HOME コラム一覧 愉快犯による横領 不正のトライアングルは愉悦でのみ盗みをする不正実行者を説明しない(その4 全4回)

愉快犯による横領 不正のトライアングルは愉悦でのみ盗みをする不正実行者を説明しない(その4 全4回)

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クレッシーの方法論(Cressey’s methodology)

 クレッシーはいくつかの理由から、正当化の反対語として「裏切り者の語彙修正」という言葉を特に用いる。 まず、彼は、伝統的な意味での正当化は個人的正当化に続く行為を指していると指摘する。最初に行動があり、次に正当化が続く。この事後の正当化は、対象者は、正当化がなくても安心してその行為をしたことを示すかもしれない。このようなレベルの安心感はある性向を示唆する。研究の対象者は、しかしながら、彼らの行動に先立ってその行動を正当化していた。彼の研究では全ての事例で、正当化は行動の前に現れている。しかし、安心してその行動を取るためには、対象者は彼ら自身にとってより受け入れやすい言葉で行動を説明するために自らの語彙を修正しなければならなかった。したがって、対象者は行動を正当化するために彼の語彙を修正する方法を見つけなければならなかった。この修正は、通常の事後的正当化とは異なるとクレッシーは強く主張する。
 次に、クレッシーは、伝統的な形式の「正当化」という用語は、対象者の行動を他の人に説明するための言語表現であることを示していると説明する。しかし、「語彙の修正」という言葉は、言語表現があろうとなかろうと、対象者が心底自分自身をより安心させることを示している。よって、盗みは現実に盗みであるかもしれないが、もし対象者が彼の言葉を盗みから「借用」に修正するなら、この修正によって、対象者は別の場合には誤りや不道徳とみなされたであろう行動をとることができるようになる。繰り返すと、対象者が彼の語彙を修正しなければならないという事実は、対象者は根っからそのような行為をする人間ではなかったことを表している。
 クレッシーは、正当化に関する発見を3つの部分からなる結論に要約している。
 1. 信頼を裏切る者の正当化は、犯罪的な信頼の裏切りに必要かつ不可欠である。正当化は既に実行済みの行為についての事後的な正当化ではなく、人が行動をとるために持っていた、妥当かつ本当の「理由」である。
 2. 信頼された人物のそれぞれが、自分の信頼の裏切りについて新しい正当化を発明したのではなく、彼は自分自身の状況に、そのような言語化が存在する文化に接したおかげで利用できるようになった言語化を適用する。
 3. 信頼を裏切った犯罪者が利用する正当化は、彼が信頼を裏切ったやり方とも、また彼の社会的・経済的地位ともある程度関連している。(p. 136–137)
 繰り返しになるが、この要約と結論は、これらの人々は信頼を裏切る性質を持っていたのではなく、むしろ彼らは自らの行為を正当化するために自分の語彙を修正する方法を見つけ、それらの修正をもとに行動することを示している。さらに、前述の結論におけるクレッシーの3番目の意見は、犯罪者は彼らが接触した文化の正当化を受け入れる傾向があることを示している。
 この意見を組織の行動に当てはめると、ACFEや不正検査士が何年もの間唱えてきたトップの姿勢という呪文は、より重要な意味を持つようになる。これらの正当化を作り出し、受け入れる文化に慣れ親しんだ従業員は、進んでこの正当化をするより多くの人々を作り始めるであろう、とクレッシーが示唆しているのだと私は信じている。クレッシーは1950年代初頭には、トップの姿勢を、そして役員室と組織の倫理を説いていたのだ!

雇用前の素行調査(Investigation of predisposition before hiring)

