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非GAAP指標はいつ不正な公表になるのか? 財務報告における新しいリスクの出現(その4 全4回)

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規制当局の執行と指導 (Regulators’ enforcement and guidance)

 もちろん、非GAAP指標は、ここ数年間規制当局の監視下にある。非GAAP指標の不適切で誤解を招く使用に関するSECの最初の強制措置は、2002年にトランプホテル&カジノリゾート (Trump Hotels & Casino Resorts) に対する停止手続きを開始する際に行われた。トランプホテルは、GAAPベースの数値より高い純利益の金額を大げさに広告したプレスリリースを公表した。同社は、プレスリリースで報告された当期純利益の金額は、特別損失を除外したことを開示したが、また、SECが、その事業からの純利益はそれが本当にあったより高いという誤った印象を作ると感じている項目である特別利益を含んでいることの開示を怠った。(参照:http://tinyurl.com/zrtxbxu)
 それ以来、SECは、非GAAP財務指標の使用に関する追加のガイダンスを提供した。 2003年に、SECは「非GAAP財務指標の利用のための条件」を発行したが、これは非GAAP指標のための3つの開示モデルを説明した。最も一般的に使用されるモデル、Regulation Gは、何よりもまず非GAAP指標は誤解を招く恐れがないこと、それらは、対応するGAAPベースの数字と両者の間の調整を伴うことを要求している。(参照:http://tinyurl.com/z72semo)
 また、四半期および年次決算発表は、GAAP指標が非GAAP指標と同等またはそれ以上に強調して表示することになっており、企業は非GAAP指標が投資家にとって有用である理由を説明しなければならない。
 四半期、年次のSECへの報告では、非GAAP指標は追加の基準を満たす必要がある。それは、例えば、直近の2年間に発生した類似のコスト、または次の2年間に再度発生する可能性がある場合、いかなるコストでも「非経常」として純利益から除外しないこと、そして、GAAPベースの目的のために使用される名称と混同されるような名称を使用しないといったことである。
 5月、SECは、非GAAP指標の使用に関する指針を質問と回答の形式で更新して、掲載した。(参照:http://tinyurl.com/hfys6s4)。5月のアップデートは以前のガイダンスに、いくつかの条項とSECが誤解を招くような情報をもたらすであろうと考えている非GAAP指標を使用している企業の例をいくつか追加した。SECはまた、当局が禁止していること、つまり非GAAP指標が比較可能なGAAP指標よりも「より目立つ」開示の例を提供している。

非GAAP指標に対する訴訟 (Litigation over non-GAAP measures)

 GAAP/IFRS-財務報告情報に関わる訴訟の根拠は、通常は明らかである。企業会計が本当はGAAP/IFRSに準拠していないが、その財務諸表がGAAP/IFRSに従って作成されている表示した場合には、その会社は財務報告の不正行為をはたらいたことになる。(しかし、意図が立証されなければならず、それは困難である可能性がある。参照:March/April 2015 “ACFE Cookbook” column, “Proving intent proves to be tricky,” http://tinyurl.com/mmh9wpn.)
 法的措置の根拠は、金額がどのように測られるかについて、正式に認められた一連の原則がない場合にはそれほど明確ではない。しかし、このことは、彼らが非GAAPの開示によって誤解に導いたとの主張による訴訟が起きないようにしてはいない。
 今年の初め、ニューヨーク証券取引所に上場している不動産投資信託 (REIT)、Brixmor Property Groupによって、虚偽表示の疑いに関する1つの訴状が提出された。この訴状は、株主を代理して提出され、Brixmorが「重要な虚偽の誤解を招く表示を行っており、会社の事業、経営、業績に著しく不利な重要な事実を除外していた」と主張している。このような言葉は、意図的なGAAP違反を主張する代表訴訟では珍しいことではない。しかし、このケースでは、主要な非GAAP指標を参照している。(参照:http://tinyurl.com/hdh83l4)
 多くの同業他社と同様に、Brixmorは歴史的に(冒頭の架空のケースのように)「same property NOI」として1つの数字を発表している。NOIとは、純営業利益 (net-operating income) と呼ばれ、GAAPベースの報告純利益に減価償却費及び償却費、支払利息、減損損失およびその他の一定の調整項目を追加した非GAAPベースの数字を指す。Same property NOIは、報告期間において組織が保有し、運営した資産から生じた純営業利益である。
 訴訟は、2016年2月にBrixmorによって提出されたForm 8-K2の「ある場合には、会社の特定の担当者が、業界の非GAAP財務指標である四半期毎のSame property NOIの成長を継続的に達成するため、GAAPに反する方法による報告期間の収益項目の平準化に直接関与したか、または直接関与した人員を監督した」と結論づけた監査委員会の監査結果を引用した。2月の開示によって、Brixmorの株価に1日で20パーセントという急激な下落をもたらした(本稿の執筆時点では、そのほとんどが回復した)。

この上何があるのだ (What next?)

