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非GAAP指標はいつ不正な公表になるのか? 財務報告における新しいリスクの出現(その3 全4回)

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 業界固有のニーズはいくつかの非GAAP指標の使用を促している。例えば、前述の”Non-GAAP Reporting: A Comparability Crisis”は、非GAAP指標の使用はヘルスケア、情報技術業界で一番高く公共事業(電気・ガス・水道)素材産業が僅差でそれに続いていると述べている。(参照:http://tinyurl.com/zmybbos)
 非GAAP指標は収益に関する指標に限定されるものではない。GAAP/IFRSベースのキャッシュ・フロー計算書で報告されたキャッシュ・フローの変動も一般的に見られる。「フリーキャッシュフロー」と「例外的項目を除いたキャッシュ・フロー」のような用語は、財務報告書に見られる多くの例の中の2つである。非GAAPベースの流動性指標である「net financial debt」もGAAPベースにより報告されていた流動資産と流動負債により算出された流動比率を補完するために報告されている。

世界的な傾向 (A global trend)

 読者の多くが、非GAAP指標の問題は「米国のものだ」と考えるといけないので、我々は、代替的な財務報告の開示に向けて加速する世界的な傾向の例を見つけることができる。英国の財務報告を検索すると、いくつかの追加された指標に加えて、「報告された」収益、利益、および1株あたり利益(GAAP/IFRSベース)と同じ用語で「潜在的な」数値を開示している複数の会社をすぐに発見することができた。
 しばしば、これらの財務報告のナラティブ・セクションは、「潜在的な」または他の代替的な数値に焦点を当てている。一例を上げると、「潜在的な」結果は、読者に「潜在的な」の定義について24ページを参照するようにとの脚注とともにプレスリリースの最初のページに目立つ形で特記された。同じ会社が、IFRS基準での「報告された」数値より、「私達は、潜在的な数値が取引の実績をより良く表すと信じている」と説明する。
 「潜在的な」業績の報告と説明は、同様に他の国で発見されるかもしれない。オーストラリア企業経営者協会 (Australian Institute of Company Directors) およびオーストラリア金融サービス協会 (Financial Services Institute of Australia) が共同で出版したガイドでは、「潜在的な利益」は、オーストラリア会計基準に従って決定された純利益と記載されており、これは、「会社の継続的な事業活動の結果についての経営者の評価を反映する数値を示すように調整されている。」何のことだろう?「経営者の評価」とは?(参照:“Underlying Profit: Principles for Reporting of Non-statutory Profit Information,”2009,http://tinyurl.com/zddcb3d)
 非GAAPベースの業績指標の世界的な使用は「潜在的な」の数値の使用に限定されない。あるフランスの会社は、9つの「IFRSで定義されていない財務指標」のリストとそれに続くその用語それぞれの独自の定義を提供した。前述した英国の会社と同じように、非IFRSベースの指標は、同社のプレスリリースの中で最も目立つように掲載された。
 韓国、ソウルの会計レビュー国際シンポジウム (Korean Accounting Review International Symposium) の前の2015年3月のスピーチで、IASB議長ハンス・フーヘルフォルスト (Hans Hoogervorst) は、代替的な業績指標の濫用の可能性に対する懸念を表明した。 IASBはそれらの使用に根本的な異議がないことを指摘しているが、フーヘルフォルストは、「非GAAP指標が企業の財務業績の選択的プレゼンテーションを表すことを覚えておくことが重要である。さらに、その選択は、偏見が無いわけではない」と述べた。(参照:http://tinyurl.com/jb2endy)
 さらにフーヘルフォルストは、ウォーレン・バフェット(Warren Buffett)がバークシャー・ハサウェイ (Berkshire Hathaway) からの「株主への手紙2014 (2014 Letter to Shareholders)」において「CEOが評価ガイドとしてEBITDAを宣伝する時は、彼らをポリグラフ(うそ発見器)のテストにかけることだ」と述べたことを引用した。 (参照: http://tinyurl.com/m5lxcqw.)
 IASBは、数年前から、その開示イニシアティブの一環として、代替的な業績指標の利用について検討している。

規制当局の参加 (Regulators chime in)

 2015年12月、SEC委員長メアリー・ジョー・ホワイト (Mary Jo White) はカンファレンスの基調講演で、非GAAP指標の使用は「細心の注意を必要とする」と述べた。ホワイトは、非GAAP指標は、関連性の高い有益な情報を提供できることを認めながらも、これらの指標が「混乱の源」であることも述べた。(参照:http://tinyurl.com/gpyffhq)
 2016年3月に行われた第12回生命科学アカウンティングおよびレポート会議(the 12th
 Annual Life Sciences Accounting and ReportingConference,)では、SEC主任会計士のジェームズ V. シュヌア (James V. Schnurr) は、ホワイトの懸念を改めて表明し、非GAAP指標は、「財務諸表の情報を補足するものであり、財務諸表の情報に取って代わるべきではない」と付け加えた。(参照:http://tinyurl.com/hr7uoax)。なお、シュヌアは、規制当局がなぜ懸念するのか2つの重要な理由について詳しく述べた。
 まず、GAAPに比べて非GAAP指標を重要視することは、規制当局にとって憂慮すべきである。「金融ニュースのネットワークが四半期ごとの利益を報告する時、彼らはしばしば、実際のGAAPベースの利益を参照せず、調整されたとしても多くの場合それを認識しない利益の非GAAP指標を報告している」とシュヌアは述べた。
 アナリストの予想が主に非GAAP指標に基づいている場合は、この正当な懸念は深刻化する。考えられる解決策は、GAAPへの変更や拡張を含むため、これらの対策や変更の監査の範囲への拡張に及び、監査人に一層の責任を負わせることとなる。
 シュヌアの第二の懸念は、読者をGAAPから非GAAP指標に向かわせる調整項目の複雑さのレベルに関係する。シュヌアは「流動性や現金創出の措置と比較して、あるいは純利益、および現金創出の代替手段と比較して、収益性の代替財務指標に到達する程度と調整の性質に悩まされている。」
 確かに、古典的なEBITDAの計算は、GAAPベースの純利益に、金利・税金・減価償却および償却(ITDA)といった少数の調整項目を持つ。しかし、提出書類を簡単に見直しただけで、EBITDA指標においてSECが過去に他の企業に異議を唱えてきた追加的な調整項目があることが明確になる。 2007年、SECはCompagnie Generale de Geophysique-Veritasの2006年のForm 20-Fの年次財務報告書におけるEBITDAの開示に異議を唱えた。それは、ITDAに加えて、純利益にストックオプション費用を加算して算出されていた。会社は、2007年にForm 20-Fを提出した際、この指標をEBITDAと区別したEBITDASと名づけた。(参照:http://tinyurl.com/hyey6ko)

初出:FRAUDマガジン53号(2016年12月1日発行)
(その4に続く)

この記事の執筆者

執筆者:
Regent Emeritus Gerry Zack, CFE, CPA, CIA
BDOコンサルティングのグローバル不正リスクアドバイザリー部門の業務執行取締役(managing director)であり、不正リスクアドバイザーおよび調査サービスを提供している。ACFE の教職員メンバーであり、2015年のACFE理事会の議長であった。
翻訳協力:
浅利昌克、CFE、CPA
※執筆者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである

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