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コンピューターが支援する面接調査:現実か愚行か?(その2 全4回)

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 次のシナリオを考えてみて欲しい。ある容疑者が勤務先で在庫品を持ち出したかもしれない。損失防止の専門家である不正検査士が、容疑者に不正検査士との面接の前に「コンピューターを介して」一般的な背景情報を集めると伝える。
 容疑者は部屋に入り、コンピューターだけが置かれた机の前に座る。不正検査士は隣の部屋で監視しており、容疑者の反応をビデオ録画するためにコンピューターを操作している。コンピューター画面に人間のような顔が現れて容疑者に説明をする。アバターが不正検査士の言葉を容疑者に繰り返し、アバターとのミーティングの目的は基本情報を収集するためだと伝える。
 そしてアバターが一連の質問をする。(アバターはその事件に関係する全ての容疑者に同じ質問をする)。一回当たり10分から15分のアバターとのミーティングで、不正検査士は容疑者のプロファイルを作成し始める。不正検査士はアバターが質問をしている時の身振りの変化を確認する。不正検査士はノートを取る必要がない。なぜなら何度もこの面接調査を見ることができるからだ。不正検査士が後に直接容疑者に面接調査をする時には、アバターとの面接のときと、容疑者の行為を比較することができる。
 我々の見解では、アバターによる面接は、面接官が基準との対比を行う際の助けとなり、「実際」の面接調査を開始する時に面接官が使える豊富な情報を提供することもできる。面接を開始する時点の一連の質問は、どの聞き取り調査でも類似する傾向にあるため、自動システムは、定型的な情報を集めるのに優れているかもしれない。

アバターによる面接には不安が少ない?(Less apprehension in avatar-based interviews?)

 何かの障壁が、容疑者が面接調査の中で重要な情報を進んで開示することを妨げることがある。よって、容疑者が安心できるようにすることが重要である。容疑者は、長期のまたは直近の評判を懸念しているかもしれない。古臭く聞こえるかもしれないが、人々は往々にして情報を暴露したり隠蔽したりすることで社会情勢の中の自分の評判を管理している。評判を気にする必要がないと感じた時、人は率直に話すことが多い。(参照:「なぜ極めて個人的な情報を漏洩するのか?密接な関係における自己開示の賛否両論の特性(“Why Does Someone Reveal Highly Personal Information? Attributions for and against Self-Disclosure in Close Relationships” Valerian J. Derlega, Barbara A. Winstead, Alicia Mathews, Abby L. Braitman, April 18, 2008, http://tinyurl.com/qb32a6k.)」
 アバターが有利なのは次のような時である。
 コンピューター制御か人間による操作かに関わらず、アバターの持つ仮想という性質は、一種の距離感を感じさせ、人の抑制を取り除く。対面式の聞き取り調査に比べてアバターは存在力を弱めることができるだろう。アバターがコンピューター制御されている場合、面接を受ける側は、コンピューターに道徳的、社会的な判断はできないと明らかに気づいている。また、仮想インターフェースは、否定的な言語的フィードバックや、(面接官の顔に瞬間的に現れる嫌悪や非難など)非言語的なフィードバックを直接受けることから被面接者を守ることになる社会的距離感を提供することができる。
 情緒的に自制心の高い容疑者でさえもたまに感情を覗かせることがある。面接官が見せるちょっとした非言語的フィードバックが面接調査に弊害をもたらすことがある。そこで、羞恥心、罪悪感、恐怖感を容疑者が背負っているときに、彼らの告白を聞いている人物は別の部屋に隠れていると知れば、安心することができるのだ。
 アバターは、面接を受ける側に、実在の人物に伝えるほど恥ずかしい思いをせずに胸の内を打ち明ける機会を与えるかもしれない。不正検査士が単純に遠隔地から面接調査をしたいと思ったら、人間未満のアバターが面接官になることもできる。すると容疑者の評価に伴う不安は同様に減少されることになる。
 たとえ自白や機密情報の開示を必要としない状況であっても、容疑者からより高い品質の情報を引き出すことができるのでアバターはその点でもまた有益と言えるかもしれない。仮想の採用面接が典型的な例となるだろう。オンラインの就職フェアや面接は従来のものに取って代わることはないが、雇用主が、堅苦しさのない状況で候補者と連絡を取り、知り合うことができるようになった。(参照:「マーケティングと消費者行動:コンセプト、方法論、ツール、アプリケーション(“Marketing and Consumer Behavior: Concepts, Methodologies, Tools, and Applications” Information Resources Management Association (USA), December 2014, page 881 at http://tinyurl.com/payrwwf.) 」)。 応募者は、対面式の面接よりもオンライン環境の方がより率直で参考になる答えをするかもしれない。つまり、バーチャルな採用面接は候補者を絞るのに有効な手段になるだろう。

(その3に続く)
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初出:FRAUDマガジン46号(2015年10月1日発行)

この記事の執筆者

Richard G. Brody, Ph.D., CFE
ACFE名誉理事であり、ニューメキシコ州アルバカーキにあるニューメキシコ大学の会計学のダグラス・ミンジ・ブラウン教授(Douglas Minge Brown professor)である。

Matthew D. Pickard, Ph.D.,
ニューメキシコ州アルバカーキにあるニューメキシコ大学の会計学の准教授である。

Joseph J. Agins, CFE
アリゾナ州メサのアポロ・エデュケーション・グループ(Apollo Education Group, Inc.)の倫理・コンプライアンス調査ディレクターである。ACFEの理事会のメンバーである。

※執筆者の所属等は本記事の初出時のものである。

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2018.07.05 18:24:33