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オクラホマ州ヒールトンの災難 事例が明かす非営利団体不正の高い発生率(その4 全4回)

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格好のターゲットのための対策(Remedies for easy targets)

 多くの小規模非営利組織では、従業員間で信頼を大切にし「我々は皆、家族だ」という考え方を育む。このアプローチでは、緩い内部統制と監査があらゆる不正を見破るだろうという思い込みとが相まって、そのような組織は金融詐欺犯罪者の格好のターゲットとなる。財務の経験のある議員を欠いた市議会ではさらに問題が悪化する。
 組織は、不正の可能性を小さくするために会計方針と手続きマニュアルを作成すべきだ。マニュアルには、内部統制の手順について明確な説明を含むべきである。例えば請求書などの行政機関の支出について、請求、承認、確認、記録、監視といった順を追った手順である。
 このマニュアルにはまた、コンピュータシステムのアクセス、データ入力、記録変更の権限の正しい手順や、電子データ保管の手順を含めるべきである。明確に書かれた職務説明書には、議会議員、組織の事務員や従業員の役割が説明されているだろう。組織が小さすぎるまたは、従業員がマニュアルを作成する知識がない場合は、類似する非営利団体のマニュアルを適用すればよい。(参照:「オクラホマ法規-11章 市および町」” Oklahoma Statutes – Title 11. Cities and Towns” http://tinyurl.com/3z74zy4)
 ヒールトンの市議会は、経営責任を放棄、無視、または誤解した。市のガバナンスである議会経営という形でヒールトンは運営されている。市のガイドラインは、州法に基づく。オクラホマ州法によると、
「・・・法定議会経営で運営されている市の全権は、政策の問題決定も含めて、議会に帰属するものとする。これに制限されることなく、議会は、・・・4.市の事務所、部署、機関の運営について調べ、市政について調査をし、これらの調査を承認し、準備を行うこととする。」(Laws 1977, c. 456, S10-106, eff. July 1, 1978)
 法的視点から、この声明は議会に受領した市の財務報告書について質問をする権利を与えている。権限を監査役や市政代行官に委ねる必要はない。
 2年間に渡り公認会計士からの意見を得られなかったことでヒールトンの議会の注意を引くことができたはずだった。2010年に雇用された新任の市政代行官は、監査役の懸念に対処しようとしたが、議会議員は興味を示すことなく、その問題について一石を投じるのを嫌がった。議会議員は、監査役が指摘した財政問題は議会の問題ではないと信じていた。
 金融詐欺の責任について、経営者や議会議員は常に法的に影響を受けないとは限らない。ニューヨークにある非営利団体で、学生に住居を賃貸するエデュケーション・ハウジング・サービス(EHS)の取締役員は、EHSで起こった不正の清算の一部として、自己資金で100万ドルの返済を求められた。その不正はガバナンスの破綻とみなされた。なぜなら、取締役会が、合理的にアクセス可能な不正契約に不注意でいたからである。(参照:「『驚愕の』不注意:役員が、不正事件で自己資産100万ドルの支払い請求」“ ‘Stunning’ Negligence: Trustees Must Personally Pay $1M in Fraud Case,” by Ruth McCambridge, Nonprofit Quarterly, Dec. 11, 2012, http://tinyurl.com/qyc3zj2.)

うっかり注意を怠るということ(Asleep at the switch)

 ヒールトンの金融詐欺は、繰り返しになるが、小規模非営利団体においてさえも強固な内部統制が必要だという良い例になっている。横領される資金額は巨額でないように見えるが、損害は計り知れない。正確な損失額は財務記録や報告書が破損しているため、まだ確定されていない。2011年のヒールトン市の監査報告の指摘事項(後述)は市が直面していた財政的問題について市議会や市政代行官への警告となるはずだった。だが、実際にはそうはならなかったのである。