 多くの会社は、GAAP/IFRSがそれらの財務状況と営業成績について全体の物語を語らないと主張する。しかし、非GAAPベースの業績指標の急速な普及は、規制当局が注目している不正の準備の整った状況を作り出している。我々は、規制当局および基準設定団体が、この分野での彼らの監督をさらにステップアップし、非GAAP指標の使用に関するより明確化されたガイダンスを発行することを期待できる。
 欧州会計学会 (European Accounting Association) の年次総会における5月の演説で、IASB議長ハンス・フーヘルフォルストは、私が前述した2015年の懸念を改めて示し、IASBが実際に非GAAP指標に関する詳細なガイダンスを提供する可能性を表明した。(参照:http://tinyurl.com/jkhmg5g)
 一方で、我々はまた、企業が投資家を欺くためにこれらの指標を使用しているという申立てを含んだ論争や訴訟の増加を予想している。
                   
___________________
ACFE JAPAN事務局注
2. 米国の株式公開企業がSECへの提出を義務付けられている財務状況や株価に影響を与える可能性のある重要事項に関する報告書式

初出:FRAUDマガジン53号(2016年12月1日発行)



この記事の執筆者

執筆者:
Regent Emeritus Gerry Zack, CFE, CPA, CIA
BDOコンサルティングのグローバル不正リスクアドバイザリー部門の業務執行取締役(managing director)であり、不正リスクアドバイザーおよび調査サービスを提供している。ACFE の教職員メンバーであり、2015年のACFE理事会の議長であった。
翻訳協力:
浅利昌克、CFE、CPA
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである

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 もちろん、非GAAP指標は、ここ数年間規制当局の監視下にある。非GAAP指標の不適切で誤解を招く使用に関するSECの最初の強制措置は、2002年にトランプホテル&カジノリゾート (Trump Hotels & Casino Resorts) に対する停止手続きを開始する際に行われた。トランプホテルは、GAAPベースの数値より高い純利益の金額を大げさに広告したプレスリリースを公表した。同社は、プレスリリースで報告された当期純利益の金額は、特別損失を除外したことを開示したが、また、SECが、その事業からの純利益はそれが本当にあったより高いという誤った印象を作ると感じている項目である特別利益を含んでいることの開示を怠った。(参照:http://tinyurl.com/zrtxbxu) それ以来、SECは、非GAAP財務指標の使用に関する追加のガイダンスを提供した。 2003年に、SECは「非GAAP財務指標の利用のための条件」を発行したが、これは非GAAP指標のための3つの開示モデルを説明した。最も一般的に使用されるモデル、Regulation Gは、何よりもまず非GAAP指標は誤解を招く恐れがないこと、それらは、対応するGAAPベースの数字と両者の間の調整を伴うことを要求している。(参照:http://tinyurl.com/z72semo) また、四半期および年次決算発表は、GAAP指標が非GAAP指標と同等またはそれ以上に強調して表示することになっており、企業は非GAAP指標が投資家にとって有用である理由を説明しなければならない。 四半期、年次のSECへの報告では、非GAAP指標は追加の基準を満たす必要がある。それは、例えば、直近の2年間に発生した類似のコスト、または次の2年間に再度発生する可能性がある場合、いかなるコストでも「非経常」として純利益から除外しないこと、そして、GAAPベースの目的のために使用される名称と混同されるような名称を使用しないといったことである。 5月、SECは、非GAAP指標の使用に関する指針を質問と回答の形式で更新して、掲載した。(参照:http://tinyurl.com/hfys6s4)。5月のアップデートは以前のガイダンスに、いくつかの条項とSECが誤解を招くような情報をもたらすであろうと考えている非GAAP指標を使用している企業の例をいくつか追加した。SECはまた、当局が禁止していること、つまり非GAAP指標が比較可能なGAAP指標よりも「より目立つ」開示の例を提供している。
2019.08.30 16:16:56