HOME コラム一覧 不完全な採用調査が大きなトラブルにつながる 倫理に関する重大な決断が必要(その4 全4回)

不完全な採用調査が大きなトラブルにつながる 倫理に関する重大な決断が必要(その4 全4回)

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Practicing comprehensive candidate identification(包括的な応募者の身元確認を実施すること)

 大抵の場合、完全な採用調査を実施するという決定は支出を伴う。残念ながら、ほとんどとはいえないまでも多くの採用のためのバックグラウンド調査の決定は、調査能力(あるいはコンプライアンス)ではなく、予算によって決定される。それゆえ、あまりにも頻繁に起こるのは、組織が、掘り下げたバックグラウンドチェックの代わりに安価なデータ・モジュールを使うことである。
 St. Jude’s Ranch for Childrenのケースでは、もしボルダー市警察と地区検事補が指紋チェックに先立ち、単純かつ安価な身元チェックを、最も基本的なレベルででも実施していたとしたら、彼らはワイゼンベーカーが、FBIの犯罪司法情報サービス部がカバーしていない管轄地で生活をし、仕事をしていたことを突き止めることができたであろう。
 そして、もし鋭敏で知識豊富な警察の捜査官が、ワイゼンベーカーが過去7年間生活していた場所を見つけ出していたとすれば、関連する両方またはどちらか一方の管轄地における法執行機関に単純な電話照会をするだけで、私がIDチェックの後に裁判所事務官オフィスへ電話することで発見することができたのと同じ成果を生んだであろう。
 信じ難いことであるが、ワイゼンベーカーは、実際のところ、St. Jude’s Ranch for Childrenへの応募書類の中で、過去に重罪を犯したことを認める一方、詳細は伏せていたのだった。人事部の誰もそのことをフォローアップしていなかった。もしそうしていれば、ワイゼンベーカーがSt. Jude’s Ranch for Childrenで働くことはなかったであろう。
 余罪の発見につながっていたかもしれない、本人により明かされていない身元特定の鍵を発見することに加え、応募者が誠実であるか、あるいは何かを隠しているかを見つけ出すことには、すぐに分かるようなものではないが大きな利点があるのである。
 その利点とは、応募者が嘘をついていることを、あなたが一度判断したら、あなたの組織は誠実さという基本的概念の下、即座に候補者を却下することができる点である。採用過程という流れの中で残された唯一の非訴求型の候補者却下の手段がそれである。
 以下に示す不正調査の基本的な教訓の1つに従い、不正検査士は、情報の世界全体を出来る限り多く調査したと確信することによって初めて、不正が発生したか否かを最終的に判定できるのだ。もし不正検査士の上司がそうすることを許可しないのなら、組織は有罪判決を見逃すことになるだろう。

How to thoroughly identify employment candidates(徹底的に採用応募者の身元調査をする方法)

 安価な調査方法が常に倫理的な方法であるとは限らない。調査会社の調査手段の中で最も重要な1つの手段、つまり身元の厳しい追及への適切な投資を怠ることで、潜在的にエンド・ユーザー顧客へ損害を与える可能性がある。
 調査はどんなに少なくとも以下に述べる手段を網羅しなければならない。
1.信用調査所の社会保障番号 (Social Security number) による身元特定やID Verify®のようなIDプラットフォームに統合されたような製品を提供するサービスから独立した信用調査所の目玉商品を利用すること。3つの信用調査所が最大9つの身元特定製品を提供しているとしよう。あなたはすべてを実行するであろうか?あなたが3つすべての信用調査所を利用できるとは限らないとしたらどうするであろうか?その答えは、あなたが新しい情報の可能性を調べ尽くしたというところに行き着くまでにできる限りのすべてを実行することである。
2.身元、名前のバリエーション、社会保証番号、生年月日のバリエーション、過去の住所などを知るために、TransUnion/TLO、LocatePlus、ID Verifyなどといった専有データベースのいくつか、またはすべてを調査すること。
3.あなたがその応募者の身元特定に成功するか、または少なくともIDにつながる新たな追加情報が見つけることができないことが明らかになるまで、入手可能なすべての情報源から身元特定製品を入手すること。
 このプロセスには、すべての入手可能な身元特定データベースへのアクセスだけではなく、それぞれのデータベースの完全性に関する詳しい知識やコストに関わらず、すべての入手可能なサービスに加入するという調査会社の意欲を必要とする。

Ethically bound to search all sources(すべての情報源を調査する倫理的使命をもっている)

 バックグラウンド調査のベストプラクティスは、組織が、調査担当者を該当する管轄区域に派遣する前に、採用応募者の有罪判決の履歴や潜在的な身元のバリエーションを調査する底深さと幅広さを決定することを支配する。しかし、大抵の場合、組織は、不完全なデータの代わりに倫理観を利用し、そうすることで、信用調査会社は、最終損益を改善したい潜在的なエンド・ユーザー・クライアントの限られたコスト期待に応えることができる。
 広範なエリアにわたり、ビッグデータが検索可能な分野には、通常、連邦、州、そして地方の裁判管轄地が含まれる。CoreLogic National Background Dataや他の多くの民間の大規模な全国的犯罪データベースは、そうした状況次第で、良き友にも、恐ろしい敵にもなりうる。時に、データベースは、間違った人物に関する不完全なデータにもなり、または誤った記録を検出する。しかしながら、このデータは、もし調査組織がそれを内部で利用し、最終的な結果ではないものとして利用するのであれば計り知れないほど貴重なものとなる。
 すべての入手可能な裁判記録を、手作業と(可能であるなら)インターネットにより調査することに加え、調査の最も高い価値は利用可能な情報の適切な世界に到達したとう満足に至るくらいに可能な限り多数の民間情報データベースを利用することの中にあるということを、我々は決して忘れてはならない。
 このプロセスにはコストがかかるが、これは不正実行犯を雇い入れる結果を招く有罪判決の見落としに係る人的そして財務的コストのわずかひとかけらにすぎない。
 本稿における事例は、応募者が信用するに値するか否かを決定するにあたり、組織は、基本的な、倫理に基づいた、実践的かつ徹底的な身元調査プロセスを開始する必要があることを証明する。行うべきは倫理的なことなのである。

(初出:FRAUDマガジン56号(2017年6月1日発行))

この記事の執筆者

Roger W. Stone, CFE
採用調査会社であるAPSCREEN社の創業者。ACFEの終身会員であり、ACFE Editorial Advisory Committeeのメンバーである。
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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2020.04.24 16:28:26