禁輸国への迂回輸出の防止 輸出規制・経済制裁違反の回避(その1 全4回)
Prevent diversions to forbidden nations.
Avoid export controls and sanctions violations.
米国に本拠を置く会社は、無防備でいると、従業員や顧客が自社の製品を禁輸国へ迂回輸出してしまうことを防止できず、苦境に陥る可能性がある、本稿は、どのようにすれば巨額な民事・刑事賠償金が科されずに済むかを論ずるものである。
ジョン・キャリントン(John Carrington)は、ノースキャロライナ州の元上院議員であり、サーチ・フィンガープリンツ社(Sirchie Fingerprints)という警察犯罪捜査科学機器の販売会社の社長兼CEOであった。彼は、ある製品を香港と中国に販売したいと考えた。しかし、米国輸出規制の許可を得る必要があるという要請に邪魔されたくなかった。彼は手っ取り早くイタリアの提携先宛に製品を船積みし、提携先は、満足な報酬を得て、これをキャリントンの中国の客先に送った。連邦政府は結局キャリントンを逮捕し、2005年に85万ドルの罰金刑、1年間の保護観察と5年間のあらゆる物品の輸出禁止を科した。サーチ・フィンガープリンツ社にも5年間の輸出禁止と40万ドルの民事上の罰金が科された。しかし、豪胆にもキャリントンは、自分の別会社を通して違法な輸出を続けた。政府は再び彼を逮捕し、2010年、彼の別会社は10件の違反行為に対する250万ドルに加え、1,010万ドルの刑事上の罰金を払うとともにさらに5年間の輸出禁止を余儀なくされた。[本件の経緯は、2014年7月米国商務省産業安全保障局(U.S. Bureau of Industry and Security, BIS)の冊子「こんなことがあなたに起こらないように(題名は訳者訳)“Don’t Let This Happen To You!"」から引用した。[参照:http://tinyurl.com/nstvwxz]
法の執行件数の増加(Increasing Enforcement)
米国を拠点とする数十の会社が、違法と知ってか知らずして、シリアなどの輸出禁止国や中国などの連邦政府による輸出管理上の許可制度や付随する諸条件による厳しい監視を必要とする国々の企業や個人に向けて再販売させることを専ら目的として、連邦政府が許容している国の客先に販売することにより、製品を不当に迂回輸出している。
米国連邦政府は、国家安全や外交政策の目標を達成するため、経済制裁や輸出規制を増々強化しつつある。その結果、米国に本拠を置く企業は、不正な迂回輸出を防止するためのより有効な内部統制を構築しなければならない。適正な予防措置を怠ると、罰金は、刑事・民事とも、巨額となる。米国財務省外国資産管理局(Office of Foreign Asset Control, OFAC)だけでも、海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act, FCPA)の違反行為に対する罰金に匹敵するほどの罰金支払い命令を発している(参照:http://tinyurl.com/3c8ld8q)。
他の国も同様に不正な迂回輸出を厳重に取り締まっている。ウクライナ危機に関連してEUと米国とが共同で行ったロシアに対する経済制裁がそれである。そして、輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント(Wassenaar Arrangement)は、(現在42か国が加盟しているが)無許可の最終使用者への輸出や最終用途への転用に向けた迂回を防ぐため、適正な取引審査手続きを実行することを求めている(参照:http://tinyurl.com/ouc2qr7)。
本稿では、迂回輸出を防ぐための米国における規制を概観する。これはワッセナー・アレンジメントの他の批准国と類似している。また、いくつかの事例研究を行い、さらに、1) 販売担当者への報酬との兼ね合い、2) 国際取引コンプライアンス担当者が必要なときに取引を停止する権限の付与、および、3) 最終使用者や最終用途に関する適当かつ適正な取引デューディリジェンスの実施、についてのベストプラクティスを検討する。
迂回を防ぐための米国における規制(U.S. requirements for Preventing Diversion)
本稿を公表する時点において、OFACはキューバ、クリミア、北朝鮮、シリア、スーダン等の国々についてはほぼ完全な禁輸措置を取っている(参照:http://tinyurl.com/pumqgll)(イランへの禁輸は7月14日付で核抑制合意が発表されたことにより今後変化する可能性がある)。
一方、対キューバ禁輸については、オバマ政権がその解除を押し進めている。そして、議会は、上院ファイナンシャル・サービス予算法案に対する7月23日付の上院委員会修正案を可決して、その方向で動き始めている(参照:MSNポータルサイトのロイター記事「上院委員会がキューバへの旅行禁止に終わりを告げる修正法案を議決 ”Senate panel passes amendment to end restrictions on travel to Cuba”」http://tinyurl.com/o4wju6e)。
(その2に続く)
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初出:FRAUDマガジン47号(2015年12月1日発行)