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コンピューターが支援する面接調査:現実か愚行か?(その3 全4回)

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 より享楽的な状況では、「セカンド・ライフ(Second Life)」などの仮想世界や、「ワールド・オブ・ウォークラフト(World of Warcraft)」などの多人数同時参加型ゲームに楽しみを見出している参加者の多くは、自分は人付き合いが苦手だと思っているかもしれない。しかし、彼らは「より安全な」仮想環境で、社会的交流の必要性を満たすことができているのである。(参照:「バーチャル・セラピストがあなたを診察するようになる(“The virtual therapist will see you now,” by Samantha Murphy, SunSentinel, Nov. 9, 2010, at http://tinyurl.com/n66evk6.)
 視野を広げて考えてみよう。リスクや罪悪感が(告白、尋問、監査などの)社会的問題の一部である対面式の状況では、面接を受ける側は社交下手な傾向にあるかもしれない。このような時、アバターであれば、社会的不適応や認識されたリスク、面接調査に対する不安をいくらか減少させることができるかもしれない。

アバターとのラポールの形成(Building rapport with avatars)

 疑う余地なく、面接調査の成功は、目撃者や容疑者と十分なラポールを形成できる不正検査士の能力に大きく依存する。面接の中でラポールを築くことで、不安を和らげ、容疑者はより打ち解けて自由に話をすることができる。アバターはラポールという感覚を形成することができるだろうか。この分野ではまだ多くの研究が必要だが、容疑者がコンピューターに制御されたアバターが自分とラポールを形成しようとする試みを受け入れ、対応する用意がある可能性を示す証拠が存在する。
 あなたを引きつける話をする人の行動や表情、身のこなしや話し方などを真似している自分に気が付いたことがあるだろうか。研究者はこれを「カメレオン効果(訳注:話している最中に相手の身振りを真似ると、誠実な印象や好感を相手に与えられる)」と呼ぶ。人間は、生まれた時から、自分が観察している人の行動を真似する傾向にある。会話の最中に他人が自分を真似していると気が付くことはほとんどないが、実証研究によれば、模倣は模倣者の好ましさと説得力を増すことが示されている。(参照:「カメレオン効果:認知-行動リンクと社会的相互作用(“The Chameleon Effect: The Perception-Behavior Link and Social Interaction” by Tanya L. Chartrand and John A Bargh, 1999, 76(6), 893–910, http://tinyurl.com/q6cxvv4.)」
 アバターがあなたの動きを再現しているのを想像して欲しい。あなたが頭を左に動かすと、数秒後にアバターが頭を同じ方向に僅かに傾ける。あなたが話をする時、話している言葉のリズムに合わせて頭や手が小さく動く。アバターが同じ動きを微妙に真似する。あなたはアバターの模倣に気づかないが、これによりアバターの好感度や説得的影響力は増大している。研究者はまさにこれができるアバターを作ってしまった。(参照:「バーチャル・ピースメーカー:仮想の外部集団のメンバーとの模擬接触で模倣が共感を増大させる(“Virtual Peacemakers: Mimicry Increases Empathy in Simulated Contact with Virtual Outgroup Members” by B.S. Hasler, G. Hirschberger, T. Shani-Sherman, D.A. Friedman, Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, Dec. 2014, http://tinyurl.com/lcvtcod.)」
 相手が話している時に適切なタイミングで非言語的な合図を伝えることができるアバターは、話し手がより長く話をするのを助けるかもしれない。今度誰かの話を聞く時に、自分自身の行動を観察してみて欲しい。聞いていることを相手に示すためにプログラム的な行動を取るだろうか。話し手に話を続けてもらったり、あなたが聞いていることを信じてもらったりするためにあなたが送る非言語的な合図を促すのは何なのだろうか。会話の中の小休止だろうか?顔の表情だろうか?声の速さの変化だろうか? 時折、好意的にうなずき、笑顔を見せるように促す社会的に稼働する体内時計を持っているのだろうか?あなたが真剣に聞いている時と、話を終わりにして欲しいと願っている時を比較するとあなたの行為はどのように異なるのだろうか?
 自分を観察してみると、あなたの聞く姿勢は実際にはかなり自動的でプログラム的であることを発見するだろう。また、聞くという「行為」のきっかけは、かなり容易に説明ができるものだと気がつくだろう。技術の進歩により、あなたが検知するのと全く同じ合図を感じ取り、それに反応できるコンピューターの能力は高まる一方である。最近ではマイクによってコンピューターが声の音域の変化や会話の中の沈黙を検知することができる。カメラによって、コンピューターは表情や手の動きを追うことができる。だから、あなたが数分沈黙した時、「そうですか。話を続けてください」と言うアバターと話をしていることを想像して欲しい。または、あなたが話したことを認識して時折相槌を打つアバターはどうだろう。あなたは話を続けようと思うだろうか。

(その4に続く)
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初出:FRAUDマガジン46号(2015年10月1日発行)

この記事の執筆者

Richard G. Brody, Ph.D., CFE
ACFE名誉理事であり、ニューメキシコ州アルバカーキにあるニューメキシコ大学の会計学のダグラス・ミンジ・ブラウン教授(Douglas Minge Brown professor)である。

Matthew D. Pickard, Ph.D.,
ニューメキシコ州アルバカーキにあるニューメキシコ大学の会計学の准教授である。

Joseph J. Agins, CFE
アリゾナ州メサのアポロ・エデュケーション・グループ(Apollo Education Group, Inc.)の倫理・コンプライアンス調査ディレクターである。ACFEの理事会のメンバーである。

※執筆者の所属等は本記事の初出時のものである。

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