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オクラホマ州ヒールトンの災難 事例が明かす非営利団体不正の高い発生率(その2 全4回)

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方法1:公共料金請求書の不正(Method 1: Utility billing misappropriation)

 これは彼女が市の資金を横領するのに最初に使った手口だった。カルダレフは現金の代わりに小切手を使い、顧客の公共料金の支払いからおよそ4万3,000ドルを騙し取った。(市の主な専有事業は、公共用機構を通じて上下水道のサービスを地域に提供することである)。公共サービスの利用者は、請求書の支払いを市役所で現金で行うか、小切手の郵送によって行った。現金で支払った利用者は領収書を受け取ったが、小切手で支払った利用者は受け取らなかった。
 領収書は事前に番号を打たれていなかったので、領収書番号は順序通りに記録されていなかった。実際には事務所は領収書の記録を全く取っていなかった。カルダレフは領収書が発行された現金の代わりに領収書未発行の小切手を用い、一日の終わりには現金の残高が正しく見えるようにした。この手口により、総額が正しく見えても、集金された現金と小切手と銀行に預けられた現金と小切手の残高総額の割合に差異が生じる。その結果、一日の終わりに現金回収と共に仕訳帳が照合される時は正しく見えるのだ。カルダレフは、仕訳帳の現金収入に小切手を記録しなかった。彼女は、市役所の会計係として、銀行へ預金をし、銀行残高調整の準備をする責任があったので、預金の内訳を隠すことができた。
 もちろん、内部統制を強化し、受領、預金、記録、預金高の照合の責任を一人の人物が行わないようにする必要がある。支払いの承認、資金の分配、銀行取引の調整の責任を、一人の人物が負うべきではない。支払いを回収している職員達はまた、一つの現金引き出しを持つべきではない。支払い回収に当たっている職員がそれぞれ、個別の現金引き出しに責任を持ち、一日の終わりに領収書と現金を付け合せる。明らかに、このような内部統制は、ヒールトンでは実施されていなかった。内部統制システムの基本的な違反は、現金支払いの領収書に連番を打たなかったことである。

方法2:金庫室からの現金の窃盗(Method 2: Stealing of cash from the vault)

 市職員は徴収した収入を金庫に保管する。翌日、市職員が金庫を開け、カルダレフが現金を持ち去る。銀行へ現金を預ける日もあれば、全てを自分の手許で保管する日もある。
 日中、その部署は無施錠の金庫を管理していなかった。金庫は容易に近づくことができ、完全に開放された状態になっていた。そこでカルダレフは、現金3万7,000ドルの窃盗を隠蔽することができた。もちろん、銀行預金は現金収入帳に記録された現金の総額よりも明らかに少ないことが多かった。現金収入帳は、カルダレフが前日の終わりに付け合わせをしていたが、再度付け合わせをすることはかなった。結局のところ、カルダレフが銀行に現金を預金することと、残高の付け合せの準備の両方に責任を持っていたために誰も窃盗を検知することはなかったのである。
 明らかに、最低限の内部統制として、組織の現金は無施錠の金庫ではなくて、施錠ができる安全な場所に保管される必要が求められる。アクセス権は一人に制限されるべきで、非常時のために二人目を指名しておくとよい。個人の小切手は、手元の現金から換金されるべきではない。事務所に多額の現金を保有するのを防ぐために、組織は一定の額に達したら、一日に何度か銀行預金をしなければならない。


(その3に続く)
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初出:FRAUDマガジン48号(2016年2月1日発行)

この記事の執筆者

G. Stevenson Smith, Ph.D., CPA, CMA Ph.D.、CPA、CMA
オクラホマ州デュランにあるサウスイースタン・オクラホマ州立大学のジョン・マッセイ寄付講座教授兼経営学部会計学の教授である。

Theresa Hrncir Ph.D.、CPA
オクラホマ州デュランにあるサウスイースタン・オクラホマ州立大学の経営学部会計学の教授である。
※執筆者の保有資格等は本記事の初出時のものである。

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2018.08.17 09:04:04