 彼の方法論を検証した結果、クレッシーは彼の研究の対象者を選ぶ際に、盗みを目的として信頼ある地位に就いた者や窃盗癖がある者は特に除外した。彼は、人々が盗みの意図や素質を持たずに信頼された地位を受け入れ、しかしその後に横領を通してその信頼された地位を裏切った場合を特に調べるべく研究を設計した。彼は、なぜ彼らの態度が変わったのか、または、なぜ彼らがこれらの場合は盗み、他の場合は盗まなかったのか、その理由を見つけ出そうとしていた。
 彼の初期の研究から、研究者たちは、数多くの不正やホワイトカラー犯罪の事例の説明するために、かれの研究の結論を展開してきた。しかし、我々は、この研究は対象者がずっと信頼された地位に就いており、そして彼らの雇用主が彼らを雇い入れたその瞬間から横領を開始した特定の横領に焦点を当てていることを再考すべきだと私は信じている。どのような結果になるだろう?組織は、誰かを雇用する場合は常に詐欺の意図や傾向の何らかの兆候を示すものはないか、厳しい経歴調査に力を入れるであろう。
 不正のトライアングルは、偉大なツールであるが、新規に雇用された者があなたの組織から騙し取ることを望む理由をいつも説明する訳ではない。雇用者はお金が必要だからではなく、楽しいから盗むかもしれないのだ。

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初出:FRAUDマガジン46号(2015年10月1日発行)

この記事の執筆者

Robert L. Kardell, J.D., CFE, CPA, CFF
FBI(Federal Bureau of Investigation)の特別捜査官である。ACFE教育諮問委員会(ACFE Editorial Advisory Committee)のメンバーでもある。

※執筆者の所属等は本記事の初出時のものである。

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 クレッシーはいくつかの理由から、正当化の反対語として「裏切り者の語彙修正」という言葉を特に用いる。 まず、彼は、伝統的な意味での正当化は個人的正当化に続く行為を指していると指摘する。最初に行動があり、次に正当化が続く。この事後の正当化は、対象者は、正当化がなくても安心してその行為をしたことを示すかもしれない。このようなレベルの安心感はある性向を示唆する。研究の対象者は、しかしながら、彼らの行動に先立ってその行動を正当化していた。彼の研究では全ての事例で、正当化は行動の前に現れている。しかし、安心してその行動を取るためには、対象者は彼ら自身にとってより受け入れやすい言葉で行動を説明するために自らの語彙を修正しなければならなかった。したがって、対象者は行動を正当化するために彼の語彙を修正する方法を見つけなければならなかった。この修正は、通常の事後的正当化とは異なるとクレッシーは強く主張する。 次に、クレッシーは、伝統的な形式の「正当化」という用語は、対象者の行動を他の人に説明するための言語表現であることを示していると説明する。しかし、「語彙の修正」という言葉は、言語表現があろうとなかろうと、対象者が心底自分自身をより安心させることを示している。よって、盗みは現実に盗みであるかもしれないが、もし対象者が彼の言葉を盗みから「借用」に修正するなら、この修正によって、対象者は別の場合には誤りや不道徳とみなされたであろう行動をとることができるようになる。繰り返すと、対象者が彼の語彙を修正しなければならないという事実は、対象者は根っからそのような行為をする人間ではなかったことを表している。 クレッシーは、正当化に関する発見を3つの部分からなる結論に要約している。 1. 信頼を裏切る者の正当化は、犯罪的な信頼の裏切りに必要かつ不可欠である。正当化は既に実行済みの行為についての事後的な正当化ではなく、人が行動をとるために持っていた、妥当かつ本当の「理由」である。 2. 信頼された人物のそれぞれが、自分の信頼の裏切りについて新しい正当化を発明したのではなく、彼は自分自身の状況に、そのような言語化が存在する文化に接したおかげで利用できるようになった言語化を適用する。 3. 信頼を裏切った犯罪者が利用する正当化は、彼が信頼を裏切ったやり方とも、また彼の社会的・経済的地位ともある程度関連している。(p. 136–137) 繰り返しになるが、この要約と結論は、これらの人々は信頼を裏切る性質を持っていたのではなく、むしろ彼らは自らの行為を正当化するために自分の語彙を修正する方法を見つけ、それらの修正をもとに行動することを示している。さらに、前述の結論におけるクレッシーの3番目の意見は、犯罪者は彼らが接触した文化の正当化を受け入れる傾向があることを示している。 この意見を組織の行動に当てはめると、ACFEや不正検査士が何年もの間唱えてきたトップの姿勢という呪文は、より重要な意味を持つようになる。これらの正当化を作り出し、受け入れる文化に慣れ親しんだ従業員は、進んでこの正当化をするより多くの人々を作り始めるであろう、とクレッシーが示唆しているのだと私は信じている。クレッシーは1950年代初頭には、トップの姿勢を、そして役員室と組織の倫理を説いていたのだ!
2018.07.05 18:24:34