購買業務の難しさ 「信頼というベール」が 不正の発見を阻む(その4 全4回)
経験が我々に示してくれたことは、購買不正は一見すると表面的であり、大抵の場合、手がかりや不正の兆候は微かなものであるため、調査が困難であるということだ。従業員は、妥当な不正の兆候を書類の中の形式的な監視事項として見逃すか、何となく耳にした話に正当性を見出さないだろう。
このような理由から、年1回程度の購買不正の指標や懸念事項に関して何をどのように報告するかというトレーニングを行うことは不正行為の防止のために重要なことである。
また、プログラム・マネージャーや各部署のマネージャーの多くは、自分の部署での何らかの不正の兆候を、自分達の経歴や将来の資金調達にマイナスの影響を与えると考える。従って彼らは、相変わらず、不正の存在を暗示するものを過少評価する。我々は、このようなマネージャーが故意に不正を隠蔽していると言っているのではない。彼らは単に自分達観察したものを合理化してやり過ごしているだけである。エドマンド・バーク (Edmund Burke) の古い格言を引用するとこのようになる。「悪が勝利するたった一つの方法は、善人が何もしないことである」。これを我々のシナリオに応用すると、「購買不正が勝利するたった一つの方法は、善人が何も報告しないことである」ということになる。
財務諸表不正や会計不正と異なり、購買不正は上級経営者が関与することが少ないようである。また、各拠点が地理的に離れている会社に多くみられるようである。部門、経営、プロセスが分散されて、一貫性に欠け、倫理的な「トップの姿勢」が伝達されない場合に組織は最も脆弱である。
少額の購買不正(Subtle procurement fraud)
我々の経験した事例に戻ろう。調査の初期段階で、ゴートゥー・エアロは、予め承認されていた納入業者5社についてDOJの指定した5年分の全仕入取引データの入ったエクセルシートを提出するためにDOJから召喚された。調査官はエクセルシートをたった1時間程見ただけで、メンテナンス部門の従業員22名中9人 (41%) が、不正に関与した仕入先だけを選んでいたことに気が付いた。(前述したように その中の7人が有罪になったが、2名は調査の3年前に退職したので調査対象にはならなかった。また、1名は調査開始前に死亡していた)
DOJはこの簡単な調査結果を用い、この会社に法廷外で和解して220万ドルの罰金を払うように指示し、最終的に納得させた。召喚記録によれば、従業員が5年間の証拠収集対象期間よりも前から不正に手を染めていたことも明らかになった。
個人や財産に対する犯罪(暴行、殺人、器物損壊、他)とは異なり、購買不正のスキームは小規模である。また、個人や財産に対する犯罪では犯罪行為は最初から分かりやすく、「誰が罪を犯したか」を特定することが調査の主な焦点になる。しかし、購買不正では多くの場合、調査員は犯人と疑われる人物が分かっているため、「不正実行者の行動は何らかの法に違反したかどうか」が調査の焦点となる。
購買不正調査の開始に繋がる不正の兆候により、結果的には全く異なる不正スキームが発見されることが多いことに注意するのは重要である。例えば、分割発注という手法は、購買プロセスでプログラム・マネージャーが自分よりも上層のレビューを回避し、契約までの期間が長期化するのを防ぐために行われることが多い。しかし、プログラム・マネージャーが賄賂を受け取った後で 競争入札を行わないという決定を隠蔽するために注文を分割することも可能である。
彼は、業務を分割発注し、個々の注文金額が契約上限額よりも低くなるよう分割することによって、開かれた完全な競争入札を行うという会社の要請を回避するスキームを考案した。多くの会社は、一定の金額を上回った注文は競争入札によって発注することを要求する方針を確立しており、これは監視の程度を高めている。分割発注の真の理由は、不正の兆候を調査した後で初めて明らかになる。
不信を白日に晒す (Let the light shine in)
組織として、自らの購買プロセスの重大な不正リスクを把握するのは必須である。不正行為者とその仲間が広範囲に人を騙す行為によって、組織がリスクに晒されていることを認識しなければ、取引からの締め出し、契約の終了、財務的損失、信頼失墜、評判の低下、刑事罰及び民事罰の可能性につながる。それらを防止するためには、(誤った)信頼のベールを敢えて剥ぎ取って、白日に晒し、浄化する必要がある。
(初出:FRAUDマガジン55号(2017年4月1日発行))