コンピューターが支援する面接調査:現実か愚行か?(その4 全4回)
我々はまた自分に同じように見える人や物に魅了される。なぜなら自分自身の観念が強調されるからである。我々は自分たちに似ているまたは、馴染みのある人に対してより向社会的(訳注:他人を助けることや他人に対して積極的な態度を示すこと)であったり、影響を受けたりする傾向にある。自分の顔よりも身近に感じるものがあるだろうか? フェースジェン(facegen.com)やヘッドショップ(http://tinyurl.com/ms9h79z)のようなソフトウェアパッケージがいくつかあり、他の人の写真からアバターを簡単に作ることができる。
アリゾナ大学では、就職試験の模擬面接で、学生は自分に似ているアバターに好意を持ち、より信頼感を持ったと話した。これは自分に似てないアバターやビデオによる電話会議で話をした実在する面接官と比較した場合である。(参照:「認知的具体化された調査員:人の行動、進行、評価を変えるために具体化された調査員の使用調査(“Persuasive Embodied Agents: Using Embodied Agents to Change People’s Behavior, Beliefs, and Assessments” by Matthew D. Pickard, The University of Arizona, 2012, http://tinyurl.com/lxvqsme.)」)また生徒は「親しみのある」アバターと話した時ほど自分についてより多く言及した。不正検査の面接調査において、容疑者が自分と似ているアバターと話したら、同様の反応を示すことはあり得るだろうか。研究者は不正検査のシナリオでこの現象を具体的に調査する必要がある。
時間節約の技術(Time-saving techniques)
面接調査は不正検査士の仕事の中で極めて重要だが、時間がかかるものである。まとめとしては、アバターの利用には以下のような可能性がある。
・不正検査士は基本的で定型的な面接に時間を費やすことから解放される。
・不正検査のデータ収集の段階で、不正検査士が接触する容疑者のサンプル集団を広げられる。
・インターネットベースで実施することで、不正検査士が遠隔地に出張することなく、素早く目撃者や容疑者と面接することを可能にする。
不正検査士の認知資源を解放することで、容疑者の行為やそれに続く行為に全集中力を注ぐことができるようになる。不正検査を先に進めて行く前に、録音・録画された面接調査を精査することができれば、不正検査士は、より多くの情報に基づく戦略を計画することができる。
不正検査士への影響(Implications for fraud examiners)
我々は、アバターによる自動化された面接調査のいくつかの利点と可能性を明らかにしようと試みてきた。しかし、アバターの使用については多くの問題が伴う。何よりもまず、本稿ではアバターによる面接調査で収集されたデータの法律上、法医学上の側面について述べていない。本稿で提案された革新的なアイディアを導入しようとする不正検査士は、実施する前に、弁護士に相談することを推奨する。
また、目撃者や容疑者がアバターに心を開くことがあったとしても、それがどのような環境で起こるかも不明確だ。本稿の筆者もその他の研究者もまだ調査の途上にある。アバターの特徴(例:性別、民族、声、外見、個性)と容疑者の性格(例:外交的か内向的)や事情(例:気分、動機、信条)の組合せは無限にあるので、これはかなり複雑な分野である。
我々は、不正検査士は多くの理由によりアバターによる面接の技術を導入するのに慎重なのではないかと推察している。彼らはアバターを信用していないかもしれないし、使い方が分からないかもしれない。不正検査士は、技術に頼りすぎて、自分でじっくりと考えなくなるかもしれない。繰り返しになるが、我々はアバターによる面接の技術が、人間による面接調査に完全に取って代わるとは考えていないことを強調したい。人間が常に考えをコントロールする必要がある。
最後に、技術によってアバターを作るのは容易になったとはいえ、アバターをカスタマイズしたり、動かしたりするためにはかなり険しい学習曲線が待ち受けている。3Dモデリングやアニメーションは素人にできるようなものではない。企業は、アバターによる面接システムを導入し、維持するプロセスは複雑で初期費用がかかることに気づく可能性が高い。
この分野の研究は始まったばかりである。不正検査士はどのように事前の面接調査を利用できるだろうか。不正検査士はアバターにどのような質問をして欲しいと望むだろうか。基準との対比のプロセスで不正検査士の役に立つのはどのような質問だろうか。アバターによって有益な証拠を集めるためには他にどのような問題点に注意しておく必要があるだろうか。研究者が実験に基づく研究を進めるうちに、この技術の利点がもしあるのなら、不正検査の面接調査の過程でよりはっきりと見えてくるだろう。
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初出:FRAUDマガジン46号(2015年10月1日発行)