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禁輸国への迂回輸出の防止 輸出規制・経済制裁違反の回避(その3 全4回)

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 この迂回は、OFACの規則に違反し、また、米国輸出規制法に違反している可能性がある。何故なら、当該機器の部品の原産国は米国であり、利益相反を意味する行動を禁止している米国企業の行動規則に違反しているからである。言い換えると、前任のシンガポール事務所長は、明らかに、供給業者と共謀して、チーフエンジニアに、禁止され制裁を受けている国で操業している顧客を支援するために供給業者との役務提供契約を引き受けさせることで、売り上げを維持しようと企んだのである。
 調査終了後、GlobalRentzは、前任のシンガポール事務所長と上級技術者を、米国法(米国から支配する子会社にも適用される)に違反したこと、および、利益相反行為を報告しなかったことを理由に、解雇した。社外弁護士は、米国政府に向けての会社の自主的な開示の一つとして、有責者に対する懲戒処分をはっきり行うとともに、再発防止策を示すべきであると助言した。
 私の指揮の下、GlobalRentzは、経済制裁対象国で操業するリスクのある顧客を監視するよう、従業員に対し注意を促す業務マニュアルを作成した。また、今では、従業員は、顧客が経済制裁対象国で操業しようと企てていることが分かった場合には、レンタルした機器を顧客から返還請求することにしている。

事例研究に見る落とし穴(Traps Illustrated in These Case Studies)

 落とし穴は、悪徳な外国の仲介者による虚偽の表明、外国に本拠を置く従業員による業績を上げるための過剰な顧客サービス活動、そして、自分を超法規的存在であると信じ込み、自らに課せられた禁止命令をすり抜けて会社の資産を不正に移転する(キャリントンのような)元上院議員によってすら、作られる。企業は、脆弱性のリスク評価を行い、危ういポジションにある全ての従業員を訓練する必要があることは明白である。

不正な迂回を防ぐベストプラクティス(BEST PRACTICES FOR AVOIDING FRAUDULENT DIVERSIONS)

 幸いなことにBISは、政府が不正な迂回輸出を避けるためのベストプラクティスの土台となる要素と考えている原則を明らかにしている(参照:http://tinyurl.com/olrjy8t)。
 以下に、BISの原則の文章(原文)と、私のコメントを示す。

ベストプラクティス その1

 企業はBISウェブサイト掲載の危険信号指標に最大の関心を払い、危険信号を全ての部署、支店などに知らせるべきである。特に、輸出者が買主の注文の情報提供を拒んだり、運送取扱業者が二重用途物品輸出業務の提供ではないと主張したりする場合には要注意である。

===筆者のコメント===
15 CFR Part 732, Supp. 3 は、不正な迂回輸出が疑われる危険信号を列挙している。以下が主要な危険信号である。
1. 顧客や購入代理店が商品の最終使用目的についての情報を提供したがらない。
2. 商品の性能が買主の事業内容に適合しない。例えば、小さな製パン所が高性能のレーザーを数台発注するような場合である。
3. 注文された製品が輸送される先の国の技術水準と釣り合わない。例えば、エレクトロニクス産業がない国では、半導体製造機械はほとんど使われない。
4. 顧客の事業経歴がほとんど無いか皆無である。
5. 販売条件が融資を必要とするような非常に高価な品目に対し、顧客が進んで現金払いする。
6. 顧客が、製品の性能特性をよく知らないのに、それでも当該製品を望んでいる。
7. 通常の設置、トレーニングまたはメンテナンスサービスを顧客が断っている。
8. 受渡期日が曖昧であるか、配送が辺鄙な仕向先に予定されている。
9. 製品の最終仕向先として運送会社が記載されている。
10. 輸送ルートが、製品または仕向先から見て異常である。
11. 梱包が、指定された船積み方法または仕向地と調和していない。
12. 質問されたとき、購入製品が国内使用されるのか、輸出されるのか、再輸出されるのかについて、買主が言い逃れをするか、またははっきり言わない。
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ベストプラクティス その2

 輸出者や再輸出者は、適正な輸出管理業務ができ、積み替えのベストプラクティスを含むコンプライアンス・プログラムを備えた運送補助者や運送取扱業者だけを利用するよう心掛けるべきである。

===筆者のコメント===
その為には自社の運送取扱店に対するデューディリジェンスをしっかり行うことが必要である。
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(その4に続く)
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初出:FRAUDマガジン47号(2015年12月1日発行)

この記事の執筆者

Robert J. Ward Jr., Esq., CFE, CUSECO
ヒューレット・パッカードの全世界通関・輸出管理コンプライアンス部長(global customs and export controls compliance manager )であり、米国公認輸出管理責任者(Certified U.S. Export Compliance Officer)である。
翻訳協力者:鈴木幸弘、CFE、CIA
※執筆者・翻訳協力者の所属等は本記事の初出時のものである。

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2018.07.06 10:07:30