HOME コラム一覧 愉快犯による横領 不正のトライアングルは愉悦でのみ盗みをする不正実行者を説明しない(その2 全4回)

愉快犯による横領 不正のトライアングルは愉悦でのみ盗みをする不正実行者を説明しない(その2 全4回)

その他
post_visual

クレッシーの方法論(Cressey’s methodology)

 クレッシー は3つの刑務所の503人の収容者の事案をレビューした。彼は、横領、受託者による不正、一般的な不正、横領と考えられるその他の犯罪を含む不正を精査することにより、対象者を特定した。彼は当初の事案の集団を、正確な刑事責任と事案の概要を検証することにより絞り込んだ。(“Other People’s Money”, p.23)
 多くの事件はクレッシーが研究したかった事実や背景もしくは犯罪行為の類型を含んでいなかったため、彼はそれらを研究の対象から除外した。実際、クレッシーは、この研究の目的は「社会における犯罪行為を説明することではなかった。そうではなく、中心的問題は、経済的に信頼を得ている人物がその信頼を裏切るという事実により示される行為の相違を説明することである(p.12)」。と述べている。
 最初の選別を通して、クレッシーは、元々インタビューを行う予定であった事案関係者の集団を、133の検証すべき事案に更に絞った(p.25)。クレッシーは以下の条件に当てはまる対象者による事案だけに絞った。
・全くの善意から信頼される地位に就いた者
・罪を犯すことでその信頼を裏切った者(p.20)
 限定された要因は、特に熟考を重ねた不正行為や盗みを働きやすい傾向を持つ者の事案は除外したようだ。
 クレッシーがインタビューの対象の候補者の集団をさらに選別するため、候補者はまず、一連の予備的な質問に回答した。彼は、不正を目的に就業したことや自分自身のために盗みを働いたこと、そして過去に同じ行為をしたことを認めた者を調査対象から除外した。例えば、商品であるトラックの積み荷を盗むため異なった種類の運転免許証を取得したことを認めた者(p.22)、会社から盗むために職に就いたことを認めた者(p.25)、 自分が「詐欺師」であることを認めた者(p.25)、そして金を盗んだ時は自分自身で使おうしていたことを認めた者(p.25)などである。
 クレッシーは、自分の研究は、信頼される地位にいてかつ従前は盗みの性向がなかった人々が突然盗みの衝動に駆られる理由に焦点を当てたと、著書の中で述べている。 特にクレッシーは、自分が犯した行為は就職時には頭に浮かびもしなかったと述べる対象者を捜した。 クレッシーは結局のところ次のような人々だけに聞き取り調査をし、研究対象とした。不正をはたらく性向や計画的な意図を持たず、信頼されてその地位に就いた人々である。クレッシーの最終的な仮説は「信頼された人間が背信者となるのは、他人に打ち明けられない金銭上の問題を抱え込み、金銭を信託された自分の立場を悪用すればその金銭上の問題を秘密裏に解決できると認識して、自分は信頼されているのだから、託された資金もしくは資産を利用してもよいのだという言い方をその状況における自らの行動に当てはめることができる場合である1 (p. 30)」
 それゆえ、この最終的な仮説を読むと、不正のトライアングル理論に至るのだが、彼の研究が全てのホワイトカラー犯罪はもちろん全ての横領罪を要約しようと試みたものではないことがわかるだろう。クレッシーの理論は、自分に与えられた信頼を誇りとする意思を持って信頼ある地位に就いた人々についての研究を基礎としている。

他人に打ち明けられない問題の役割(The role of a non-shareable problem)

 この理論における他人に打ち明けられない問題の要素についての議論が必要である。なぜならこれは、不正のトライアングルについて講演する者の多くが、貪欲の特徴に取りつかれた例を持ち込む分野であるからだ。
 クレッシーは、研究の対象者に、「過去にも不正を行なえるような信頼された立場にあったにもかかわらず、不正行為を犯さなかった理由、あるいはもっと早い時期にその地位を裏切らなかったかの質問に答えるように依頼した2。得られた回答には次の3つの共通点があった。 (a)以前は今回のような必要性がなかった。(b)そのようなことを考えてもみなかった。(c)以前は、それは不正直なことだと思ったが、今回は初めのうちは不正直とは思えなかった。」(p.33)
 クレッシーはこれらの回答を、他人に打ち明けられない問題という概念を発展させるために使用した。他人に打ち明けられない問題という要素は、以前は考えもせず、その必要もなく、不正直だと考えていた不正を行って彼らが有罪となった場合にその理由を質問された時に対象者達が使った説明である。クレッシーは、他人に打ち明けられない問題を、対象者が「より客観的に見ればその問題の解決を支援してくれたであろう人々には打ち明けられない金銭的な問題に直面している3」と信じていた問題であると定義した。(p.34)
 クレッシーはこの定義に関する議論のポイントをいくつか提供する。 第一に、問題が他人に打ち明けられるかどうかの考えは対象者の認識の問題である。多くの場合、他人に打ち明けても問題は解決できないというのは間違いである。私が関係したいくつかの事案での対象者の知人の反応は、「もし話してくれたら、助けてあげられたかもしれないのに」というものであった。したがって、もし従業員が彼らの「問題」に、より客観的な視線を向けていたら、彼らは自分を助けられる地位にいる人達と彼らの課題や問題を議論できたかもしれない。事実、多くの組織は従業員が不正という手段に頼ることがないよう、個人的な問題と解決法を話し合うことを奨励する従業員支援プログラムを設けるようになった。

