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非GAAP指標はいつ不正な公表になるのか? 財務報告における新しいリスクの出現(その2 全4回)

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 しかし、情報が「ミスリード(誤解を招く)」となる時、それは不正であると考えられる行為の範囲に入る。実際、我々は、継続的な非GAAP指標の使用に伴うリスクを見ることができる。
 プレスリリースと財務報告で、監査済のGAAP数値と一緒に非GAAP指標を発表する際には、その読者が、監査されていない指標に対する信頼性について誤って本来より高い評価をするリスクがある。
非GAAP指標に適用可能な正式な基準が全くないので、もし会社が、特定の指標についてどのように計算するかをある年とその翌年とで変更したとしても、この変更に関して読者に説明する義務はない。会社は、単純にその年に立派に見えるいずれかの非GAAP指標をそれがどのように計算されたかを明らかにして開示することができる。毎年の一貫性はGAAPの下では前提とされ、一貫性の欠如(方針の変更)は、開示される必要がある。
会社がGAAPと非GAAP指標との照合を明らかにする際には、非GAAP指標に関連するリスクは、照合される項目の性質に基づいて変化するかもしれない。もし照合される項目が、GAAPに基づく財務諸表の個々の項目だけから構成されるならば、非GAAPによる照合項目が非GAAP指標にたどり着くよう取り入れられるよりも非GAAP指標はより信頼されるであろう。EBITDAはこのタイプの非GAAP指標の例である。EBITDAは、単に純利益の計算からある一定の項目(金利、税金、減価償却費および償却費)を戻すことによって計算され、これらの項目は、監査されたGAAP/IFRS基準による財務諸表の個々の項目として表示される。
さらに、前述のポイントをはっきりさせよう。不正の最も大きなリスクは、非GAAP指標を計算するために用いられた非GAAP照合項目の信頼性に存在する。「潜在的な」純利益および「継続的営業」利益(両者とも後で説明する)のような非GAAP指標は、この例である。なぜなら、報告された金額は、監査済の財務諸表で合計として報告された金額のうち特に選択された要素から構成されているからである 理論的には、経営者は、異常損失、偏った年の営業活動のような年度ごとの比較を歪める一部の収益及び費用を取り出した。しかし、読者は、それらが正確に行われたという保証を全然持っていない。

 会社が計算の基礎を明確に開示し、継続的にそれに従う限り、非GAAP指標は信頼できるかもしれない。しかし、読者は、これらの非GAAP指標がGAAP/IFRSベースの財務諸表についての監査人の意見によりカバーされていないことを理解しなければならない。そして、1つの非GAAP指標と同じ名称が会社により異なる定義をされるが、このようなことは、GAAPあるいはIFRSの用語や指標には起こらない。
 もしアナリストがGAAP/IFRS基準に基づく数値に注目し続けていたら明らかになっていた悪いニュースを隠すために、会社はカスタマイズされた指標を容易に作り出すことができるであろう。GAAPベースの数値に加えて、非GAAPベースの1株あたり利益(EPS)を報告したダウ・ジョーンズ工業会社のFactSet (http://tinyurl.com/z7cn2to) による3月11日のレポートによると、非GAAPベースの数値の平均は2014年度の財務報告としてのGAAPベースの数値よりも11.4パーセント高かった。この違いは2015年度の財務報告では、30.7パーセントに上昇した。

GAAP 対 非GAAP 報告書:入門 (GAAP vs. non-GAAP reporting: a primer)

 企業は、次第にGAAP/IFRS財務諸表に加えて各種の非GAAP財務業績指標をそれらの年次/四半期報告書に含めるようになっている。
 ウォールストリート・ジャーナルの6月28日の記事に引用されているが、Audit Analyticsからの調査によると、S&P500 インデックスの29の会社、つまり全体の5.7パーセントが、2015年度をGAAP基準に基づき決算した。Audit Analyticsは、それは2006年の25パーセントから減少していると伝えている。(参照:“Accounting Choices Blur Profit Picture,” by Tatyana Shumsky and Theo Francis, The Wall Street Journal, June 28, http://tinyurl.com/ztsrkts)
 そして、3月の学術論文において、その著者は、S&P500企業が非GAAP指標を提供する頻度が2009年(会社の52.5パーセント)から2014年(70.9パーセント)にかけて増加していると述べている。(参照:“non-GAAP Reporting: A Comparability Crisis,” March 2016, by Dirk E. Black, Theodore E, Christensen, Jack T. Ciesielski and Benjamin C. Whipple, http://tinyurl.com/j3mvuaw.)
 企業は、多くの場合、非GAAP指標を盛り込んでいる。なぜなら、彼らは利益計算に特定の費用またはその他の項目を含むことが、主たる事業に対する見解を歪める可能性があると考えているからである。例えば、そうしなければGAAPベースの純利益を減少させる特定の異常な経常外の支出の除外は代替的な純利益(「経常純利益」のように通常は若干異なって呼ばれる)や非GAAP/IFRSベースの一株当たり利益 (EPS) を結果としてもたらす。
 英国のCFA協会は、財務報告と分析委員会による2015年7月のレポートで、非GAAP指標はより楽観的な状況を描いていると指摘した。2008年から2014年の間の毎年、FTSE 100の企業の非IFRSベースの純利益は、IFRSベースの純利益よりも高いものであった。また、その差は、小さいものではなかった。2012年、2013年と2014年については、非IFRSベースの純利益は、それぞれ、144パーセント、140パーセントと148パーセントだった。(参照:“Non-IFRS Earnings and Alternative Performance Measures: Ensuring a Level Playing Field,” July 2015, CFA Society of the UK, http://tinyurl.com/z6fut3e.)
 異常な、つまり非経常的取引を経験することに加えて、多くの企業、特にIFRSを適用している企業が、利益の代替指標を使用するもう1つの理由は、 報告された純利益が、資産再評価に起因する公正価値調整を含んでいることである。そのような利益あるいは損失を除いた見通しの多くは、会社の経営をより良く反映している。

