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記憶に残る事例Part1 指導されるべき簡潔で力強い物語(その4 全4回)

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虚偽請求に関する不正でおびえる従業員 (Fearful employees in false claims fraud)

 エリック・R・フェルドマン (Eric R. Feldman, CFE, CIG) は、国家偵察局(U.S. National Reconnaissance Office)の検察官であった時に起きた虚偽請求取締法 (U.S False Claims Act) に反する大規模な不正を思い出している。(現在、彼はアフィリエイテッド・モニターズ・インクで企業倫理およびコンプライアンスプログラムのシニア・ヴァイス・プレジデント兼担当役員である。また、贈収賄、汚職、契約および調達関連不正、その他のACFEのコースで教えている)
 2002年頃、ノースロップ・グラマン (Northrop Grumman) 社は米国の人工衛星の欠陥部品に関する費用精算のために虚偽の請求を行っていた。(参照:「軍事関係の請負企業が内部告発者の訴訟で3億2,500万ドルの和解金の支払いに同意」“Military Contractor Agrees to Pay $325 Million to Settle Whistle-Blower Lawsuit,” by Christopher Drew, April 2, 2009, http://tinyurl.com/qdpo5ry. 虚偽請求不正に係るノースロップ・グラマン社の問題はこれが初めてではない。参照:“Vindication at a high price: An interview with James Holzrichter, recipient of the ACFE’s 2015 Sentinel Award,”Fraud Magazine, July/August 2015, http://tinyurl.com/nfczgzj. 訳注:日本語訳「高くついた真実の証明 ACFE 2015年センティネル(告発者)賞受賞者とのインタビュー」は FRAUDマガジン46号に掲載)
 「ノースロップ・グラマン社のエンジニアは商業用途適合検査の過去の不合格を隠蔽し、米国連邦政府に対して、その不適合は『新たな発見である』と告げていた」とフェルドマンは語っている。
ノースロップ・グラマン社は虚偽請求取締法の下での訴訟で和解するために3億2,500万ドルの支払いに応じた。「しかし実際のところは納税者の被った損害(10億ドル以上と推定される)には程遠い」とフェルドマンは語る。
 ニューヨーク・タイムズ紙の記事によると、この訴訟はある科学者、ロバート・フェロ(Robert Ferro)および連邦当局との共同で提起された。訴訟では「次のように主張された。TWR社は、軍用・秘密情報収集用の人工衛星用の電子部品の欠陥について、軍関連の業者で働いていたフェロが発見したことを公表する行為を阻止しようと企てた。TWR社は後にノースロップ・グラマン社に買収された」と同紙は報道している。
 フェルドマンは「私の事務所は、司法省との合同調査を行った。司法省は、我々が発見した情報に基づく〔クイタム内部通報案件〕に関する訴訟に参加した」と述べている。

電子メールの中の動かぬ証拠(Smoking guns in emails)

 「我々は何千もの企業内書類を召喚し、何百人にも及ぶ社内の従業員、技術者との面談を実施した。更に技術者の間でやり取りされた電子メールの追跡で、『なんと巧妙な嘘八百だろうか。』とか『我々の仕業が政府の知るところになるなら、神よ、哀れみ給え。』などという文言が見つかり「動かぬ証拠」が形成された」と彼は語る。
 フェルドマンは「米国政府は結局のところノースロップ・グラマン社は国家安全保障上あまりにも重要なので損失額全額を請求することはできないと判断した。これは、外の世界、金融業界でのいわゆる『大きすぎて潰せない』案件だった」と述べている。
 「組織の実務レベルでの企業倫理の弱さという文化に由来する問題であり、従業員達は後ろ向きの情報を伝えることを恐れ、報復に怯えていた」のだとフェルドマンは語る。

提言(Recommendations)

 「個人的見解だが、司法省は虚偽請求取締法事案については、刑法事案と同等の取り扱い基準を適用すべきで、そのことで再発防止を合理的に担保するのだ。企業倫理文化と統制強化の企業の継続的な取り組みを確認するために、しばしば、独立的な監視機能が活躍することになる。この事例では、多くの虚偽請求取締法に関する事案と同様で、金銭の支払いによる解決は、防衛関連企業への『生ぬるいお仕置き』であり、彼らにとっては事業のために必要なコストにすぎなかった」とフェルドマンは述べている。

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初出:FRAUDマガジン49号(2016年4月1日発行)

この記事の執筆者

Dick Carozza, CFE
FRAUDマガジンの編集長である。
翻訳協力:張間 善次郎、 CFE

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