(その3に続く)
---------------------------------------
注1. この部分の日本語訳は、Joseph T. Wells(2007)CORPORATE FRAUDHANDBOOK Prevention and Detection Second Edition ジョセフ・T・ウェルズ 八田進二・藤沼亜起(監訳)ACFE JAPAN(訳)企業不正対策ハンドブック―防止と発見― 第 2版 (2009)第一法規から引用した。
注2. 同上
注3. 同上

初出:FRAUDマガジン46号(2015年10月1日発行)

この記事の執筆者

Robert L. Kardell, J.D., CFE, CPA, CFF
FBI(Federal Bureau of Investigation)の特別捜査官である。ACFE教育諮問委員会(ACFE Editorial Advisory Committee)のメンバーでもある。

※執筆者の所属等は本記事の初出時のものである。

関連リンク

不正リスク(バックナンバー一覧)

均衡を揺るがす 有罪・無実の偏見をもつことなかれ (その1 全4回)

神の恵みは我のもの なぜ、礼拝所は不正行為の犠牲者になるのか(その1 全4回)

コンピューターが支援する面接調査:現実か愚行か?(その1 全4回)

愉快犯による横領 不正のトライアングルは愉悦でのみ盗みをする不正実行者を説明しない(その1 全4回)

コラム
/column/2018/img/thumbnail/img_24_s.jpg
 クレッシー は3つの刑務所の503人の収容者の事案をレビューした。彼は、横領、受託者による不正、一般的な不正、横領と考えられるその他の犯罪を含む不正を精査することにより、対象者を特定した。彼は当初の事案の集団を、正確な刑事責任と事案の概要を検証することにより絞り込んだ。(“Other People’s Money”, p.23) 多くの事件はクレッシーが研究したかった事実や背景もしくは犯罪行為の類型を含んでいなかったため、彼はそれらを研究の対象から除外した。実際、クレッシーは、この研究の目的は「社会における犯罪行為を説明することではなかった。そうではなく、中心的問題は、経済的に信頼を得ている人物がその信頼を裏切るという事実により示される行為の相違を説明することである(p.12)」。と述べている。 最初の選別を通して、クレッシーは、元々インタビューを行う予定であった事案関係者の集団を、133の検証すべき事案に更に絞った(p.25)。クレッシーは以下の条件に当てはまる対象者による事案だけに絞った。・全くの善意から信頼される地位に就いた者・罪を犯すことでその信頼を裏切った者(p.20) 限定された要因は、特に熟考を重ねた不正行為や盗みを働きやすい傾向を持つ者の事案は除外したようだ。 クレッシーがインタビューの対象の候補者の集団をさらに選別するため、候補者はまず、一連の予備的な質問に回答した。彼は、不正を目的に就業したことや自分自身のために盗みを働いたこと、そして過去に同じ行為をしたことを認めた者を調査対象から除外した。例えば、商品であるトラックの積み荷を盗むため異なった種類の運転免許証を取得したことを認めた者(p.22)、会社から盗むために職に就いたことを認めた者(p.25)、 自分が「詐欺師」であることを認めた者(p.25)、そして金を盗んだ時は自分自身で使おうしていたことを認めた者(p.25)などである。 クレッシーは、自分の研究は、信頼される地位にいてかつ従前は盗みの性向がなかった人々が突然盗みの衝動に駆られる理由に焦点を当てたと、著書の中で述べている。 特にクレッシーは、自分が犯した行為は就職時には頭に浮かびもしなかったと述べる対象者を捜した。 クレッシーは結局のところ次のような人々だけに聞き取り調査をし、研究対象とした。不正をはたらく性向や計画的な意図を持たず、信頼されてその地位に就いた人々である。クレッシーの最終的な仮説は「信頼された人間が背信者となるのは、他人に打ち明けられない金銭上の問題を抱え込み、金銭を信託された自分の立場を悪用すればその金銭上の問題を秘密裏に解決できると認識して、自分は信頼されているのだから、託された資金もしくは資産を利用してもよいのだという言い方をその状況における自らの行動に当てはめることができる場合である1 (p. 30)」 それゆえ、この最終的な仮説を読むと、不正のトライアングル理論に至るのだが、彼の研究が全てのホワイトカラー犯罪はもちろん全ての横領罪を要約しようと試みたものではないことがわかるだろう。クレッシーの理論は、自分に与えられた信頼を誇りとする意思を持って信頼ある地位に就いた人々についての研究を基礎としている。
2018.06.08 16:46:58