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禁輸国への迂回輸出の防止 輸出規制・経済制裁違反の回避(その4 全4回)

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ベストプラクティス その3

 企業は、外国の自分の顧客の信頼性(真正性)に関する詳細情報を取り付けることにより、当該顧客をよく知り、迂回のリスクがないか判断すべきである。特に、企業は、二重用途物品の迂回輸出から自分の身を守ることができるよう、顧客情報を得るべきである。当該外国顧客がブローカー、貿易商社、または、物流センターである場合はなおさらである。

===筆者のコメント===
 色々なブラックリストとの照合への着手は、そのようなデューディリジェンスの努力の第一歩にすぎない。
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ベストプラクティス その4

 企業は、二重用途物品の輸出や物流にあたり、輸出者、外国の主たる受益者(Foreign Principal Party in Interest, FPPI)、及び、FPPIの米国における代理人との間で、長年にわたる信頼関係が確立していない限り、ルーティッド輸出取引を避けるべきである。
(訳者注: ルーティッド輸出取引(Routed Export Transactions)とは、FPPIが、米国からの品目の輸出を容易にするため、米国の運送その他代理店に権限を付与して行う輸出取引のこと(15 CFR Part 758参照))

===筆者のコメント===
 これは、外国の当事者、すなわち運送代理人と本人とが、米国からの輸出が合法的である旨を証明する必要がある事例である。
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ベストプラクティス その5

 仕向地規制文(Destination Control Statement, DCS)が求められる場合、輸出者は正確な輸出規制分類番号(Export Control Classification Number, ECCN)と当該品目が使用される最終仕向地を、最終使用者または最終荷受人への輸出ごとに、申告しなければならない。DCSが要求されない輸出については別の品目分類情報(EAR99)と最終仕向け地を、船荷証券、航空貨物運送状、売買契約書、その他商業書類に記載しなければならない。上記の規制品目あるいは非規制品目を再輸出する場合にも、同様の品目分類情報や仕向け地情報が輸出関連書類に記載されなければならない。

===筆者のコメント===
 こうしたベストプラクティスは、法の要求を超えるものではあるが、いつか輸出者が何らかの罰金を支払わざるを得なくなったような場合には、その減額を得るために、正当な注意を払い善意であったことを示すのに役立つはずである。
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ベストプラクティス その6

 輸出者または再輸出者は、ECCNないしEAR99品目分類を運送業者に提供し、また、電子輸出申請システム(Automated Export System, AES)で全ての輸出取引について、許可が不要であることを示す「許可不要」表示も含め、ECCNないしEAR99品目分類を報告すべきである。

===筆者のコメント===
 これは輸出者が、許可不要となる全てに要件を意識してチェックしたこと、及び、過去もそうであったように将来にわたっても要件を満たす意思があることの証明となる。
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ベストプラクティス その7

 会社は、迂回輸出の脅威と戦うにあたり、「顧客を知ること」やその他デューディリジェンスの手段を増強するため、そして船積みした商品が許可された使用目的を有する許可された最終使用者に届くことの確証を強めるため、情報技術を可能な限り最大限に活用すべきである。

===筆者のコメント===
 法令順守を確実にする最新鋭の方法は、船積みした商品を追跡するための運送取扱業者のウェブ・ポータルを統合することである。無線自動識別(RFID)技術によりこの追跡はより手軽に行えるようになった。第2回~3回で取り上げたレンタル機器の事例で、我々は、起こりうる不正な迂回輸出をリアルタイムで監視できるよう、米国原産の機器にGPS追跡装置を装着する可能性すら検討した。
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さらなる考察(Further Considerations)

 企業は、不正な迂回輸出を避けるためにさらに幾つかの方策をとることができる。全ての従業員(米国外で生まれた従業員も含む)、特に米国内に居住していない者に対して、全世界の経済制裁や輸出規制についての訓練をしなさい。(BIS自身、定期的な訓練を行っている。参照:http://tinyurl.com/pkndet5)
 ある一定の国々(香港、シンガポール、アラブ首長国連邦)は不法な積み替えの発生頻度が高いことで知られている。BISはこれらの国々に加え、中国、インド、ロシアに7人の輸出管理官を送っている(参照:「輸出規制担当国務次官補デビッド W. ミルズによる2014年7月30日のアップデート会議での基調講演 “Keynote Speech of David W. Mills, Assistant Secretary for Export Enforcement UPDATE Conference, July 30, 2014” 」http://tinyurl.com/qabj4ed)。企業は、これらの国の支店、子会社、販売代理店の従業員に対し、直接の訓練を実施すべきである。販売担当者へのボーナスや手数料を決める算式には輸出規制適合状況を重要業績評価指標(key performance indicator)として加えるべきである。
 最後に、米国武器輸出管理法(International Traffic in Arms Regulations)
(参照:22 CFR §120.25, http://tinyurl.com/njj6d89)における「権限を与えられた役員」と同様の概念であるが、輸出をする企業には、国際取引コンプライアンス役員を置いて、危険信号が点滅している取引を停止させる権限を付与すべきである。企業は、それらのコンプライアンス役員に、積み替えの頻度が高い国々における従業員と一緒になって、提案された出荷についてのデューディリジェンスを遂行することを義務付けるべきである。
 米国に拠点を置く企業がその製品の不正な迂回輸出を防ぐ努力をしない場合には、訴追、刑事・民事の罰金、輸出に関する諸特権の剥奪、そして、一定の風評被害を覚悟しなければならない。

著者が述べている意見は、彼自身のものであり、必ずしもヒューレット・パッカード社(Hewlett-Packard) としての意見を表明したものではない。

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初出:FRAUDマガジン47号(2015年12月1日発行)

この記事の執筆者

Robert J. Ward Jr., Esq., CFE, CUSECO
ヒューレット・パッカードの全世界通関・輸出管理コンプライアンス部長(global customs and export controls compliance manager )であり、米国公認輸出管理責任者(Certified U.S. Export Compliance Officer)である。
翻訳協力者:鈴木幸弘、CFE、CIA
※執筆者・翻訳協力者の所属等は本記事の初出時のものである。

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