HOME コラム一覧 オクラホマ州ヒールトンの災難 事例が明かす非営利団体不正の高い発生率(その1 全4回)

オクラホマ州ヒールトンの災難 事例が明かす非営利団体不正の高い発生率(その1 全4回)

post_visual

 ヒールトンで重宝されていた出納係が、無関心な市議会と市政代行官を欺き、三つの異なった手口を用いて少なくとも8万ドルを市から騙し取った。彼女の実話は、小規模非営利団体が不正犯罪者に特に影響されやすいことを示している。

 地区の陪席裁判官リー・カード(Lee Card)はカレン・カルダレフ(Karen Kardaleff)に何をしたのかと尋ねた。「金銭を取りました」と彼女は答えた。「どうして見つかったのですか?」「監査で」。裁判官は彼女になぜ犯行に至ったかを尋ねた。「簡単にできたからです」と彼女が答えた。「特に大きな買い物はしていません」。彼女は、盗んだおよそ8万ドルは請求書の支払いに使ったり、友達にあげたりしたと話した。カードは、オクラホマ州ヒールトンの元会計係に禁固一年の刑と、全額を市に返済することを命じた。(参照:「元ヒールトン市職員横領の罪を認める」 “Former Healdton city clerk pleads guilty to embezzlement,” by Michael Pineda, The Daily Ardmoreite, May 29, 2014, http://tinyurl.com/odds8ut)
 統制の欠如と無関心な市議会と市政代行官は、ヒールトンに財源の横領を制限なく許してしまった。

無防備な非営利組織(Vulnerable nonprofits)

 非営利組織の損失が蔓延している。ワシントンポストによれば、米国の非営利団体1,000社は、2008年から2012年の間に25万ドル以上の損失を記録した。(参照:「国内非営利団体に潜む窃盗、詐欺、架空購入の裏側」(Inside the hidden world of thefts, scams and phantom purchases at the nation’s nonprofits” by Joe Stephens and Mart Pat Flaherty, Oct. 26, 2013, The Washington Post, http://tinyurl.com/lp6qmp7) ワシントンポストのウェブサイトは、内国歳入庁(IRS)の文書データを掲載し、組織名別の非営利団体の損失額も示している。参照:http://tinyurl.com/klocdnj)
 CBウェルス・アドバイザリー社(CB Wealth Advisory)の報告書によると、慈善事業団体の20%で不正が発覚している(参照:http://tinyurl.com/klocdnj)。「ACFE 2014年度版 職業上の不正と濫用に関する国民への報告書」(2014 Report to the Nations on Occupational Fraud and Abuse、以下「国民への報告書」)は、非営利団体が分析の対象となった不正事例の10.8%を占め、これらの団体の損失額中央値は10万8,000ドルだと述べている。(参照:ACFE.com/rttn)
 もちろん、それらの損失は、小規模団体には重大である。国民への報告書によれば、不正の主な形態は、請求書不正、不正な経費精算、小切手の改ざんだとされている。不正行為を招く組織的脆弱性の主な要因は、内部統制と経営管理の欠如である。独立した監査役はこれらの不正スキームのほとんどを検知しない。国民への報告書は、偶然発見される不正が7%あるのに対して、監査役が検知する不正は3%しかないと報告する。偶然が監査に勝るのである。

「信頼された」出納係に詐取された小さな町 (Trusted’ treasurer rips off small city)

 さて、冒頭で取り上げた我々の事例に戻ろう。ヒールトンは、オクラホマ州南中央部にある人口約3,000人の小さな町で、おそらく「ゴールデン・ガールズ」というテレビ・コメディに登場する女優ルー・マクラナハンの出身地として最もよく知られている。
 2012年、オクラホマ州監査事務所は、カルダレフの不正の程度を特定する調査報告書を発行した。(参照:「ヒールトン市調査報告書 自2009年7月1日、至2012年6月30日」 “Investigative Report, City of Healdton, July 1, 2009 through June 30, 2012,” Oklahoma State Auditor & Inspector, Jan. 22, 2014, http://tinyurl.com/p2ofabq.)。州の監査事務所の捜査官は、おそらく市が彼女を雇用した2000年10月から市の財務手続きが問われた2010年までの間、彼女は不正を実行していたのだろうと推定した。
 不正実行者は罪を犯す際に三つの異なる方法を取ることはほとんどないが、カルダレフは違った。彼女が横領した推定8万ドルは、2011年に市が手に入れた現金の7.5%近くにも及んだ。その上会計帳簿は全く整理されておらず、彼女が実際に横領した額を捜査官は特定できなかった。(参照:「市の監査役、ヒールトンの公共料金請求書から数千ドルが紛失していることを見つける」“State Audit Finds Thousands of Dollars Missing from Healdton Utility Billings,”Helen Headlee, News12、KXII, Jan. 23, 2014, http://tinyurl.com/pbv7msg)
それでは彼女が不正を実行するにあたって用いた三つの方法について論じることにしよう。

(その2に続く)
---------------------------------------
初出:FRAUDマガジン48号(2016年2月1日発行)

この記事の執筆者

G. Stevenson Smith, Ph.D., CPA, CMA Ph.D.、CPA、CMA
オクラホマ州デュランにあるサウスイースタン・オクラホマ州立大学のジョン・マッセイ寄付講座教授兼経営学部会計学の教授である。
Theresa Hrncir Ph.D.、CPA
オクラホマ州デュランにあるサウスイースタン・オクラホマ州立大学の経営学部会計学の教授である。
※執筆者の保有資格等は本記事の初出時のものである。

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

企業の不正リスク対策

記事の一覧を見る

関連リンク

不正リスク(バックナンバー一覧)

コンピューターが支援する面接調査:現実か愚行か?(その1 全4回)

愉快犯による横領 不正のトライアングルは愉悦でのみ盗みをする不正実行者を説明しない(その1 全4回)

禁輸国への迂回輸出の防止 輸出規制・経済制裁違反の回避(その1 全4回)

禁輸国への迂回輸出の防止 輸出規制・経済制裁違反の回避(その2 全4回)

禁輸国への迂回輸出の防止 輸出規制・経済制裁違反の回避(その3 全4回)

禁輸国への迂回輸出の防止 輸出規制・経済制裁違反の回避(その4 全4回)

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2018/img/thumbnail/img_24_s.jpg
 ヒールトンで重宝されていた出納係が、無関心な市議会と市政代行官を欺き、三つの異なった手口を用いて少なくとも8万ドルを市から騙し取った。彼女の実話は、小規模非営利団体が不正犯罪者に特に影響されやすいことを示している。 地区の陪席裁判官リー・カード(Lee Card)はカレン・カルダレフ(Karen Kardaleff)に何をしたのかと尋ねた。「金銭を取りました」と彼女は答えた。「どうして見つかったのですか?」「監査で」。裁判官は彼女になぜ犯行に至ったかを尋ねた。「簡単にできたからです」と彼女が答えた。「特に大きな買い物はしていません」。彼女は、盗んだおよそ8万ドルは請求書の支払いに使ったり、友達にあげたりしたと話した。カードは、オクラホマ州ヒールトンの元会計係に禁固一年の刑と、全額を市に返済することを命じた。(参照:「元ヒールトン市職員横領の罪を認める」 “Former Healdton city clerk pleads guilty to embezzlement,” by Michael Pineda, The Daily Ardmoreite, May 29, 2014, http://tinyurl.com/odds8ut) 統制の欠如と無関心な市議会と市政代行官は、ヒールトンに財源の横領を制限なく許してしまった。
2018.08.03 16:48:53