神の恵みは我のもの なぜ、礼拝所は不正行為の犠牲者になるのか(その1 全4回)
God’s money is now my money Why houses of worship are victims of fraud
礼拝所は不正とは無縁の天国であるというのは本当だろうか? そんなことはない。
本稿において著者は、教会がそこで働く人々の誤った考えにより不正に殊の外脆弱な状態に陥った経緯と、不正実行者の攻撃を防止・抑止するために信者は何をすべきかを論じている。
電話が鳴り、ある牧師が私に言った。彼が率いる教会の教会建設基金 18万ドルの残高がゼロになっているというのだ。「教会の献金の額が予算に達しなかったのではないですか?」と私が尋ねると、「それは大丈夫です。献金は予算に達しているはずです」と彼は答えた。長く務めたボランティアの会計係が退任し、教会の新メンバーがそれを引き継ぐことになった。後任者が決まり、牧師は安堵し喜んだ。しかし、その数カ月後、建設基金は減少し始めた。新任の会計係は「教会活動の運営資金が足りないので、建設基金を取り崩す必要があるのです」と言った。
私の調査で明らかになったのは、実に簡単なスキームだった。新しい会計係は、建築基金から小切手を振り出し、州外のあるLLC(有限責任会社)に振り込んでいた。小切手の受取人のLLCは架空の建設会社で、彼女はインターネットバンキングで、他の地元銀行の自分の口座にお金を移していた。新しい会計係にギャンブル癖があるのは明白だった。しかし、彼女が以前所属していた教会に身元照会を行っていなかった。実は、彼女は以前の教会でも同様の手口で不正をはたらいていたのだが、その教会は困惑して、起訴しなかったのである。
教会における不正対策教育や不正防止策の実施は、私が23年間牧師として勤めてきた中で常に最優先課題の一つである。これまでの間、小規模な2万5,000ドルの慈善基金詐欺から、大きいものでは150万ドル規模の教団が経営するクレジット・ユニオン(信用組合)の不正調査を行ってきた。宗教団体の人を欺く人はいないと信じている人は多い。しかし、不正調査士はどのような組織も不正の被害者になる可能性があることを知っている。特に、教会、シナゴーグ(訳注:ユダヤ教の礼拝所)、モスク(訳注:イスラム教の礼拝所)等では、「信じている」という言葉が基本的な内部統制の代わりになっているため、不正に対して脆弱である。また、不正をどのように予防するか、或いは、財産の損失を発見した時どのように対処すべきか、何も知らない礼拝所がほとんどだ。
礼拝所を狙う犯罪者は色々な手口を使う。2万5,000ドル規模の少額の慈善基金の事例では、教会の会計係が盗んだお金を自分の借金返済に充てたり、家族に与えたりしていた。
教団が保有するクレジット・ユニオン(Denominational credit union)の事例では、 マネージャーが偽りの担保付不動産を通じ、組合員口座から金を引き出した。 これは非常に高度なスキームで、彼女は組合員の口座から預金を引き出し、クレジット・ユニオンから組合員への貸付金として処理し、現金化していた。このマネージャーは、組合員口座の資金の全てを、他の郡にある自分の銀行口座に移した。
彼女は、役員会の信用調査委員会での自分の立場を守ろうと、周辺の郡で不動産の信託証書(deeds of trust)を登録し、自分の借入金は不動産によって担保されていることを証明した。しかし、それらの不動産は既に他の金融機関の担保が設定されているか、新たな借入が出来ないかのいずれかであった。
仕入先、給与事務代行会社、保険会社等、外部の者が教会に対して不正をはたらいた事例を見たことがある。しかしながら、実際にはほとんどの不正は、牧師、勤続年数の長い職員やボランティア等でアッシャー(訳注:案内係、世話係)や会計係をやっており信頼の厚い内部の人間によって行われているのが実情だ。彼らはお金に関して全権を握っている。このような不正は信徒に衝撃を与える。教会の役員会は、地区の検察に相談するのも、身元保証保険(employee dishonesty bond)に登録するのも気が進まない。マスコミで報道されれば内部統制や監視体制が存在しなかったと外部に思われてしまうのでそれも嫌だ。信徒やそのリーダーは教会の権威に対して不信感を持つだろうし、当然のことながら寄付や献金も減ってしまう。
(その2に続く)
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初出:FRAUDマガジン46号(2015年10月1日発行)