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禁輸国への迂回輸出の防止 輸出規制・経済制裁違反の回避(その2 全4回)

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 さらに米国は他の多くの国、特別指定国、及び、取引禁止企業・組織に対して一定の経済制裁を課している(参照:http://tinyurl.com/o9uhv2g)。企業は、当然のことながら、これらを含めブラックリストに載った企業・組織と取引を行わないようにしなければならない。
 一方、米国商務省産業安全保障局(U.S. Department of Commerce’s Bureau of Industry)は輸出規制や禁輸を実施している(参照:連邦規則集15巻 15 CFR Parts 744 and 746, http://tinyurl.com/o9uhv2g)。これらの規制には、原子力、生物・化学兵器、およびミサイル発射システムの拡散国家である最終使用者に対するものが含まれる(参照:15 CFR Part 744)。法は、全ての輸出関連書類に、少なくとも、「これらの商品、技術、ないし、ソフトウエアは米国から輸出管理規則(Export Administration Regulations, EAR)に従って輸出された。米国法に反する迂回は禁じられている。」[参照:15 CFR §758.6(a)]と記した最終仕向地規制文書が含まれていなければならないと規定している。
 EARに従い、政府は違反行為ごとに100万ドル以下の刑事上の罰金と20年以下の懲役刑を科すことができ、一方、行政上の罰金は違反行為ごとに25万ドルまたは違反取引額の2倍のどちらか大きい額までとされる(参照:http://tinyurl.com/p3b7w3g)。
 OFACによる経済制裁に対する故意の違反の場合は、刑罰は2,000万ドル以下の罰金と30年以下の懲役である。また、米国の対敵国通商法(Trading with the Enemy Act)は、違反行為ごとに65,000ドルまでの範囲となる。他方、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act)の違反の民事罰は違反行為ごとに25万ドルまたは違反取引額の2倍以下の範囲となる(参照:http://tinyurl.com/ooysbzs)。

企業による違反のさらなる事例研究(More Case Studies of Company Failures) Computerlinks FZCO

 アラブ首長国連邦のComputerlinks FZCOは、独Computerlinks AGの子会社で、Blue Coat Systems Inc. (USA)が製造するインターネット情報のモニタリング及び制御のためのデバイスをシリアに移送したことによりEARに3回違反した。Computerlinksは、当時、カルフォルニア州サニーベールにあるBlue Coatの認定販売店であったが、約140万ドル相当の機器を発注した。当該機器は、米国政府が国家安全や反テロリズムの観点から、また、EARに定める暗号化アイテムとして、規制の対象とされているものである。
 Computerlinksは米国の製造者かつ輸出者であるBlue Coatに対し、最終仕向地及び最終使用者は、実際はシリアの使用者であったにもかかわらず、イラク電気通信省またはアフガンのインターネット・サービス・プロバイダーLiwalnetであるとの虚偽の表明を行った。そしてBlue Coatはアラブ首長国連邦のComputerlinksに向けて船積みし、Computerlinksは必要な許可を得ずしてさらにシリアに向けて船積みした。
 2013年4月24日、Computerlinksは、法定の上限である280万ドルの民事上の罰金を支払うとともに、同社の輸出規制コンプライアンス・プログラムについて3回の外部監査を受けることに同意した。「シリア国民の抑圧を助長するために使われる恐れのある技術を我々はシリア政府の手が届かないところに置くことが極めて重要である」と産業安全保障商務次官エリック L. ハーシュホーン(Eric L. Hirschhorn, Under Secretary for Industry and Security )が述べている。[本件の経緯は、前出「こんなことがあなたに起こらないように ”Don’t Let This Happen To You!”」から引用した。]

レンタルによる秘密裏の迂回(Rental Diversion on the Sly)

 私は一時期、米国に本拠を置く会社(GlobalRentzと呼んでおこう)のチーフ・コンプライアンス・オフィサーを務めていた。その会社は、国際企業に衛星通信機器をレンタルしていた。会社は、VSAT(超小型地上局)衛星通信機器を在シンガポールの中国企業である顧客に納めた。しかし顧客はその後、当該機器をイランにおける自分のプロジェクトで使うため、イランに持って行くつもりだと言い出した。GlobalRentzは当該機器を取り戻すことができなかった。一方、シンガポールを拠点とするGlobalRentzの上級技術者は、シンガポールのGlobalRentzへのシンガポールの供給業者の下請けとして、中国顧客に対しマネージド・テクニカル・サービスを継続して提供することを引き受けた。驚いたことに、当時のGlobalRentzシンガポール事務所の所長は米国本社に相談もせずに、この取引を承認してしまった。
 GlobalRentzシンガポールの当該所長は、別の地域の事務所の運営を手伝うためにシンガポールを離れた。その後任者は、経営会計報告を精査していて、技術者の異常な取引を発見した。彼は、シンガポールの供給業者からGlobalRentzシンガポールへのサービス対価の支払いに偶々気付いたのである。(供給業者は供給業者であって顧客ではないので)、むしろGlobalRentzシンガポールがこの供給業者に代金を支払うはずである。GlobalRentzは社外弁護士を雇ってこの危険信号を突き詰めるための調査を行った。その結果、イランにおける中国顧客のプロジェクトを支援するためにマネージド・テクニカル・サービスを不正に迂回輸出していたことが判明した。

(その3に続く)
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初出:FRAUDマガジン47号(2015年12月1日発行)

この記事の執筆者

Robert J. Ward Jr., Esq., CFE, CUSECO
ヒューレット・パッカードの全世界通関・輸出管理コンプライアンス部長(global customs and export controls compliance manager )であり、米国公認輸出管理責任者(Certified U.S. Export Compliance Officer)である。
翻訳協力者:鈴木幸弘、CFE、CIA
※執筆者・翻訳協力者の所属等は本記事の初出時のものである。

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 さらに米国は他の多くの国、特別指定国、及び、取引禁止企業・組織に対して一定の経済制裁を課している(参照:http://tinyurl.com/o9uhv2g)。企業は、当然のことながら、これらを含めブラックリストに載った企業・組織と取引を行わないようにしなければならない。 一方、米国商務省産業安全保障局(U.S. Department of Commerce’s Bureau of Industry)は輸出規制や禁輸を実施している(参照:連邦規則集15巻 15 CFR Parts 744 and 746, http://tinyurl.com/o9uhv2g)。これらの規制には、原子力、生物・化学兵器、およびミサイル発射システムの拡散国家である最終使用者に対するものが含まれる(参照:15 CFR Part 744)。法は、全ての輸出関連書類に、少なくとも、「これらの商品、技術、ないし、ソフトウエアは米国から輸出管理規則(Export Administration Regulations, EAR)に従って輸出された。米国法に反する迂回は禁じられている。」[参照:15 CFR §758.6(a)]と記した最終仕向地規制文書が含まれていなければならないと規定している。 EARに従い、政府は違反行為ごとに100万ドル以下の刑事上の罰金と20年以下の懲役刑を科すことができ、一方、行政上の罰金は違反行為ごとに25万ドルまたは違反取引額の2倍のどちらか大きい額までとされる(参照:http://tinyurl.com/p3b7w3g)。 OFACによる経済制裁に対する故意の違反の場合は、刑罰は2,000万ドル以下の罰金と30年以下の懲役である。また、米国の対敵国通商法(Trading with the Enemy Act)は、違反行為ごとに65,000ドルまでの範囲となる。他方、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act)の違反の民事罰は違反行為ごとに25万ドルまたは違反取引額の2倍以下の範囲となる(参照:http://tinyurl.com/ooysbzs)。
2018.07.06 16:35:25