不完全な採用調査が大きなトラブルにつながる 倫理に関する重大な決断が必要(その3 全4回)
バス会社はまた、そのドライバーの過去の雇用主に接触することを怠った。もし彼らがそうしていれば、同僚従業員への暴力行為で、そのドライバーが解雇され、そして脅迫行為でその他2つの仕事から解雇されたことを発見できたはずである。
この重要なバックグラウンド情報があれば、潜在的にではあるものの、その高齢の乗客への暴力行為や裁判による多額の損害賠償あるいは和解費用を未然に防ぐことができたであろう(現時点でこの裁判は係争中である)。
このケースや編集部のシナリオで重要なのは、バックグラウンド調査の提供者とエンド・ユーザー双方の倫理観である。
当然ながら、そのバスドライバーの裁判で被告人側の弁護士は、いかなる有罪判決もその州においては7年の法定報告期間の制限を受け、この有罪は同意日より20年前のものであるから、有罪判決の報告は実際のところ(法的に)バス会社の経営者に入手可能なものではなかったという偽りの業界基準を必死に強弁しようとした。
おそらくその議論で優位にたつ可能性はない。報告の機会が法定の報告期限の範囲内にあっただけでなく、非倫理的な調査会社が、法令によって実際にはCRAであったとしても、自らそう名乗らないと決めていた。
このポジショニングの結果、調査会社は、そうした状況で正確性を求める連邦法の報告義務、すなわちFCRA第607条および第613条a2を故意に無視した。
強い倫理観と几帳面さに加え、自らをCRAとして名乗ることを含め、違法かつ不完全な報告、またはそのいずれかに該当する報告に関する公正信用報告法を理解し、それを遵守することで、バス会社をクライアントとしていた調査会社はこの惨事を防ぐことができたはずである。
多くの調査会社が自らをCRAと称することを拒む。しかし合衆国法典15編1681 kの下では、エンド・ユーザー・クライアントの雇用プロセスの一部として公的記録を検索し、報告することを(雇用の当事者ではない)第三者が求められた場合、その第三者はCRAとしての地位を確立することになるのである。
Checking all legal repositories of criminal records(犯罪記録に関する全ての合法的なデータベースをチェックする)
多くの人々が犯罪の全記録の根源であると考えているもの、すなわちFBIの犯罪司法情報サービス部 (Criminal Justice Information Services Division, CJIS)に、すべての犯罪記録が現れる訳ではないといったら、皆さんは驚かれるだろうか?
1998年、広くかつ積極的に無料で地域のチャリティー団体のために指紋チェックを実施しているネバダ州ボールダーシティー警察は、ボールダーシティーにあるSt. Jude’s Ranch for Children(訳注:ネバダ州 ボールダーシティーに所在する虐待・遺棄などの扱いを受けた児童や青少年のための施設)への応募者であるラリー・ワイゼンベーカー (Larry Wisenbaker) のCJISに提出された指紋に、「該当記録なし」という結果を出した。なんとも残念なことである。(参照:“Vegas authorities irate that they were never notified of molester’s background,” (性的虐待者のバックグラウンドについて知らされたことはなかったとラスベガス当局は激怒)、Reno Gazette-Journal, Feb. 6, 2000,http://tinyurl.com/h6b8dzu)
2000年2月4日の記事”Counselor gets four life terms for abuse of children”,(児童虐待の罪で児童カウンセラーに4回の終身刑を宣告)by Bill Gang, Las Vegas Sun, (http://tinyurl.com/z25rzbm) によると、不運なことに、クラーク郡の地区検事補であるジェラルド・ガードナー (Gerald Gardner) 氏の事務所もコンピュータ検索をしたが、やはり、ジョージア州メーコンにある児童保護施設における児童虐待に関する1996年の有罪判決を検出しなかった。
St. Jude’s Ranch for Childrenは、ワイゼンベーカーを雇用した。2000年2月5日の記事 “Molester gets life terms”(性的犯罪者に終身刑が下される)by Peter O’Connell, Las Vegas Review-Journal, (http://tinyurl.com/zbd9hy2)によると、その施設でのわずか1年の間に16名の少年に対し性的いたずらを働いたことに対するワイゼンベーカーの裁判の中で、ガードナー地区検事補は、ワイゼンベーカーを、「・・・我々がこの州でこれまでに起訴した中でも最も犯罪数の多い連続性犯罪者である」と呼んだ。ラスベガス・サン紙によれば、ワイゼンベーカーの4回の終身刑と追加の刑期は、彼が仮釈放を得るとしてもそれまでに65年間は彼を刑務所に拘束することになるであろう。
その後に続いたワイゼンベーカーに対する民事訴訟の記録鑑定人として、G. ダラス・ホートン (G. Dallas Horton) 氏は、共同被告人であるSt. Jude’s Ranch for Childrenが、ワイゼンベーカーを雇用する段階で過失を犯したことに対する起訴を手助けするため私を雇い入れた。
この訴訟に携わり、1時間の間に、私は、ワイゼンベーカーがここ7年の間に、彼の住居と雇用先のあったテキサス州とジョージア州で同様の罪を犯していた2つの司法管轄地を特定した。
これらの管轄地のいずれも、ワイゼンベーカーの犯罪歴の報告について、連邦当局に協力しておらず、そのためにボルダー市警察当局による指紋チェックは「該当記録なし」という結果を出したのだった。
St. Jude’s Ranch for Childrenは、その民事訴訟に破れ、数百万ドルを支払う和解を余儀なくされた。
(初出:FRAUDマガジン56号(2017年6月1日発行))
(その4に続く)