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信頼の裏切り 電子購買システムの悩み(その1 全4回)

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 電子入札プロセスを使うことにより、組織でのモノやサービスの調達はコストを節約し、効率性を高めることができる。一方で従業員が雇用主の信頼を裏切る場合に、非常に大きな不正リスクの追加につながる。本稿ではデジタルネットワークと人的ネットワークの中でいかにして不正と闘い、信頼関係の裏切りを克服するのかを論じる。

「利益相反に用心するに越したことはない」
ゲリー・ザック(Gerry Zack)CFE, CPA, CIAの言葉である。彼はACFE理事会の議長であり、ワシントンDCに所在する国際的な会計・コンサルティング会社であるBDO USA LLPの国際フォレンジック部門の取締役である。

 毎日、午後になると、BDOのCOI(conflict of interest : 利益相反)チームは、コンサルタント、不正調査担当者及び監査人に電子メールを送信して、潜在的な新規のクライアントとの契約リストの精査とそれらの企業との利益相反の可能性を報告するように依頼している。 BDOのこのプロセスは、他の多くの専門サービスの企業で行われているのと同様で、新しいクライアントとサービス提供の合意をする前に、利益相反を識別することを目的としている。利益相反は、このような時間をかけた取組みに値するような潜在的なリスクを持っているのだろうか? 後述する3つの事例を検討し、読者の皆様自身で判断していただきたい。

繰り返し発生する問題(A persistent problem)

 メルビン R. ペイズリー(Melvyn R. Paisley)は、元米海軍副長官である。彼は米国の名誉勲章(Medal of Honor)の次位の勲章である米国殊勲従事章(Distinguished Service Cross)を受けており、P-47サンダーボルト(Thunderbolt)のエースパイロットとして第二次世界大戦中に欧州で9つの勝利を収めた。
 しかしながら、その業績を曇らせたのは、彼がレーガン政権の高官であったときにその信頼を裏切ったことだった。動かぬ証拠に直面し、ペイズリーは、民間組織の彼の関係者が数億ドル相当の防衛装備品の契約を獲得するのを不正に援助し、数十万ドルの賄賂を受けていたことを認めた(参照: 「汚職事件の関係者 メルビン・ペイズリー 77歳で死去」“Melvyn Paisley, 77, Figure in Scandal, Dies,” by Christopher Marquis, The New York Times, Dec. 26, 2001, http://tinyurl.com/pln88n5.)。 ペイズリーの4年の禁固刑の有罪判決は、1986年~1989年にかけて行われた米国史上最大の調達不正事件の調査であるFBIのILL wind作戦の中心的な出来事である。他の政府関係者8名、ワシントンのコンサルタントや幹部42名、軍事関係の請負業者7名もまた、適切な入札者以上の不正な優先権と機密情報と交換に金銭を支払ったため、拘置、多額の罰金もしくはその両方の判決を受けた。
 1988年の「調達整合性法(the Procurement Integrity Act)」の成立により、このような職権乱用を抑制するための措置が導入された(参照:http://tinyurl.com/oh5nuvf)。
 しかし、10年以上を経た後も、購買に関する利益相反の蔓延は根絶できていない。1つの典型的なケースでは、オクラホマ州ミッドウェストシティのティンカー空軍基地の購買マネージャーであるジェームス・リー・ローマン(James Lee Loman)が、2002年から2006年の間に航空機部品の悪質な業者からの水増しされた入札に繰り返し便宜を図ることで総額83万8,000ドルのキックバックを得ていた(起訴状についてはこちらを参照:http://tinyurl.com/olqj3vl)。
 ローマンは不正行為を否認したが、陪審員は2014年の初めに彼を有罪とした。高齢と体調不良のため、彼には寛大な措置が認められ、30ヶ月の刑が言い渡された。規制の強化は、調達における汚職を食い止めることはできず、信頼の裏切りを防止し発見するための支援としては十分ではなかった。
 一方、インターネットの爆発的な発展は、効率性を高め、コストを削減するオンラインの調達システムの開発に拍車をかけ、および不正検知と防止の向上が期待された。時が経てば分かる。
 新しい世紀が進むにつれて、世界中の政府や非政府組織(NGO)は、広く謳われたメリットを享受するために、電子調達システムを導入し、大企業がそれに続いた。電子調達システムは、期待通り、以前の紙ベースの調達業務よりも効率的かつ経済的であることが証明された。しかし、厄介な真実が残っている。電子調達の責任を委ねられた者なら誰でも不正をはたらいて、それを隠蔽できる。誰かがそれを試すのはもはや時間の問題だった。
 2014年には、不正実行犯の集団が摘発された。昨年末、以前はボンベイとして知られていたインドの大都市ムンバイで、検察は、ブラマンムンバイ地方公共団体(Brihanmumbai Municipal Corporation, BMC)の20名を超える中間・上級レベルの公務員を不正とコストを減らすために設計された電子調達システムにおける談合入札の容疑で起訴した。この事例は係争中だが、彼らに対して申立てられた容疑によると3億1,800万ドルのキックバックが彼らの手にした利益である。

(その2に続く)
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初出:FRAUDマガジン48号(2016年2月1日発行)

この記事の執筆者

RobertTie, CFE,CFP
ニューヨークのライターであり、FRAUDマガジンの寄稿者。
翻訳協力:山内哲也、CFE、CIA、CISA
※執筆者・翻訳協力者の保有資格等は本記事の初出時のものである。

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2018.08.31 16:25:55