HOME コラム一覧 愉快犯による横領 不正のトライアングルは愉悦でのみ盗みをする不正実行者を説明しない(その1 全4回)

愉快犯による横領 不正のトライアングルは愉悦でのみ盗みをする不正実行者を説明しない(その1 全4回)

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DEFRAUDING FOR FUN NOT NEED

FRAUD TRIANGLE DOESN’T EXPLAIN FRAUDSTERS WHO STEAL ONLY FOR ENJOYMENT

本稿の筆者の見解は、ACFE、ACFE理事会や職員の見解と必ずしも一致しない。

 不正検査士は、ドナルド・クレッシー(Donald Cressey)博士の原則を含む、象徴的な不正のトライアングルを何十年もの間使ってきた。しかしクレッシーは、金銭的必要に迫られてはいない人々や、組織に雇用される前から不正に手を染めようと考えている人々の行為を説明するために、彼の理論を必ずしも展開したのではないことを、筆者は強調しておきたい。

 私は20年以上もあらゆるタイプの不正調査に関わってきた。それはホワイトカラー犯罪や、役人の汚職、電信と郵便不正等々である。この間を通じ、私は議論や実演で、この象徴的な不正のトライアングルを数えきれないほど何回も重用して来た。私はこの図が多数の不正を説明するのに適当ではあるが、全ての職業上の不正を説明しているとは限らないことを発見した。このモデルにきちんと当てはまらない、つまり金銭的必要もなく、多くの場合組織に雇用された瞬間から盗みをはたらく当事者が関与する不正事案をいくつも担当してきた。
[このテーマについての別の議論については、次の記事を参照されたい。「経営管理層での不正のトライアングル:偉大な『私』(題名は翻訳者訳)」“The Executive Fraud Triangle: The great ‘I,’ ” a Fraud Magazine “Special to the Web” feature, http://tinyurl.com/mzpxfo6, by Laura Downing, CFE FRAUDマガジン編集部]
 あるケースでは、中西部のある大組織が、自らの地位を悪用して個人的経費の支払請求をした当事者を告発したことを理由に停職処分にした。その組織は、当人に数十万ドルの給与を払いかつ潤沢な経費を認め、それにより彼は2つのカントリークラブの会員となることができ、加えて旅費・交通費とスポーツイベントのチケットの代金も組織持ちだった。
 さらに、その組織は彼に社用車を与えた上に自家用車の使用にも燃料手当を支給していた。彼の妻もその組織で働いており、同様に、数十万ドルの給与と経費が与えられていた。
 この不正を検査する間、当事者は偽の領収証で支払い請求したり、経費を使い尽くすと費用を現金化したりし、そして彼の職責と相反するような個人的ビジネスを営んでいるようだったことを我々は発見した。
 不正のトライアングルの文脈に照らしてみると、トライアングルの2つの要素、即ち機会と正当化は見て取れるが、3番目の経済的必要性は見当たらない。当事者は彼の地位を利用することで不正の機会を持っていた。彼はまた強い特権意識(sense of entitlement)を持ち、不正に通じる自分のやり方を正当化した。しかし、当事者には経済的必要性はみじんもなかった。彼にはそんな行為をする必要は全くなかった。彼は良心の呵責もなく単に盗み続けた。
 この事案により、私はそれまでに遭遇した経済的必要性もないのに当事者が盗みをはたらいた多くの類似した事案を顧みることに思い至った。これらの事案がこの枠組みの例外に見える理由を私が特定できるかどうか見極めるため、私は不正のトライアングルを再検討してみることを決意した。

不正のトライアングルの例外(Fraud Triangle exception)

 不正のトライアングル(ACFE.com/triangle)は犯罪学者ドナルド・クレッシーが1950年代に職業上の不正を理解するための理論として提案して以来、常に不正対策の議論で欠かせない要素であった。この図を多くの人間が、数えきれない会話や講演で用いた。(参照: “Iconic Fraud Triangle endures: Metaphor diagram helps everybody understand fraud,” http://tinyurl.com/qfh4glf, by W. Steve Albrecht, Ph.D., CFE, CPA, CIA(邦訳「『不正のトライアングル』が定着するまで 比喩的な図形が不正への理解を促す」はFRAUDマガジン40号に収録)この記事は、不正のトライアングルの発展過程でのクレッシー、犯罪学者エドウィン・サザランド(Edwin Sutherland)とアルブレヒト(Albrecht)の役割を説いている)
 クレッシーは、不正事案の事実を吟味し、有罪判決を受けた不正行為者とのインタビューを実施した後、3つの要素に気づいて特定した。彼はその持論と見解を著書である“Other People’s Money: A study in the social psychology of embezzlement.” (Montclair: Patterson Smith, 1973)の中で展開した。
 クレッシーは著書の中で、あらゆる職業上の不正事案において3つの要素のそれぞれが現われていると述べている。しかし、これらの要素の存在は、不正が発生していることを匂わすものでも、また必ずしも意味するものでもない。さらなる調査が望まれることを示す単なる兆候に過ぎない。
 一方、あるタイプの従業員はこの理論にぴたりと当てはまらない。彼らは雇用された、つまり組織に属した瞬間から不正を犯すことを企てる。経済的な問題を抱えていない大勢の人々が不正に手を染め有罪となる。ある者は不正に手を出さない道徳心や良心が欠けている。これらの人物は明らかに、必要もないのに犯罪に手を染めるよう彼らを駆り立てる性格上の欠点がある。
 よくあることだが、不正検査士やそれ以外の人々は不正のトライアングルについてのプレゼンテーションで、熟慮を重ねた不正や不正を犯しやすい個人の性向を、このトライアングルの金銭的問題の検討に取り込まれることの多い「貪欲」や「貪欲なふるまい」と説明するだろう。時には、このような不正検査士達は道徳心の欠如を、正当化をもたらす1つの要素として使う。ありがちな理由づけは、道徳的信条が弱まることで容易に不正の正当化を受け入れやすくなるというものだ。
 しかし、私はクレッシーの方法論を検証した後、前もって計画したか、周到な準備をした上での不正、または当事者の不正を犯しやすい性向は、不正のトライアングル理論に盛り込まれた犯罪行為の類型には全くあてはまらないと信じるようになった。

(その2に続く)
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初出:FRAUDマガジン46号(2015年10月1日発行)

この記事の執筆者

Robert L. Kardell, J.D., CFE, CPA, CFF
FBI(Federal Bureau of Investigation)の特別捜査官である。ACFE教育諮問委員会(ACFE Editorial Advisory Committee)のメンバーでもある。

※執筆者の所属等は本記事の初出時のものである。

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