初出:FRAUDマガジン53号(2016年12月1日発行)
(その3に続く)



この記事の執筆者

執筆者:
Regent Emeritus Gerry Zack, CFE, CPA, CIA
BDOコンサルティングのグローバル不正リスクアドバイザリー部門の業務執行取締役(managing director)であり、不正リスクアドバイザーおよび調査サービスを提供している。ACFE の教職員メンバーであり、2015年のACFE理事会の議長であった。
翻訳協力:
浅利昌克、CFE、CPA
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである

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 しかし、情報が「ミスリード(誤解を招く)」となる時、それは不正であると考えられる行為の範囲に入る。実際、我々は、継続的な非GAAP指標の使用に伴うリスクを見ることができる。  プレスリリースと財務報告で、監査済のGAAP数値と一緒に非GAAP指標を発表する際には、その読者が、監査されていない指標に対する信頼性について誤って本来より高い評価をするリスクがある。非GAAP指標に適用可能な正式な基準が全くないので、もし会社が、特定の指標についてどのように計算するかをある年とその翌年とで変更したとしても、この変更に関して読者に説明する義務はない。会社は、単純にその年に立派に見えるいずれかの非GAAP指標をそれがどのように計算されたかを明らかにして開示することができる。毎年の一貫性はGAAPの下では前提とされ、一貫性の欠如(方針の変更)は、開示される必要がある。会社がGAAPと非GAAP指標との照合を明らかにする際には、非GAAP指標に関連するリスクは、照合される項目の性質に基づいて変化するかもしれない。もし照合される項目が、GAAPに基づく財務諸表の個々の項目だけから構成されるならば、非GAAPによる照合項目が非GAAP指標にたどり着くよう取り入れられるよりも非GAAP指標はより信頼されるであろう。EBITDAはこのタイプの非GAAP指標の例である。EBITDAは、単に純利益の計算からある一定の項目(金利、税金、減価償却費および償却費)を戻すことによって計算され、これらの項目は、監査されたGAAP/IFRS基準による財務諸表の個々の項目として表示される。さらに、前述のポイントをはっきりさせよう。不正の最も大きなリスクは、非GAAP指標を計算するために用いられた非GAAP照合項目の信頼性に存在する。「潜在的な」純利益および「継続的営業」利益(両者とも後で説明する)のような非GAAP指標は、この例である。なぜなら、報告された金額は、監査済の財務諸表で合計として報告された金額のうち特に選択された要素から構成されているからである 理論的には、経営者は、異常損失、偏った年の営業活動のような年度ごとの比較を歪める一部の収益及び費用を取り出した。しかし、読者は、それらが正確に行われたという保証を全然持っていない。  会社が計算の基礎を明確に開示し、継続的にそれに従う限り、非GAAP指標は信頼できるかもしれない。しかし、読者は、これらの非GAAP指標がGAAP/IFRSベースの財務諸表についての監査人の意見によりカバーされていないことを理解しなければならない。そして、1つの非GAAP指標と同じ名称が会社により異なる定義をされるが、このようなことは、GAAPあるいはIFRSの用語や指標には起こらない。  もしアナリストがGAAP/IFRS基準に基づく数値に注目し続けていたら明らかになっていた悪いニュースを隠すために、会社はカスタマイズされた指標を容易に作り出すことができるであろう。GAAPベースの数値に加えて、非GAAPベースの1株あたり利益(EPS)を報告したダウ・ジョーンズ工業会社のFactSet (http://tinyurl.com/z7cn2to) による3月11日のレポートによると、非GAAPベースの数値の平均は2014年度の財務報告としてのGAAPベースの数値よりも11.4パーセント高かった。この違いは2015年度の財務報告では、30.7パーセントに上昇した。
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