記憶に残る事例Part1 指導されるべき簡潔で力強い物語(その2 全4回)
ブローリーは「これは、2000年台半ばでの象徴的な事例です」と言う。彼女によると、住宅供給と住宅資金融資の両業界の関係者の多くは、価格の安定化や上昇傾向をマーケットの回復基調を示唆するものとして受け取っていた。「これは眉唾もの」ではないかと疑う関係者は誰一人としていなかった。しかし、これは実際、赤信号だった。景気後退基調での多額の販売実績と持続可能な物件価格自体は道理にかなっていなかった。
強欲、プレッシャーとタイミング(Greed, pressure and timing)
ブローリーによれば、詐欺師達は強欲、プレッシャーとタイミングの故に犯罪に手を染める。「一つの寄与要因は開発業者に提供されていた建設融資ローンでした。これは条件付きの数億ドル単位の融資で、ある期日までに一定の数量の販売実績に達しない場合、100万ドルの払戻し不可の供託金の権利を放棄するという但し書きが付記されていました。このような建設融資ローンが認められるようになると、急激にマーケットが動き出しました」と彼女は言う。
そしてブローリーは次のように続ける。「困難な物件販売という状況下で、融資条件のプレッシャーが開発業者を過度のインセンティブで買い手を釣るという住宅ローン不正に走らせた」と述べている。「4年後に融資が焦げ付いて債務不履行となった時、つまり開発業者は返済金の支払いが不能となった時、融資機関における損害が25万ドルに達しました」
住宅ローン不正の発見(Discovering the fraud)
ブローリーによれば簡単なデータマイニング(データベース分析)を通してその不正を発見できたそうである。彼女は、「普通はもっと洗練されたデータマイニングツールを使うのですが、この時はローンデータの比較的単純なエクセルでのクエリ(データ抽出・データベース検索要求)を使うことですみました」と言う。
「このタイプのスキームに関して、我々のデータマイニングは地心的(Geo-Centric)でした。同一の開発案件における、特定の短い期間に組まれた大型融資ローンを識別するために郵便番号ごとにデータ検索をしてみたのです。それから、同一の物件販売主、ローン担当者、査定担当者、登記代理人などをキーにしてこの融資を受けた人々の他の特徴を見てみました。これらの融資では大概、融資比率、FICOスコア(信用度スコア)、雇用主や金融機関といった点で似通った特徴が現れたのです」
不正調査:インタビューと文書化(Fraud examination: interviewing and documentation)
ブローリーは、融資の開始から実行までの様々な局面で多くの人物が関与していたので、面接調査の過程が複雑であったと述べている。「できる限り全ての融資関係者とインタビューを行い、それぞれで話の辻褄が合わないことに気づきました」
ブローリーは、この事案は実際大変だったと言う。「住宅ローン不正の確証となり、またその多数の関係者の関与を示唆する文書と証拠を手にすることができましたが、当初、警察側は実損がなく融資実行中であることから、あまり積極的ではありませんでした。それでも私は辛抱強く何度も連絡を取りました。融資ローンが債務不履行となり融資機関における実損が表面化してはじめて、連邦捜査機関は訴追のために必要な損害を示すことができるようになり、その事案に対して行動するようになったのです」
彼女は連邦捜査局 (FBI)、連邦住宅金融局 (FHFA) の監察官と緊密に作業を進めた。8年後、開発業者、融資担当者、不動産業者、さらに契約担当弁護士など7名の被告が起訴された。4名が有罪を認め、3名は裁判で有罪判決を受けた。
「契約担当弁護士に対して面接調査を3回行いましたが、その度に弁護士である彼女は面と向かって虚言を述べました。私は彼女に対して、インセンティブの合法性を説明するために融資元に提供されたことになっているが、消失している書類について尋ねました。彼女は、今は手元に無いが確かにそれらの書類を持っていたと主張しました。私のインタビューノートにその発言が記録されています」
(その3に続く)
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初出:FRAUDマガジン49号(2016年4月1日発行)