購買業務の難しさ 「信頼というベール」が 不正の発見を阻む(その3 全4回)
購買不正は社会的信頼を損なう (Procurement fraud undermines public confidence)
購買不正は最新のテクノロジーを駆使して行われることが多く、この10年でより複雑化している。公共機関及び民間企業の貸借対照表上の負担が大きく、会社の評判にも大きく影響する。不正行為者は最先端の画像システムを使い、本物そっくりの請求書や発注書を簡単に作ってしまう。
最も悲惨なのは、購買不正は組織構造とマネジメントの信頼を損なうことである。米国連邦政府は、2014年度だけでも4,470億ドル以上の税金を連邦契約に使っている。(参照:“Annual Review of Government Contracting, 2015 edition” (政府契約の年次評価 2015年度版) National Contract Management Association and Bloomberg Government, http://tinyurl.com/pjlrjdd.)
「2016年版 ACFE 職業上の不正と濫用に関する国民への報告書 (ACFE Report to the Nations on Occupational Fraud and Abuse)」によれば、米国及び全世界で1件の不正で発生する損失中央値は15万ドルで、事例の23.2%が100万ドル以上を損失している(参照:ACFE.com/RTTN、同報告書4ページ) 。
このような説明で損失のイメージが湧かなければ、1件の購買不正で生じた損失を埋め合わせるために、あとどれくらいの売上を余計に稼がなければならないかを考えればよいだろう。例えば、皆さんの会社で15万ドルの不正損失があったとしよう。もし、営業費用を引いた粗利益率が10パーセントだったら、不正損失の穴埋めをするために、150万ドルの売上が追加で必要になる。
この航空宇宙産業の事例では、ゴートゥー・エアロは、効果的な購買の健全性に関する統制を持っていなかったことにより払う羽目になった220万ドルの罰金の埋め合わせをするために、追加で2,200万ドルの売上が必要だった。さらに、この損失には、会社が新入社員の採用や教育に負担しなければならなくなった費用や、従業員の有罪判決がローカルニュースで流れたことによる、会社の評判への悪影響は含まれていない。
真の全体像は見えにくい(True scope is elusive)
購買不正と闘うための戦略を策定する際の重要な課題の1つは、不正実行者がどのようにそれぞれのスキームを実行しているかについての信頼できるきめ細かな情報を得ることである。要するに、我々がそれぞれのスキームを教科書的に理解しているとしても、不正行為は相手を欺く行為であるため、スキームの真の全体像はなかなか見えて来ないのである。調査データは細かい点と複雑な点が混合しており、それらが総合的に比較・分析されることは滅多になく、問題を複雑にしている。しかしながら、旧全米購買不正タスクフォース (NPFTF) の不正調査に関するデータは、信頼できる情報源として活用することが可能である。
米司法省の刑事局 (The U.S. Department of Justice Criminal Division) は、2006年にタスクフォースを開始した。本稿の著者の一人、トム・コールフィールド (Tom Caulfield) はそのメンバーだった。2010年11月、NPFTFはFinancial Fraud Enforcement Task Force(金融犯罪取締タスクフォース)に組み込まれ、金融犯罪の調査と起訴のための強力で、統一的かつ積極的な省庁間のタスクフォースが組織された。
NPFTFは連邦刑事局 (U.S. attorneys’ offices)、DOJの民事局とFBI、NRO、OIG、国防総省国防犯罪捜査局 (Defense Criminal Investigative Service) および 国土安全保障省 (Department of Homeland Security) を含む 20以上の連邦機関と協力関係を結んだ。タスクフォースは、不正事例のスキーム、業界、犯行者、損害額についての事例データを収集した。NPFTFの取組みはプライス・ウォーターハウス・クーパース(PWC)によって分析され、2006~2010年の間のタスクフォースの訴追事例の多くを反映している。その内訳は次の通りである。賄賂 (27.3 %)、入札不正 (20.8 %)、横領 (21.1 %)、不正請求(16.3 %)、マネーロンダリング(7.1 %)、その他 (7.4 %). (参照:“Cracking down: The facts about risks in the procurement cycle,” PricewaterhouseCoopers, http://tinyurl.com/nt4wxx3.)
タスクフォースが起訴した被告の内訳は、次のとおりである。仕入先会社 (35.3 %)、仕入先会社の従業員 (20.2 %)、非公開会社(4.5 %)、 私人 (8.1 %)、 公務員 (31.9 %)
また、PWCは「Cracking down」において、購買リスクに対する次のような見解は実は誤解であると報告している。
・米国の購買リスクは主に防衛関連の契約者に影響を与える。
・倫理規定や倫理ホットラインを持っている会社にとっては、購買リスクはそれほど大きな問題とは言えない。
・米国のサーベンス・オクスリー法 (U.S. Sarbanes-Oxley Act) の内部統制条項に準拠することで、購買リスクを除去できる。
・購買リスクや汚職は開発途上国に限られるものである。
(初出:FRAUDマガジン55号(2017年4月1日発行))
(その4に続く)