2011年度ヒールトン市会計報告書に見られた明らかな危険信号

「オクラホマ州ヒールトン市決算報告書 2011年6月期」(City of Healdton, Oklahoma, Financial Statements, Year-End June 30, 2011) にある「調査結果と対応の明細」(Schedule of Findings and Responses) の抜粋から、市議会と人々が見逃した危険信号が見て取れる。
・調査された請求書25件の内4件は、購入日が請求日よりも後であった。
・注文書25件の内、6件は書面の承認を得ていなかった。
・25件の支出の内、1件は裏付ける書類がなかった。
・公共料金調整勘定25回の内、6回は承認なしに準備され入力された。
・市は、決算報告書を用意するために作られた試算表が最終版であったかを特定するシステムを持っていない。
・経営陣は、リスク管理のためのシステムを構築する責任がある。たとえそれが外注されても構わない。
・預金が一営業日以内でされていない。
・同一人物が、現金徴収、公共料金調整勘定、現金の用意と預金に関与している。
(出典:http://tinyurl.com/p2tz232)

この記事の執筆者

G. Stevenson Smith, Ph.D., CPA, CMA Ph.D.、CPA、CMA
オクラホマ州デュランにあるサウスイースタン・オクラホマ州立大学のジョン・マッセイ寄付講座教授兼経営学部会計学の教授である。
Theresa Hrncir Ph.D.、CPA
オクラホマ州デュランにあるサウスイースタン・オクラホマ州立大学の経営学部会計学の教授である。
※執筆者の保有資格等は本記事の初出時のものである。

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 多くの小規模非営利組織では、従業員間で信頼を大切にし「我々は皆、家族だ」という考え方を育む。このアプローチでは、緩い内部統制と監査があらゆる不正を見破るだろうという思い込みとが相まって、そのような組織は金融詐欺犯罪者の格好のターゲットとなる。財務の経験のある議員を欠いた市議会ではさらに問題が悪化する。 組織は、不正の可能性を小さくするために会計方針と手続きマニュアルを作成すべきだ。マニュアルには、内部統制の手順について明確な説明を含むべきである。例えば請求書などの行政機関の支出について、請求、承認、確認、記録、監視といった順を追った手順である。 このマニュアルにはまた、コンピュータシステムのアクセス、データ入力、記録変更の権限の正しい手順や、電子データ保管の手順を含めるべきである。明確に書かれた職務説明書には、議会議員、組織の事務員や従業員の役割が説明されているだろう。組織が小さすぎるまたは、従業員がマニュアルを作成する知識がない場合は、類似する非営利団体のマニュアルを適用すればよい。(参照:「オクラホマ法規-11章 市および町」” Oklahoma Statutes – Title 11. Cities and Towns” http://tinyurl.com/3z74zy4) ヒールトンの市議会は、経営責任を放棄、無視、または誤解した。市のガバナンスである議会経営という形でヒールトンは運営されている。市のガイドラインは、州法に基づく。オクラホマ州法によると、「・・・法定議会経営で運営されている市の全権は、政策の問題決定も含めて、議会に帰属するものとする。これに制限されることなく、議会は、・・・4.市の事務所、部署、機関の運営について調べ、市政について調査をし、これらの調査を承認し、準備を行うこととする。」(Laws 1977, c. 456, S10-106, eff. July 1, 1978) 法的視点から、この声明は議会に受領した市の財務報告書について質問をする権利を与えている。権限を監査役や市政代行官に委ねる必要はない。 2年間に渡り公認会計士からの意見を得られなかったことでヒールトンの議会の注意を引くことができたはずだった。2010年に雇用された新任の市政代行官は、監査役の懸念に対処しようとしたが、議会議員は興味を示すことなく、その問題について一石を投じるのを嫌がった。議会議員は、監査役が指摘した財政問題は議会の問題ではないと信じていた。 金融詐欺の責任について、経営者や議会議員は常に法的に影響を受けないとは限らない。ニューヨークにある非営利団体で、学生に住居を賃貸するエデュケーション・ハウジング・サービス(EHS)の取締役員は、EHSで起こった不正の清算の一部として、自己資金で100万ドルの返済を求められた。その不正はガバナンスの破綻とみなされた。なぜなら、取締役会が、合理的にアクセス可能な不正契約に不注意でいたからである。(参照:「『驚愕の』不注意:役員が、不正事件で自己資産100万ドルの支払い請求」“ ‘Stunning’ Negligence: Trustees Must Personally Pay $1M in Fraud Case,” by Ruth McCambridge, Nonprofit Quarterly, Dec. 11, 2012, http://tinyurl.com/qyc3zj2.)
2018.08.24 16:21:27