均衡を揺るがす 有罪・無実の偏見をもつことなかれ (その2 全4回)
上司は数日後トンプソンとの二度目の会議を開き彼女を解雇した。サービスラインは、翌日警察に事件を告訴した。
警察への告発内容には、社内会計士の報告書、トンプソンとの会議の記録、(サービスラインの立場から見た)問題についての評価の他、入所者の資金の管理に関する社内マニュアルおよび手続書類が含まれていた。
警察がトンプソンに接触し事情聴取するまでに6ヵ月かかった。並行して会社は社内会計士に調査の対象を拡大するように指示した。会計士は、さらに多くの記録上の不一致を発見した。
刑事捜査部門の刑事は、1時間ほどのビデオ聴取を行った。トンプソンは、入所者の財産の不正流用を繰り返し否認した。トンプソンは、記録を取ることについては不得手であり、全ての購買に関する領収証を順番に整理しておくのも困難だったと述べ、事務室の引き出しに入れっぱなしにしておくこともしばしばあり、後で信託小切手帳と一致するかどうか照合しようとしていたが、業務が忙しくやりきることができなかったとも供述した。
トンプソンは、問題の分野について自身が目標達成できないことについて上長に相談し、管理職会議においても話をしたと刑事に供述した。にもかかわらず、経営陣は、彼女に対して追加的な研修や支援策の措置を講じなかった。事情聴取が終わる直前、刑事は1,600ドルの旅費の問題について意見を交わした。
トンプソンは、刑事が間違いを犯しているに違いないと異議を申し立てた。刑事が指し示した入所者は旅行したことがなかったからである。刑事は、間違っていないと主張した。トンプソンは、何らかの問題が生じ、被害を受けた入所者の信託財産が誤って引き出されたのかもしれないので、彼が旅行に行った入所者の口座を確認すれば、誰かが他の入所者よりも1,600ドル少ない旅費を払っていることが明らかになるはずだと主張した。刑事は、信託口座を調査してみると回答した。
事情聴取を終えると、刑事はトンプソンの身柄を正式に拘束し、逮捕手続きを取った後、処分保留のまま保釈した。
ニュージーランド警察は、「事件要旨」を準備し、裁判所に問題の行為が1961年犯罪法(ニュージーランドにおける犯罪のほとんどがこの法律に定められている)のどの条文に違反しているか、財産上の損害、それに対する予想される制裁について情報提供した。要するに、事件要旨は、警察が収集した証拠に基づいてその事件を立件するための状況が描かれていたのである。
以下がトンプソンの事件における嫌疑である。
・ 総額15,000ドルに上る信託口座からの支出に領収証やその他の証拠が存在しなかった。
・ 彼女は、全ての取引を決済し、全ての小切手を現金化あるいは協同署名した。
・ 彼女は、サービスラインの現金取扱方針を順守してこなかった。
・ トンプソンは、5年の期間に渡る確認不能な取引金額や件数について、その理由を合理的に少額かその他の理由があるなどの、満足できるだけの合理的な説明をしなかった。
金額が小さく、犯罪行為は長期に渡って発生していたものの、被害者は社会的に最も脆弱な者たちである。サービスラインと警察は、容疑には刑事告発が当然であり、容疑者は公共の非難に服せしめることが相当と確信していた。並行してサービスラインは、信託口座に差額を返還した。
トンプソンは、彼女の弁護人であるノーレスに対し、自身が無実である事、そして、入所者の信託財産や入所者の財産についても流用したことはないと弁明した。
ノーレスは、トンプソンに実務上の視点から、もし彼女がサービスラインに対して被害額を弁償すれば、起訴されても罰金か最も厳しくても短期間の社会奉仕になる見通しになるだろうと説明した。また、刑事裁判の結審まで弁護するとしたら、その場合の費用は弁償する金額を超える事になるだろうとも伝えた。トンプソンは、弁償する選択を拒否し、改めて無実であることを主張した。しかしながら、サービスラインのスタッフおよび社内調査人による宣誓供述を含む申立てと証拠は、大がかりな容疑を裏付けるものとなっていたのだ。
(その3に続く)
---------------------------------------
初出:FRAUDマガジン45号(2015年8月1日発行)