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倒産事例における不正の発見 支払不能日をいつに決定するかで不正利得を回収する(その4 全4回)

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 この例では、資産と負債は、一項目ずつ評価され、以下の調整により市場価値に変換されている。
・売掛債権は、主として期限を過ぎている、つまり回収不能を根拠に27万5,000ドル減額されている。
・在庫は、劣化により20万ドル減額されている。
・前払費用は、市場価値がないとされ、12万5,000ドル〔全額〕減額。
・他の資産は、市場価格がないと判断され、8,000ドル減額されている。
・資産と設備は、借地借家改良費を除き、82万5,000ドルを減額して市場価格とされている。
・借地借家改良費簿価85万ドルは、市場価格がないため償却されて価値なし。
・未払費用は、将来の費用が発生しないことを根拠に5万ドルを減額。
・全体の簿価から市場価格への変換額は、資本で138万3,000ドルから121万9,000ドルへの16万4,000ドルの減額である。この例では、この会社は、簿価では資産超過だが、市場価格で計算すると実際には債務超過であった。

債務者が、債務超過日から倒産申立日に純利益の黒字を示さなかったことを証明する (PROVING DEBTOR WASN’T SHOWING POSITIVE NET INCOME FROM CLAIMED INSOLVENCY DATE TO BANKRUPTCY FIL ING DATE)

 ほとんどの場合、債務超過日と倒産申立日との間の期間は、財務諸表の決算期間と一致していない。企業が債務超過日から倒産申立日の間に黒字の純利益を示さなかったことを証明するのは管財人の義務であるはずだ。この証明は、以下の項目を含む。
・管財人は、事業からの収益が債務超過日から倒産申立日に至るまで損失であることを示さなければならない。
・前述の収益がプラスの場合、管財人は、企業が債務超過状態にあったとして終わった期間内に内部関係者への何らかの配当がないか確認しなければならない。
・収益が黒字の場合、管財人は、資産か負債の市場価格の大きな変化を確認しなければならない。
 債務超過日から破産申請日までの事業収益が赤字の場合、企業が債務超過だったと主張する日から破産申請日まで本当に債務超過だったかを検証する第二段階を完了したことになる。
 もし、この期間の業務上の収益が黒字なら、関係者への配当がされていないかを検証する。もし相当の配当があったら、その企業は債務超過であったことを示し、その破産財団は配当に対して損害賠償を主張できる。
 最後に、この期間の業務上の収益が黒字なら、資産と負債の内容を検証する必要がある。しばしば、架空売上や売上原価を計上しない等の不正な会計処理が発見される。
 債務超過だと主張する日と破産申請日の間の業務上の収益が黒字で、前述したようなマイナスの要因が見つからない場合、企業が債務超過だったと主張する日に債務超過であったことに強力に反証できる可能性が高い。企業の営業利益がプラスであったなら、倒産申立がなされた理由を検証することになる。

企業における、追加投資(ADDITIONAL INVESTMENT IN THE ENTITY)

 債務超過の最後の検証は、追加投資がなかったことの確認である。この投資は、借入とは別に資本の形で行われなければならない。というのも、借入は債務超過の計算に無関係だからである。倒産申立日以降に誰かが大規模な投資を行っている場合は、資産の市場価格がその時点の債務を上回っているかどうかを判定するために投資時点の資産の市場価格を再計算しなければならない。
 投資後の資産の市場価格が負債のそれを超過している場合、主張されている債務超過状態の日は使えないことを示す。

不正からの資金回収(RECOVERING PROCEEDS FROM FRAUD)

 企業倒産手続における債務超過日の決定のための一般的基準を確立することは、関係者のみならず不正により失われた資金を回収するためにも役立つ。
 この提案は、以下に示す基準が債務超過日を証明することを示唆している。
・企業の債務総額が、当該企業の総資産の市場価格を上回ること
・債務企業の営業純利益から配当を引いた額が、申告された債務超過日から倒産申立日までマイナスであること
・申告された債務超過の日付の後の追加投資が企業を資産超過にしていないこと
これらの基準を採用して債務超過を証明することは、債権者と企業の両者による、より生産的な協議と、さらに資産の回復につながるものである。

(初出:FRAUDマガジン55号(2017年4月1日発行))

この記事の執筆者

Roger W. Stone, CFE
イリノイ州シャンペーンのManagement Accounting Services社のオーナー兼経営者である。主に、債務超過の判定と法廷会計に関するサービスを事業者と弁護士に提供している。
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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 この例では、資産と負債は、一項目ずつ評価され、以下の調整により市場価値に変換されている。・売掛債権は、主として期限を過ぎている、つまり回収不能を根拠に27万5,000ドル減額されている。・在庫は、劣化により20万ドル減額されている。・前払費用は、市場価値がないとされ、12万5,000ドル〔全額〕減額。・他の資産は、市場価格がないと判断され、8,000ドル減額されている。・資産と設備は、借地借家改良費を除き、82万5,000ドルを減額して市場価格とされている。・借地借家改良費簿価85万ドルは、市場価格がないため償却されて価値なし。・未払費用は、将来の費用が発生しないことを根拠に5万ドルを減額。・全体の簿価から市場価格への変換額は、資本で138万3,000ドルから121万9,000ドルへの16万4,000ドルの減額である。この例では、この会社は、簿価では資産超過だが、市場価格で計算すると実際には債務超過であった。
2020.03.19 16:32:52