が支払われたら、自動車をそのまま遺棄するか破壊するかチョップショップ(盗んだ車の部品を売る店)に売る。
ペーパー事故 (Paper Accidents)
このスキームでは、事故は書類上のものでしかない。保険会社は、修理費用が一定の限度額に達しない場合に事故の詳細を調査しないことがある。リスクが低い試みであり、かつ、当局も関与しないため、好んで行われる組織犯罪スキームである。
よくある仕組まれた事故のスキームのいくつかについては、不正検査士マニュアル(1.1006-1.1007)に詳しく記載されている。
当て逃げ (Hit and run)
以前に自動車を破損した所有者が警察を呼んで、当て逃げの被害に遭ったと訴える。不正実行犯は、警察の調書を保険金の請求に利用する。
サイド・スワイプ (Side swipe)
実行犯は、事情を知らない運転者が自分の車線に割り込んで来るのを待ちながら、複数の車線のある混雑した交差点において何度も右・左折を繰り返す。事情を知らない運転者がついに割り込んで来ると、犯行者は意図的に追突事故を起こす。
ドライブ・ダウン (Drive Down)
実行犯は、合流しようとする運転者に合図して自分の前に行かせる。そして、合流してきた車に故意に衝突し、合図したことを否定する。このスキームは、ウェイブ・アンド・ヒット(waive and hit)とも呼ばれる。
急停止による追突 (Swoop and squat)
このスキームは、3台の自動車と被害者の自動車が関与する。2台の自動車がスキームとは関係のない自動車の横を通過し、2台目の自動車が突然停止する。3台目の自動車は、被害者の自動車の横を通行し、被害者の車が事故を避けるため車線変更することを妨げる。最終的には、被害者の自動車が2台目の車に追突する。2台目の車には、数名の同乗者がおり、彼らは皆重傷を負ったと主張する。巧妙に実行されると被害者は、事故に対する自身の責任を認めることがしばしばである。
(その3に続く)